優等生の僕が、問題児に「つまみ食い」されるまで

「いいよ、何も言わなくて。聞いてくれるだけでいいから」
「わ……かった」
「それで、その結果周囲からは片親だからって言われてさ。母さんは俺がいないとこで、泣いていた」
「よしよし」
「それで…高校は公立にって……勉強して……お……れ」
「よく、頑張ったね。泣いていいよ」
「あ……りがとな……」

 声のトーンからして、悲しんでいるのは伝わってきた。何を言っていいのか、分からない。
 だけど、こんな時でも僕のことを第一に考えてくれている。その優しさに、いつまでも甘えてはいけないよね。

 僕を抱きしめている腕が、震えていた。僕は朔弥くんの方に向き直って、抱きしめた。
 すると、僕の胸に縋り付いてきた。そして静かに啜り泣いていて、僕は頭を撫でた。

 悲しい時にされると、途端に安心するからね。僕がいつもやってもらっているから、少しは恩返しになったかな。

「落ち着いた?」
「面目ない」
「そんなことないよ。泣いている朔弥くんも可愛い」
「のぞむん、ありがと」
「どういたしまして」

 落ち着きを取り戻したようで、座り直した。朔弥くんは、僕の肩に頭を乗せてきた。
 手を繋いでいて、温もりを感じていた。お礼を言われて、今だけは素直になろうと思った。

 可愛いと言っただけで、顔が真っ赤になっている。人には言うのに、言われるのは慣れてないのかな。
 マジで可愛くて、僕の方がラブだよ。恥ずかしいから、絶対に言わないけど。

「えっと、のぞむんのことだよな。俺は確かに、嫌いだった。あっ、過去形な! 今は、ラブで」
「それはさっき、聞いた。で?」
「ちぇ……まあいいや。口煩いし、メガネをかけていて典型的な優等生だっただろ」
「ツッコみたいことは、多々あるけど……続けて」
「誰とも仲良くしないし、いつも勉強ばかりだった。俺とは違って、一貫しているんだなって……羨ましかった」
「……なるほど」
「バイト先で出会って、最初は揶揄う目的だったんだけど。気がついたら、惹かれてた」

 家族のことを、話してくれるのはいいんだけど。僕のことと、どう繋がるのだろうか。
 その疑問はあるが、今は黙って聞こう。僕に対するイメージ、適当すぎるだろ。

 別に、メガネイコール真面目じゃないし。勉強しているのを見て、一貫しているって思っていた。
 勉強していたのも、真面目なのも。全てが趣味のためなのは、黙っておこう。

 若干の罪悪感を覚えるけど、気にしないでおこう。優等生なのも、真面目なのも事実だし。
 やっぱり、揶揄うのが目的だったのか。惹かれていたと、優しい笑顔で言われた。

 恥ずかしくなったため、頬を掻いた。こいつはどうして、こんなに真っ直ぐなのだろうか。

「彼女もいたんだろ」
「ああ、いたな。まあ、本気じゃなかったが」
「典型的なダメ男だな」
「うぐっ……だってさ、全員俺の美貌しか興味ないし。寂しくてさ……家に帰っても一人だし」
「そうなのか」

 彼女がいたことが、引っ掛かっている。モテるのは、誰が見ても分かるだろう。
 恋愛に興味がなく、嫌いだった。そんな相手を簡単に落として、付き合っているのだから。

 それは誇っていいレベルだし、僕を落とすとは凄いことだし。だけど歴代の彼女、何人にいるかは不明だけど。

 本気じゃないって、そんなあっさりと言ってしまう。僕のことは、どうなのだろうか。
 まあ聞くまでもなく、本気だよね。そうじゃなきゃ、股間を蹴り飛ばすだけじゃ物足りないよね。

 美貌って、自分で言うかね。まあ寂しかったって言っているのは、事実なのだろう。
 僕だって、ゴンザレスがいないと一人の時が多い。母さんは、パートもしているからね。

 だから、気持ちは少し分かる。まあ誰彼構わず付き合うのは、理解できないけど。

「あっ、一応言っておく。一人だけだったし、そんなの間違っているって、分かっていたし」
「そこらへんのモラルは、あるのか」
「もちろん! 大事なことがあるんだ。キスもそれ以上も、のぞむん以外には絶対にしない。ちなみに、あの情熱的なキスは俺のファーストキス」
「うっ……そうなのか……僕もだから」
「知ってる。違うとか言われたら、そいつの股間を殴りに行く」
「過激だな。まあ、その心配はないぞ。永久《えいきゅう》に」

 頭を撫でられたから、顔を見た。すると少し焦っていると言うか、不安そうにしていた。
 なんだろうと思っていると、一人だけだったらしい。キスもそれ以上も、僕だけらしい。

 そんな恥ずかしいことを、その爽やかな笑顔で言わないでよ。聞いているこっちが、恥ずかしいでしょ。
 まあ僕を、不安にさせないためなんだろうけどね。僕もだし、それはお互い様だしね。

 他の人なんて、未来永劫ないよ。過去は変えられないけど、僕だけだから。
 その言葉が嬉しくて、自然と笑顔になった。少し怖いことを言っているけど、気にしないでおこう。

「のぞむん、大胆だな〜」
「う! るさいっ!」
「あはは、顔真っ赤。それは置いておくとして、俺はこんなだし。浮気されても、仕方ないし」
「例え、本気じゃないにしても。浮気する方が、百パーセント悪いに決まっている」

 腰に抱きついてきて、大胆だと言われた。僕よりも、お前の方が大胆だろう。
 付き合っていることを、言いたくはない。好奇な目に晒されるのは、目に見えているからね。

 だけど、言いたい気持ちもない訳ではない。まあ焦る必要はないし、僕たちは僕たちのペースで行こう。
 頭を撫でると、嬉しそうに擦り寄ってきた。浮気されても、仕方ない。

 そんな悲しいことを言わないでよ。絶対に、浮気する方が間違っているんだから。
 それにこんなに優しくて、カッコいい。大事にしてくれて、可愛くいい彼氏。

 手放したり、浮気したりする。 僕にはその気持ちが、全くもって理解できない。

「ありがと。俺、のぞむんにだけは誠実に生きるよ。のぞむんだけは、失いたくないから」
「……ぼ……くも……朔弥くんだけは、失いたくない」
「好きだよ、望」
「僕も……す……き」

 起き上がって、僕を抱きしめてきた。誠実にって言ってくれて、嬉しいかった。
 背中に腕を回して、ギュッと抱きしめた。頭を撫でてくれて、心地よくて最高だった。

 好きだと言われて、心臓が高鳴った。顔が近づいてきたから、静かに目を閉じた。
 優しく触れるだけのキスをして、抱き合った。外は寒いけど、僕たちの心は暖かった。

「寒いな〜ピトッ」
「確かに、寒いね」