優等生の僕が、問題児に「つまみ食い」されるまで

「あっ……うん」
「頼ってね」
「ああ……分かった」

 重い荷物を持つことになって、四苦八苦していた。僕は非力だから、中々に辛いものがある。
 だけど他校の女子の田口さんが持とうとしていて、流石に大変だろうと思った。

 女子よりかは、力も体力もあるはずだと信じたい。持てるけど、少し腰が痛くなってしまった。
 だけどありがとうと言われて、舞い上がってしまった。僕って、意外と単純なのかもしれない。

 するとそこに、優しい笑みを浮かべた桑島がやってきた。当たり前のように守ってくれて、助けてくれた。
 僕が苦労していたものを、最も簡単に持って運んでいた。前の僕なら、突っぱねていただろう。

 特にこいつには、情けをかけてほしくない。だけど今は、素直に嬉しいと思ってしまう。
 やっぱり、オタ友は偉大である。アニメやゲームの話で盛り上がり、ホクホクなのである。

 それはそれとして、お礼を素直に言うことができない。他の人なら、自然と口から出るのに。
 こいつに対しては、何故か言うことができない。僕って、何も出来ないんだな。

「桑島くんがいてくれて、助かるよ」
「そんなことないっすよ〜」
「いやいや、華があるし! 仕事熱心だし、言うことないよ〜」
「煽てても何も出ないっすよ〜」

 少し暇な時間に、桑島と店長がそんな話をしていた。そこで、短期のバイトだってことを思い出した。
 最初は、その事実に胸を撫で下ろしていた。しかし今では、辞めてほしくない。

 何も言われていないが、どうするつもりなのだろうか。僕に相談してくるはずがないなと、乾いた笑いしか出てこない。
 楽しそうだし、馴染んでいる。仕事を覚えるのも早いし、率先して行動している。

 嬉しいはずなのに、複雑な気持ちになっている。最近、あいつを見たり考えたりすると胸が締め付けられる。
 目が合うと、ウインクされてしまった。ドキッとしたが、思わず目を逸らしてしまった。

「お疲れ様」
「あっ……うん、お疲れ……えっ」
「もう上がりだろ、帰ろっ」
「うん……分かった」

 忙しい時間を終えて、グダーとしていた。流石夏休みは、いつも以上に混むよね。
 忙しい方がいいかもだけど、余計なことを考えずに済むし。すると、ニコニコ笑顔の桑島が話しかけてきた。

 手を出されたから、思わずハイタッチをした。僕のキャラじゃないが、完全に連られてしまった。
 それだけじゃなくて、何故か手を絡ませてきた。優しい笑みを浮かべていて、揶揄っているようには見えない。

 やっぱり、大きくてゴツゴツしている。同じ男なのに、どうしてこうも違うんだろうか。
 心拍数が上がってしまい、思わず目を逸らした。こいつと向き合っていると、自分は自分じゃないような感覚に陥ってしまう。

 こいつ、何を考えているのか。全く分からないが、何故か後ろを見ている。

 そこには、田口さんがいた。顔を赤らめており、この無駄にイケメンに見惚れているのだろう。
 何を考えているのか、全くもって分からない。まあ、別に知る意味もないがな。

「なあ、聞きたいことがあるんだが」
「スリーサイズとかか」
「興味ない」
「バッサリだな」
「言われても、分からん」
「そうか〜まあ、俺も分からん」

 バイト帰りに、お決まりのことをしている。アイスと飲み物を買って、ベンチで談笑していた。
 他愛ないことを、話すのが楽しい。この時間が最近では、楽しみで仕方ない。

 こいつはチャラいし、揶揄ってくる。だけど、意外と相手のことを見ている。
 バイトの時もそうだが、僕と話している時もだ。相手の何気ない仕草や、言葉で読み取っている。

 バカだと思っていたが、実は違うのかもな。こいつにも、それなりの事情がある。
 授業中に寝ていたり、人を小馬鹿にするのはいただけないが。誰にだって、悩みの一つや二つあるだろう。

 だからってわけじゃないが、気になってしまった。そのため、気になったことを素直に聞くことにした。

「バイトしている理由、お前も趣味のためか」
「俺の家はさ、母子家庭なんだよ。だから、少しでも負担を減らすためにな」
「あっ……そうなのか」
「趣味に、お金を使いたいからって言うのもあるがな」
「お前って、凄いよな。僕みたいな……ちっぽけな人間とは、大違いだ」

 バイトをしている理由は、こいつも同じだろう。そう思っていたが、違ったようだ。
 少しだけ悲しそうな顔をして、直ぐに笑顔になった。ヘラヘラしているが、内心傷ついているのかもな。

 だけど、僕にはなんて言えばいいのか分からない。やっぱり、僕は会話が苦手なようだ。
 こいつと違って、空気を読んだり察することができない。下を向いていると、明るい声で照らしてくれた。

 その優しさが、今は身に染みてしまう。何故か悲しくなってしまって、泣きたくなってきた。

「そんなことないぞ」
「だけど、僕はお前と違って……言われたことしかできない」
「望には、望の良さがある。俺は感性で動いているけど、望はしっかりと考えているだろ」
「当たり前にできることだ」
「当たり前じゃないぞ」
「そうか」
「ああ、だってお前はいつでも真っ直ぐだろ」

 僕の感情を知ってか知らずか、慰めてくれた。頭を撫でてくれて、心地よかった。
 その手の上に、僕は手を置いた。いつもなら、絶対にこんなことはしない。

 だけど今は、撫でてほしい。そんな気分で、自分でもなんでなのか分からない。
 それでもこいつは、何も言わずに撫でてくれている。慰めてくれて、優しい言葉をかけてくれる。

 こいつがモテるのも、本当に頷けるな。僕以外にも、無性の優しさをあげているのだろうか。
 まただ、こいつが絡むとおかしくなる。だけど手から伝わる温もりのおかげで、不安がなくなってしまう。

 当たり前のことだと思っていたことも、そうじゃない。例え、慰めでも嬉しい。
 僕のこと真っ直ぐだと言うけれど、それはお前だろ。だけど素直になれないため、何も言えなかった。

「お願いがあるんだが」
「なんだよ、改まって」
「俺に勉強を教えてほしい」
「なるほど、バカだもんな」
「しょんなに、はっきり言わなくても〜」
「嘘だよ。明日、バイト休みだろ。明日でいいか」
「もち! よろ!」