王太陽は、大抵ご機嫌だ。
身体から発するオーラが見えるとしたら、王太陽のそれは、間違いなく金色をしていると思う。
彼がいるだけで、その場がパッと明るくなる。
LEDみたいな男だ。
昼休み、購買に弁当を買いに行っていた彼が戻ってくるなり、さっそく教室内が目に見えて活気づく。
彼は、弁当をふたつ購入していたが、そのうちのひとつは、太巻き寿司といなり寿司のカップリング、助六寿司だった。
助六寿司と、ペットボトルの、あったか~いお茶。微妙に、ジジむさい。
「のり巻き、好きなんだ?」
持参した弁当を食べながら、訊いてみた。
王太陽は、ニカッと笑い、
「のり巻きも好きだけどさ、おいなりさんの方がもっと好きなんだよね」
おいなりさん。
「おいなりさんって、おれも好きだけど、市販のものは、苦手かも。油揚げの味が濃すぎて」
「さすがは、律。小姑みたいだな」
「……薄味が好きなだけだよ」
王太陽は、おれの弁当箱のふたに、いなり寿司をひとつのせた。
「食って、確認してみ。濃いか薄いか」
ありがたかったが、実を言えば、もうひとつの焼肉弁当の肉を狙っていた。
あてがはずれた。
とはいえ、自分の好物をひとに分けてあげられるところは、いかにも王太陽らしい。
おれも、自分の弁当箱から、刻んだ長ネギ入りの玉子焼きをひとつ、助六寿司のふたにのせ、お返しした。
ちなみに、うちの母親の作るネギ入り玉子焼きも王太陽の好物だ。
「──なあ」
食事中、希里くんがぼそっと言った。
「部活、どうするよ?」
一瞬、みんなの食事をとる手が止まった。
「あー、おれは、バスケかバド、どっちかだなー」
あっくんが言う。
「おれは、サッカー」
と、答えたのは、加賀くんだ。
「なんだ、おまえら、決まってんのか。おれ、ぜんっぜん、決められなくってさぁ」
希里くんはため息とともに言ってから、王太陽に、それからおれに視線をまわした。
「太陽とりっくんは? 決まった?」
胸が、どきっとした。
「決めたぜ! おれは、バレーと水泳」
王太陽が、明るく、言ってのける。
「バレーと水泳?」
「ふたつもか?」
「兼部できんの?」
みんなが、口々に言う。
「おまえら、クラブ説明会ん時寝てたのか? 水泳は毎日あるけど、バレーは週二日だけだからな」
「え、週二日?」
「やる気あるの? バレー部」
「もしかして、踊るバレエ?」
「なわけあるか。アタックする、バレーだよ」
わいわいしゃべっていたみんなが、ふと揃って、おれに視線を向けてきた。
「りっくんは? 何?」
顔が熱くなるのがわかった。
おれは、目線を下に落とした。
「まだ──決まってない」
「何部考えてる?」
「何部とかも──全然、考えてない……」
「じゃあ、帰宅部?」
おれは、ちょっと言葉につまった。
「帰宅部、も、どうかと思って……」
少し笑って、ごまかした。
「部活は、何か、入りたいとは思うんだけど……やりたいこととか、何も思いつかなくて……」
みんな、こちらを見たまま、黙ってしまった。
おれは、急いで言葉を足した。
「部活入った方が世界が広がるから、何かはやりたいんだけど……その、興味のあることとか、やりたいことがわかんなくて──どれも、帯に短したすきに長し、ってゆうか……」
おれは、嘘は言っていなかった。
けれど、何か余計なことを言ったらしい、みんなの沈黙が重くなった。
おれが内心あわてそうになったときだった。
加賀くんが、あ、と言った。
「おれ、思いついたわ。りっくんに、ピッタリの部活」
「なんだ?」
と、王太陽。
加賀くんは、おかしそうに言った。
「生物部」
「生物部?」
不審そうな、王太陽の声色。
「りっくん可愛いからさー、飼育されそう」
それは、ギリ冗談のラインの内側だった。
本当に、ギリギリだったけれど。
何も言えなくなったおれに代わって、加賀、と低く呼んだのは、王太陽だった。
「おまえ、サッカー部なんてやめろ」
「え?」
「律と一緒に生物部に入れ」
王太陽は、無機的で無感情、かつ硬質な声でつづけた。
さながら、T━800(※注 映画『ターミネーター』シリーズに登場するアンドロイド)のように。
「ふたりまとめて、おれが、調教してやる」
二秒後だった。希里くんが、ふきだした。
「それって、生物部じゃなくて、サーカス部じゃね?」
その台詞に、おれと王太陽をのぞいた三人がけらけら笑った。
だったらさ、と希里くんがこっちを見た。
「一緒にクラブ見学、しね?」
「それがいい」
と、王太陽が言った。
「実際に見てまわんないとな、雰囲気とかわかんねーし」
おれは、頷いてみせた。
鳴り出した予鈴のチャイムを聞きながら、王太陽は、言った。
「別に急ぐもんじゃねーし。ゆっくり決めていいんだし。なんなら、入って、すぐやめたっていいんだし」
声がだせなくて、おれは、また頷いた。
「おれもそうするかもしんねーし」
王太陽は、そう言って、いたずらっぽい笑いをみせた──。
王太陽、本日の観察日記
・まさかとは思っていたが、彼の辞書には、デリカシー、という言葉がのっているらしい……
追記 購買のおいなりさんは、やっぱり味が濃すぎる。
以上。
身体から発するオーラが見えるとしたら、王太陽のそれは、間違いなく金色をしていると思う。
彼がいるだけで、その場がパッと明るくなる。
LEDみたいな男だ。
昼休み、購買に弁当を買いに行っていた彼が戻ってくるなり、さっそく教室内が目に見えて活気づく。
彼は、弁当をふたつ購入していたが、そのうちのひとつは、太巻き寿司といなり寿司のカップリング、助六寿司だった。
助六寿司と、ペットボトルの、あったか~いお茶。微妙に、ジジむさい。
「のり巻き、好きなんだ?」
持参した弁当を食べながら、訊いてみた。
王太陽は、ニカッと笑い、
「のり巻きも好きだけどさ、おいなりさんの方がもっと好きなんだよね」
おいなりさん。
「おいなりさんって、おれも好きだけど、市販のものは、苦手かも。油揚げの味が濃すぎて」
「さすがは、律。小姑みたいだな」
「……薄味が好きなだけだよ」
王太陽は、おれの弁当箱のふたに、いなり寿司をひとつのせた。
「食って、確認してみ。濃いか薄いか」
ありがたかったが、実を言えば、もうひとつの焼肉弁当の肉を狙っていた。
あてがはずれた。
とはいえ、自分の好物をひとに分けてあげられるところは、いかにも王太陽らしい。
おれも、自分の弁当箱から、刻んだ長ネギ入りの玉子焼きをひとつ、助六寿司のふたにのせ、お返しした。
ちなみに、うちの母親の作るネギ入り玉子焼きも王太陽の好物だ。
「──なあ」
食事中、希里くんがぼそっと言った。
「部活、どうするよ?」
一瞬、みんなの食事をとる手が止まった。
「あー、おれは、バスケかバド、どっちかだなー」
あっくんが言う。
「おれは、サッカー」
と、答えたのは、加賀くんだ。
「なんだ、おまえら、決まってんのか。おれ、ぜんっぜん、決められなくってさぁ」
希里くんはため息とともに言ってから、王太陽に、それからおれに視線をまわした。
「太陽とりっくんは? 決まった?」
胸が、どきっとした。
「決めたぜ! おれは、バレーと水泳」
王太陽が、明るく、言ってのける。
「バレーと水泳?」
「ふたつもか?」
「兼部できんの?」
みんなが、口々に言う。
「おまえら、クラブ説明会ん時寝てたのか? 水泳は毎日あるけど、バレーは週二日だけだからな」
「え、週二日?」
「やる気あるの? バレー部」
「もしかして、踊るバレエ?」
「なわけあるか。アタックする、バレーだよ」
わいわいしゃべっていたみんなが、ふと揃って、おれに視線を向けてきた。
「りっくんは? 何?」
顔が熱くなるのがわかった。
おれは、目線を下に落とした。
「まだ──決まってない」
「何部考えてる?」
「何部とかも──全然、考えてない……」
「じゃあ、帰宅部?」
おれは、ちょっと言葉につまった。
「帰宅部、も、どうかと思って……」
少し笑って、ごまかした。
「部活は、何か、入りたいとは思うんだけど……やりたいこととか、何も思いつかなくて……」
みんな、こちらを見たまま、黙ってしまった。
おれは、急いで言葉を足した。
「部活入った方が世界が広がるから、何かはやりたいんだけど……その、興味のあることとか、やりたいことがわかんなくて──どれも、帯に短したすきに長し、ってゆうか……」
おれは、嘘は言っていなかった。
けれど、何か余計なことを言ったらしい、みんなの沈黙が重くなった。
おれが内心あわてそうになったときだった。
加賀くんが、あ、と言った。
「おれ、思いついたわ。りっくんに、ピッタリの部活」
「なんだ?」
と、王太陽。
加賀くんは、おかしそうに言った。
「生物部」
「生物部?」
不審そうな、王太陽の声色。
「りっくん可愛いからさー、飼育されそう」
それは、ギリ冗談のラインの内側だった。
本当に、ギリギリだったけれど。
何も言えなくなったおれに代わって、加賀、と低く呼んだのは、王太陽だった。
「おまえ、サッカー部なんてやめろ」
「え?」
「律と一緒に生物部に入れ」
王太陽は、無機的で無感情、かつ硬質な声でつづけた。
さながら、T━800(※注 映画『ターミネーター』シリーズに登場するアンドロイド)のように。
「ふたりまとめて、おれが、調教してやる」
二秒後だった。希里くんが、ふきだした。
「それって、生物部じゃなくて、サーカス部じゃね?」
その台詞に、おれと王太陽をのぞいた三人がけらけら笑った。
だったらさ、と希里くんがこっちを見た。
「一緒にクラブ見学、しね?」
「それがいい」
と、王太陽が言った。
「実際に見てまわんないとな、雰囲気とかわかんねーし」
おれは、頷いてみせた。
鳴り出した予鈴のチャイムを聞きながら、王太陽は、言った。
「別に急ぐもんじゃねーし。ゆっくり決めていいんだし。なんなら、入って、すぐやめたっていいんだし」
声がだせなくて、おれは、また頷いた。
「おれもそうするかもしんねーし」
王太陽は、そう言って、いたずらっぽい笑いをみせた──。
王太陽、本日の観察日記
・まさかとは思っていたが、彼の辞書には、デリカシー、という言葉がのっているらしい……
追記 購買のおいなりさんは、やっぱり味が濃すぎる。
以上。
