優等生の僕が、問題児に「つまみ食い」されるまで

 もう一人の店員は、遅いで有名な人だ。確かに丁寧な人で、接客も評判がいい。
 仕方ないため、素直に並ぶ。焦っても、いいことは一つもないからな。

「ふう〜ん、ゲーム雑誌」
「返せ」
「買ってやるよ」
「いい、お前に買ってもらう義理はない」
「ぷっ……可愛いな。並んでるし、会計は少ない方がいいだろ」
「ぐっ……お金を」
「買ったぞ〜」
「待てよ」

 後ろから、誰かにヒョイッと雑誌を取られた。後ろを向くと、優しい笑みを浮かべている桑島がいた。
 奪い返そうとするが、返してくれない。必死に背伸びをして、試みてみる。

 しかし一向に奪える気配なく、僕の番になった。後ろを向くと、他に待っている人が大勢いた。
 仕方ないため、言うことを聞くことにした。なんだよ、さっきまで人を小馬鹿にしていたのに。

 財布を出そうとすると、払ってくれていた。出て行こうとするため、慌てて追いかけた。

「はあ……歩くの早すぎ」
「のぞむんは、可愛いね。返して欲しかったら、着いてきて」
「おま……はあ……なあ」
「……行こう」

 急いで出ると、こいつは欠伸をしていた。人の気も知らないで、お気楽な奴である。
 しかも可愛いとか、なんなんだよ。そんなこと言われても、全くもって嬉しくない。

 背が小さいことが、嫌なのに最悪な奴である。オタクであること以外は、関わり合いになりたくない。
 体力のなさと、この暑さ。バスの時間なんて、とっくに過ぎている。

 しかし雑誌が人質になっているため、やむを得ない。オタクにとっては、非常に大事なものなのである。
 その性質を生かした見事な作戦で、只者じゃないな。厨二病な考えは、今は置いておこう。

「ほら、座って。アイスもあるぞ〜チョコといちご、どっちがいい?」
「いいから、お金」
「アイス、溶けるぞ〜もったいない」
「……いちご……言っておくが! お前のためじゃない! アイスを作ってくれている人に、申し訳ないからで!」
「分かったから、どうぞ」
「……美味い」

 公園にやってきて、ベンチに座るように言われた。仕方ないため、大人しく座った。
 すると当たり前のように、隣に座ってきた。暑いのに、体を密着させてきた。

 めんどくさいため、黙っておくことにした。どうせ、屁理屈をほざくに決まっている。
 アイスと言われても、興味ないな。まあ、確かに暑いけどな。

 元はと言えば、こいつが急かすからなんだけど。お金を渡そうとするが、拒否られてしまう。 
 意外と頑固のようで、話を聞かない。棒アイスを食べると、確かに美味かった。

 素直に感想を口にすると、本当に嬉しそうにしている。その笑顔を見て、胸が高鳴った。
 この感情は、墓場まで持って行こう。間違っても知られたら、一族の恥である。

「いいよ、払わなくて」
「何言ってんだ。そんなのダメに」
「硬いな〜」
「硬いとか柔らかいとか、そういう問題じゃない」

 アイスを食べ終わり、お金を払おうとした。今度こそ、その人質を返してもらう。
 まあ、大事に扱ってくれている。その点だけは、評価してやらんこともない。

 全てこいつのせいだと思うと、少し腹は立つが。しかし何故か、頑なにお金を受け取ってくれない。
 ダメに決まっているため、渡そうと試みる。硬いとか言われるが、そういう問題じゃないだろ!

「じゃあ、賄賂で」
「は?」
「バイトのこと、口外しないっていう口止め料で」
「はあ……分かったよ。仕方ないから、もらっておく」
「ははっ、素直じゃないな」
「うっせ」

 賄賂って、何を言ってるんだ。無駄にイケメンで、無駄に爽やかな笑みを浮かべて。
 バイトのことを口外しないって、確かに大事なことだ。ツッコみどころは多々あるが、まあいいや。
 僕としても、公になってほしくないからな。全ては、ゲームとアニメのためである。

「……のぞむんってさ」
「んだよ」
「可愛いよな」
「は? 何言って、男が可愛いとか言われても嬉しくない」
「耳は真っ赤だけど」
「これは暑いからだ!」
「素直じゃないな〜」

 僕のことを揶揄っているかと思えば、今度は真面目な顔になった。そして、またもや可愛いとか言ってきた。
 こいつ、一体何を考えているんだよ。もしかして、リアルBLってやつか。

 別に否定はしないが、僕を巻き込まないでほしい。まあ、揶揄っているだけだろうけど。
 だって、その後直ぐにアホ面になったから。マジで、何がしたいんだろうな。

 お気楽な様子に腹が立つが、嫌な奴じゃないのは分かった。ただ単に距離感がバグっているだけの、アホだということが分かった。
 賄賂という名の雑誌を受け取り、バスで帰った。桑島はチャラくて、相容れない存在。

 そう思っていたが、僕と同じでオタクだった。見た目だけで判断するのは、ダメだよな。

 ――――バスの窓に写る僕の顔は、少しだけ笑っていた。

「オーダー、お願いします」
「はーい」

 あの出来事から、早いもので一週間が経とうとしていた。毎日のように、朝からバイトだった。
 次の日になると、押しに負けて連絡先を交換した。家族以外の連絡先は、初めてだった。

 だから少しだけ、浮かれていたんだ。連絡してくれるものだと思って、ずっと待っていた。
 しかし全然来ないため、残念と思っている自分もいる。別にあいつのことが、気になっているわけじゃない。

 ただ、友達と言われて舞い上がっていたんだ。あいつは僕と違って、友達も多い。
 僕に連絡する必要もないし、あいつにとっては友達の一人だ。別に、寂しいとか思っていない。

 毎日のように、顔を合わせてるからかもだけど。だけど、少しぐらい連絡してくれてもいいんじゃないのだろうか。

「桑島くんって、意外と真面目だね」
「そっすか〜まあ、よく言われますが〜」
「ほんと、入ってくれて助かるよ」
「あざっす」
「そのチャラささえ、無ければ完璧なのにね」
「ひどいっすよ〜」
「あはは、冗談」

 桑島はチャランポランだと思ったが、意外と真面目に働いている。軽い発言だったり、挨拶はチャラい。
 だけど、言われたことは直ぐにメモをとっている。真面目に働いていて、必死に覚えている。