ひとりぼっちの私のことを救ってくれたのは魔法使いでした。

 その後、勇者はルーナの提案を受け入れ、ルーナは牢屋から出られることになったのでした。

 勇者が、牢屋の鍵穴に鍵を差し込もうとしていた時、ルーナは手を後ろに向けて何かを握っていたました。
 鍵が開いた瞬間、ルーナは走る姿勢を取り勇者の顔めがけて砂をかけます。
 勇者の目に砂が入り、勢いよく倒れると目を押さえ、ジタバタと(もが)きながら痛がっています。

 この砂は、牢屋の隅に落ちていた砂を見つけ使えると思い、勇者が鍵を持ってくる間にかき集めていたのです。
 ルーナは、ゴツゴツとした走りづらい階段を一心不乱(いっしんふらん)にかけ上がっていく。

 「い、痛い、待て、ローズ姫」

 勇者は、目を痛がりながらも立ち上がりローズ姫(ルーナ)の後を追いかけていきます。

 「待て、ローズ姫、待つんだー」

 勇者の声が下からこだまして聞こえてきます。
 一気に上がり、休もうとしましたが、後ろから勇者の足音が聞こえてきます。
 体力の差もありますが、追いつくのが速く感じます。

 ルーナは、階段を上っている途中に左肩に痛みが走り、それを(かば)いながら走り続けます。
 さっきの腕を振った衝撃で、痛みが増してしまったようです。
 やっと階段を上り終え、明るい場所に出ます。
 ルーナは足元にナイフを見つけ拾うと、✕印を左右に壁に印します。
 
 ルーナにとってこの城は、出口のない迷路のようです。
 このままでは、勇者に捕まってしまうと考えたルーナは、 何としても勇者に追いつかれないようにするために、物を倒したりして何とかギリギリのところを逃げていたのでした。
 ルーナはただ願っていました。
 シャルルが迎えにきてくれると……。

 その頃、 二人はルーナが残した✕印の痕跡を見つけていました。

 「シャルル見てくれ、これあの子がつけた跡じゃないか?」

 エミリオは、✕印を見つけシャルルと共にその印を追っていたのです。
 進んでいくと、地下に続く階段を二人は見つけます。
 誰かがいる可能性があるため慎重に、音を立てず、階段を下りていきます。
 階段を下りると開けた空間に着きました。

 「牢屋があるぞ」

 小声でエミリオがシャルルに伝えます。
 階段にあったロウソクの光を頼りに探します。
 ルーナが、気絶して話せないのではないか、ケガをしているのではないかと気が気ではありません。
 しかし、各牢屋にルーナの姿はなかったのです。

 諦められず、何かルーナに関する物が落ちていないかと、牢屋を(くま)なく探していきます。
 すると、シャルルは一番奥にある牢屋の地面の隅っこに暗闇で青く光る何かを見つけたのです。
 青く光る何かに近づいてみると、それはルーナに贈ったはずの月の形のネックレスがだったのです。
 何らかの拍子で、ルーナの首から外れてしまったのです。
 シャルルは、ルーナのネックレスを拾うと強く握りしめたのでした。

 その後、他の牢屋も見たが、ルーナに関するものは見つけることが出来なかった。
 二人はまた、入り口の場所まで戻ってくる。
 反対方向の壁見てみると、薄く✕印を見つけることが出来たのです。
 二人は、その✕印を辿って進んでいきます。
 ただひとつルーナが、無事であることをシャルルは祈ることしか出来ません。


 その頃、ルーナは物置に隠れていました。
 物置といっても、人が一人ほど横になれる大きさがあります。
 ここにきて、ずっと疑問に思っていたことがある。
 (それにしても、城の人たちが見当たらないのかしら。一体城の人たちは、どこに行ってしまったのだろう)

 「どこにいるんだ。ローズ姫」

 さきほどの優しさのある声とは、違い怖さを感じる声色で、ローズ姫の名前を呼んでいる勇者の声が聞こえてきます。
 ルーナは、勇者が通りすぎるのを息を潜めて待っていました。
 声が聞こえなくなったため、おそらく勇者は遠くに行ったようです。
 ルーナは、ホッとし、安心してしまい壁に寄り掛かってしまいました。
 ガタン。
 その拍子に何かを落とし、大きな音が響き渡ります。
 落とした音が、聞こえたのか足音が近づいてくる。
 勇者も私がここにいることに、気付かないよう祈ることしか出来ない。
 バタン、バタン、と扉を開ける音が聞こえる。
 ルーナは、怖さのあまり叫びそうになり、慌てて口元を手で抑える。
 次の瞬間、ギィーと扉が開いた。

 「ここに居たのですね、ローズ姫」

 しかし、祈りは虚しく終わる。
 ルーナは、扉が開いた瞬間、勇者を押し退けて走り出しました。
 逃げなければ、その一心で走り続ける。
 勇者は、倒れ込んだがすぐに立ち上がり、ルーナを追いかけてきます。
 振り返ると、勇者の目は見開いていて不気味で怖さを感じます。

 「ローズ姫ーーー」

 無我夢中(むがむちゅう)で走っていると、いつの間にか外に出ていたのです。
 石畳の橋があり、渡ると塔のような細い長い建物が遠くに見える。
 ずっと走っていて、疲れが見え始めていたところ、足がもつれて石畳の隙間に引っ掛かり転んでしまいます。
 手足が擦りむけ、血が出ています。
 もう立ち上がる力は、ルーナには残っていません。

 そして、とうとう勇者に追い付かれてしまいました。
 勇者は、マントを脱ぎ捨てると、ルーナを捕まえ手首を強く握り絞めました。
 (い、痛い)

 「ローズ姫、やっと捕まえました。さあ行きましょう」

 勇者は、ルーナを引っ張りながら歩き始める。
 ガシッと掴まれたがそれでも、ルーナは残っている最後の力で何とかして逃げようとします。
 また立ち上がり、勇者を振り切ろうともがき続ける。

 「嫌です、結婚などしたくありません。離してください」
 「なぜですか?約束を破るのですか!絶対に離しはしませんよ!」
 「離して、離して」

 ルーナの振り払った手が、勇者の顔に当たってしまいました。

 「なぜなんだ。ローズ。なぜ、私の言うことを聞かないんだ」
 
 勇者が、大声で怒り出した。
 目が充血し、みるみるうちに、勇者の顔も真っ赤になり、背中からハネとツノが生え巨大なドラゴンになったのです。

 「あぁーー、ド、ドラゴン!!!」

 ルーナは、後ずさりながら、自分を守るために周りに落ちていた石を投げつけていきます。
 しかし、なかなかドラゴンに石が届きません。
 何度も何度も石を投げると、その一つがドラゴンの目の近くに当たります。
 ドラゴンは、それに怒りルーナのワンピースを咥えると、空に向かって飛び立ってしまいます。
 ルーナは、振り落とされないようにドラゴンに必死にしがみつきます。


 その頃、二人はルーナの痕跡を頼りに探し続けていたのでした。
 すると、外から巨大な生物のような声が聞こえてきます。

 二人は、顔を見合わせる。
 「「まさか」」

 急いで外へ走っていきます。  
 すると、そこには赤色のドラゴンが空を飛び回っているではありませんか。
 そのドラゴンを見ると、口元に何かを咥えているのが見える。
 よく見ると、それはルーナだったのです。

 「ルーナ」

 シャルルは、ルーナの名前を大声で叫びます。
 しかし、空を飛んでいるため、ルーナにシャルルの声が、全く聞こえていません。
 シャルルは、どうにかしてドラゴンの気を引こうとするが、なかなか上手くいきません。
 ドラゴンは、突然ルーナを咥えたまま塔の先端に止まります。
 すると、エミリオがある提案をしてきた。

 「俺が、ドラゴンを引き付けるから、その間にあの子を助けろ」
 「わかった、無理だけはするなよ」
 「おう、行くぞ、シャルル」
 「ああ、エミリオ」

 エミリオが合図を出すと、シャルルは魔法を使い、塔の壁を登っていきます。
 しかし、存在に気付いたのか、飛び立ってしまいます。
 ドラゴンは、シャルルの気持ちなど知らず優雅に空を飛行しています。
 エミリオもドラゴンに攻撃しますが、上手くかわされてしまう。

 しばらくして、ドラゴンが飛行を低くした瞬間、シャルルは背中に飛び乗ると魔法でドラゴンに攻撃をしていきます。
 ルーナも振り落とさせないように必死にしがみついていきます。
 バン、バン。
 シャルルの闘っている衝撃音が、ルーナにも伝わってきます。
 エミリオもその仲間に加わります。
 バン、バン。
 衝撃音が大きく城内に響き渡ります。

 すると、突然ルーナから青色の光が放たれたのでした。
 その眩しすぎる青色の光を受けたドラゴンは、みるみるうちに力を失い、どんどん下に落ちていくではありませんか。
 ルーナは、ドラゴンの口から離されてしまい、真っ逆さまに落ちていきます。

 「ルーナ」

 シャルルが、大声でルーナの名前を叫びます。
 どうやらルーナは、気を失ってしまっているようです。
 シャルルは、自分が今出せる最大の魔法で宙に浮くと、ルーナのもとまで急いで近づく。
 地面ギリギリのところで、ルーナの手を掴み、引き寄せるとルーナを抱き上げる。
 シャルルは、ルーナを地面に優しく寝かせると、弱りきったドラゴンに最後の一撃を与える。

 その攻撃が効いたのか、ドラゴンは灰になり消えてしまいました。
 地面に横になっているルーナの傍にシャルルは戻っていきます。
 エミリオもやって来ます。

 「大丈夫なのか?この子は?」

 エミリオがシャルルに尋ねる。

 「眠っているだけだから、大丈夫だよ」
 「そうか、よかった」

 さきほどまで心配していたエミリオの表情は少し安心した表情に変わりました。
 シャルルが、ルーナに回復魔法をかけていきます。

 「これで少しは良くなると良いのだけれど……」
 「そうだな」

 しばらく休憩する。

 「さあ、行こうか」
 「おお」

 シャルルが、ルーナを背負うと歩き出しました。
 その後シャルルは、エミリオと共に城の中に戻り、王様に会うことにしたのでした。
 なぜかというと、さっきの戦闘で、戻るための魔法が二人ともほとんど残っていないのである。
 ルーナは、念のために顔が見えないように、布を被っているため顔を知られる心配はありません。
 しかし、城の中に人がおらず探し続けていると、人の声が人気のない小屋から聞こえてきた。
 小屋は小さめといっても人が暮らせるくらいの大きさはある。
 扉を開けると、大勢の人がそこにいたのでした。
 おそらく勇者によって閉じ込められていたのだろう。
 そこには、王様もいて、そして姫もいるではありませんか。
 姫の顔を見ると、ルーナにそっくりな顔をしていて、二人は驚きを隠せません。

 姫によると、最初からここに隠れていたが、大勢の人が突然やってきて鍵をかけられ閉じ込められてしまったのだという。
 シャルルは、事情を王様に伝えると理解してくたのでした。
 そして、戻るための力を与えてくれたのでした。
 王様に、ここに残らないかと二人は提案されます。
 しかし、シャルルは「僕達には、帰らないといけない場所があります」と断ったのでした。

 「そうか、残念だ。では気をつけて帰ってくださいな」
 「はい」
 「おお」 

 シャルルとエミリオ、そしてルーナ。
 シャルルが、魔法を唱えると三人の周りが光だした。
 次の瞬間、煙のように三人は本の世界から姿を消したのでした。

 「行ってしまったの」
 「そうでございますね、お父様」
 「はい。王様」

 王様、そして姫たちはシャルル達が帰ってしまったことを惜しむのでした。