久々汰とわかれ、一旦着替えてからバイトへ向かう事にした伊達。

 騒々しい従兄弟の家から帰ると、いつもの家がガランとした印象に変わる。

 「ただいまー」

 って言っても誰も居ないんだけどね…

 と、伊達が玄関の戸を開けそう思っていると、「おかえりーーーいーくん!」と駆けてきた遥が一瞬犬に見えた。

 あ、そういえば居た、遥。

 なんで忘れてたんだろ…。
 そんな事とはつゆ知らず、笑顔でお出迎えしてくれた遥の笑顔が良心に突き刺さる。

 「遥…笑顔が眩しいから、抑えて」
 「いー君何それ。大丈夫?」

 何か変なもの食べたの?あの人の家で、などと遥が言ってくるが、何とも言えない罪悪感を抱いているだけだと、遥に言える訳もない。

 手洗いうがいを済ませると、伊達は後ろを付いてくる遥を一瞬ハグすることで落ち着こうとした。

 「遥、大好き」
 「オレもー」

 という抱擁を交わした後、和室の居間、伊達の隣に座った遥が訊いてきた。

 「それで、どうだったー?」
 「うん、相変わらずだった」

 といった伊達の顔を見て察した様にそっか、と遥は頷いた。

 「あ、そういえば、ちょこ…子犬が居て……」

 と撮った端末の画面を遥に見せる。

 笑顔で子犬の動画を見て話す伊達。そんな姿に、いつもなら微笑ましくなる所なのだが「ふーん」と遥は少しだけ口をとがらせた。

 子犬を見てかわいい、とは思う。思うが、なんだか面白くない。
 それは何故だろうか。

 正体の分からないこの気持ちは何だろうか。遥は少しだけもやもやする胸の辺りを無意識に撫でた。

 すると、いきなり伊達が「あっ!」と大きな声を出した。

 遥がどうしたの、と言う前に「バイトっ忘れてた!」と和んでいる場合ではなかったことを思い出した。

 着替えてから行こうと思ったが、時計を確認するとそのまま行くことにした。

 洗面台で軽く身だしなみを整える。

 玄関へ向かおうと居間を通り過ぎる途中、つまらなそうに寝転がった遥が見えた。思い違いかもしれないが。

 ……相手してあげたいのは山々なんだけど、稼がないと生きていけない(腐活出来ない)のが世の常なんだ、許せ遥。

 「遥。俺もうバイト行くけど、まだ居る?」
 「うーーん」

 うーーん、って何だ。可愛いな…、とつい身内びいきな物の見方をしてしまう伊達。

 俺も、出来れば一緒に遥と居たいけど…と思いながらバイトへ向かう。

 靴を履いて、これも言っておかないとなと思い、名前をもう一度呼んだ。

 「…そうだ、遥ー。」
 「何ー?」
 「いるなら洗濯と風呂場の掃除、あと玄関も掃いといて。帰るなら、戸締まりよろしく」

 きっちり居座る分は働いてもらう。

 「わかったーまかせて。いってらっしゃい」

 そこら辺は遥も素直にやる事をやってくれる、いい子なのである。

 やり取りしながらそんな事を思っていると、遥がお見送りにやって来た。

 「居るならお土産買ってくる」
 「ほんと?じゃあオレ麺がいー」

 ?…、…めん。麺ね

 「りょーかい」
 「気を付けてね」
 「はい、行ってきます」

 背後で見送る遥に、何だか擽ったくなる。一瞬振り返り伊達は笑顔で手を振ってドアを閉めた。

 出ていく伊達に振り返した手をおろしながら、遥は呟いた。

 「いー君、大好き」

 もしも今、遥の顔を伊達が見ていれば、ぎゅっと抱きしめて、下手をするとバイト先まで連れて行ったかもしれない。
 伊達が見ていたら。