ひとりぼっちの私のことを救ってくれたのは魔法使いでした。

 あの件があって以来、私に対するシャルル様の態度が少し、いやかなり、過保護になった気がする。

 何かある度に私のことを、以前よりももっと心配してくれるようになった。
 シャルル様の強い覚悟のようなものも感じ取れる。
 とても嬉しい気持ちにもなり、有り難いのだが、以前も心配はしてくれていたのだが、そこまでではなかったので、そのように接してほしいというのが私の本音ではあるのだけれど……。

 本日は、一人で書庫に来ている。
 今日も今日とて素敵な本に出会えて嬉しい気持ちになる。
 シャルル様はというと、仕事の用事があるため外出しているのである。

 ルーナは、首に掛けてあるネックレスを外して見ている。
 以前に比べて、このネックレスにかかっている魔法も強いものになったように思うのである。
 (私だけが思っていることなので気のせいなのかもしれないけれど……)

 扉がノックされる。
 「ルーナ様、リナーでございます。紅茶をお持ちいたしました」
 「はいー今、開けますね」

 ルーナは、手に持っていたネックレスをテーブルに置く。
 扉を開けると、リナーさんが紅茶と茶菓子を持ってきてくれた。
 なぜ、ルーナが扉を開けたかというと、本を読むのに夢中になっているのを邪魔しないようにしてくれるため、いつも書庫にいる時は、自分で扉を開けるようにしている。

 ワゴンに載っていた紅茶と茶菓子をトレイに載せ直すと、テーブルにリナーさんが丁寧に置いてくれる。
 ルーナは、テーブルを覗くと、紅茶と色とりどりのマカロンが並べられている。

 「ありがとうございます。リナーさんも一緒に食べましょう?」
 
 ルーナは、リナーの手を取り椅子に座らせます。

 「ですが、お掃除が……」
 「少しの時間ですから」

 ルーナの言葉を聞いて、リナーは一緒にお茶の時間にする。

 「一人で楽しむより、誰かと一緒に楽しんだ方が、倍に楽しいと思うんです」
 「そうでございますね」
 「さあ、頂きましょう。リナーさん」

 ルーナが紅茶を飲むと、続けてリナーも紅茶を飲む。

 「紅茶、香りがいいですね」
 「本日はとっておきの茶葉を選びました」
 「だから、美味しいですね」
 「お口にあってよかったです」

 ルーナは、皿に載っている色とりどりのマカロンからピンク色のマカロンを選ぶ。
 一口噛むと、ラズベリーの甘酸っぱい味わいが口に広がる。
 ルーナの満面の笑みで美味しさがリナーにも伝わってくる。

 「リナーさんもどうぞ」

 ルーナが、リナーに緑色マカロンを手渡します。

 「いただきます」

 リナーは、一口マカロンを齧る。
 「味は何ですか?」
 「ピスタチオです」
 「ピスタチオ味、美味しいですよね」
 「はい」

 ルーナは、ピンク色のマカロンを食べ終わると、次に黄色のマカロンを食べる。
 レモン味だった。

 「リナーさん、美味しいですね」
 「はい、ルーナ様」

 ルーナにとって誰かが、何気ないと思うこの瞬間を楽しんでくれている、それだけで、嬉しい気持ちになるのである。
 (一人も良いけど誰かと話すことがこんなに楽しいなんて)

 「美味しかったですね。今度は、リリーさんと三人でやりたいですね」
 「それは、楽しそうでございますね」
 「きっと、楽しいですね!」


 リナーは、ずっとルーナに対して思っていたことがありました。

 「あ、あのルーナ様ずっと気になっていたことがあるのですが…」
 「何ですか、何でも聞いてください」

 突然の問いに驚きはしたものの、リナーの真剣な表情で察する。

 「なぜ、私たちにそこまで優しく接してくださるのですか」

 問いの答えに少し迷いながらも、言葉を選びながら話し出す。

 「私のことを受け入れてくれたではありませんか」
 「え…それはどういうことでしょうか?」
 「私は、とても嬉しかったのです。ここに来るまでの私は、ある教会で暮らしていました。この目のせいで、恐れられ、蔑まれてきました。ですが、ここで皆さんに出会ったとき、この青色の目を見ても恐れた顔をしなかったのです。こんなに嬉しい気持ちになったのは、初めてのことでした」
 「そうだったのでございますね」

 リナーは、ルーナについて詳しいこと知らされていない。
 ただ一つ、教会で育った孤児ということだけ知らされている。

 「使用人だからといって、下にみられることがあって良いと私は思いません。上とか下とか身分とか家柄とか、関係ないのですよ。皆、同じ人間なのですから、ただそういう階級があるだけで、そういうものを無くして、ただ自分のことを理解してくれる人。その人がどんな位置にいても優しさで理解してくれる。この気持ちさえ持ち合わせていればいいのですよ。それとも、権力や地位を振りかざす人をリナーさんは好きになれますか?」
 「いいえ、なれません」
 「リナーさん、こんな私ではありますが、これからも仲良くしてください」
 「はい、もちろんです」

 二人は、微笑みあうのでした。
 その後、リナーはテーブルの食器を片付ける。

 「では、私はこれで失礼いたします」
 「リナさん、いつもありがとうございます」
 
 お互いにお辞儀をすると、各自することに戻る。

 扉が閉まり、リナーはルーナに言われた言葉を思い出す。
 あんな言葉を言ってくださったのは、シャルル様以来ではないだろうか。
 やはり、シャルル様の見る目は他の方々と違うとリナーは思ったのでした。


 ルーナは、再び椅子に座り、本の続きを読み始める。
 時間は刻々と過ぎていく。
 ルーナは、本に夢中になっていて、外がすっかり暗くなっているのに気がつく。

 それでもルーナは、ランタンに灯りをつけると再び本の続きを読み始めるのでした。
 次第に眠気がきて、必死に耐えていましたが、耐えられずルーナは本を開いたまま眠ってしまいました。

 数十分後、誰かが扉をノックします。
 しかし、部屋の中からは返事はありません。
 扉が開き、ノックしたのはシャルルでした。
 シャルルは、ランタンの灯りしかない部屋に静かに入ります。
 そこには、ルーナが机の上で横向きに伏せて眠っていました。
 ルーナの横顔をシャルルは、静かに眺めていました。

 その姿は、愛おしいものを見る顔をしていたのでした。

 「う、うーん」

 ルーナが、突然目を覚ました。
 テーブルから体を起こすと、ルーナはシャルルの存在に気づいて見上げます。
 まだ少し眠たそうな声で、ルーナはシャルルに話しかけた。
 「シャルル様、おかえりなさい」
 「ああ帰ったよ」

 まだ少し寝ぼけた様子のルーナ。

 「もう少しで、夕食の準備が出来るそうだよ」
 「そうですか。では参りましょう」

 ルーナは、椅子からゆっくりと立ち上がり、シャルルと共に部屋を出たのでした。
 その後は、ルーナは食事を終えると、部屋に戻り着替えると、日記を書き、ベッドに向かい眠りについたのでした。