優等生の僕が、問題児に「つまみ食い」されるまで

 放課後、教室に残って勉強をしていた。家にいると、誘惑があるからね。
 直ぐにイチャつこうとするし、ゴンザレスは可愛いし。昨日も朔弥くんと、お使いがてら散歩に行ったからね。

 週に二回は、学校で勉強することにした。教えることで、僕も復習になるし。
 そこで、先生が入ってきた。声をかけられて、期待していることが目に見えて分かった。

 僕が太鼓判を押すと、先生は嬉しそうにその場を後にした。朔弥くんは、何かを言いたそうにしていた。

「勉強は、楽しいでしょ」
「そうか? 分からん」
「え〜じゃあ、なんで勉強しているの」
「それは半ば強制にだな。まあ、のぞむんと同じ大学に行きたいし」
「大学か……夢とかあるのか」
「う〜ん。俺の夢は、のぞむんのお嫁さんっ! キャハッ! 言っちゃったっ」
「さて……と。ここは……なるほど」
「ふざけないので、無視しないで〜」

 勉強は、楽しいと思うって言うのは建前である。本当は、僕だってやりたくないよ。
 だけど、これも全部。アニメと漫画とゲームと、グッズのためなんだよ。

 母さんは優しいけど、怒ると怖い。有言実行タイプで、意外と頑固である。
 曲がったことが嫌いな、昔ながらの江戸っ子だから。普段の様子から見て、想像できないと思う。

 だけど、絶対に不義理なことは許さない。そのため、勉強を頑張っているに過ぎないんだけど。
 それは今は、黙っておこう。大学と言われて、確かに考える必要があるよね。

 そこで夢を聞くと、可愛こぶっていた。顔のところに、両手を持ってきた。
 確かに、可愛いんだけどな。反応に困るため、無視して参考書を見ていた。

 泣きそうな顔で、抱きついてきた。そのため、頭を撫でると嬉しそうにしていた。
 ほんと、僕の彼氏は可愛いな。永遠に揶揄って、甘やかしたいな。

「春木、放課後職員室に来てくれ」
「分かりました」
「のぞむん、何かやらかしたのか」
「進路のことだ。春木は、桑島とは違うぞ」
「お前じゃないから、違うだろ」
「俺の扱いっ、酷っ!」

 数日後のこと、先生に職員室と言われた。平然を装っているが、内心焦っていた。
 もしかして、バイトのことがバレたのだろうか。僕は優等生のため、コソッと注意されるのか。

 それとも、生活指導の先生にバレる前に釘を刺されるのかも。そんなことが、一瞬で脳内を駆け巡った。
 しかし違ったようで、進路のことのようだ。ホッと胸を撫で下ろすと、朔弥くんは微笑んでいた。

 酷い扱いをしてしまったのに、僕にそんな目線を向けないでくれ。罪悪感で、胸が押し潰されそうだ。

「のぞむんっ、行ってらっしゃい」
「先に帰ってもいいぞ」
「待ってる。ゴンザレス、もふもふしたいし」
「ゴン?」
「のぞむん家で飼っている犬だよ」
「はあ……分かった。サクッと終わらせてくる」

 放課後になって、職員室に向かう。朔弥くんは、待っていてくれるらしい。
 嬉しいけど、素直に言えない。そんな僕の気持ちを知ってか知らずか、ゴンザレスの話題を出している。

 友人たちと駄弁って待っているらしいので、急いで用事を済ませてこよう。
 ゴンザレスに会いたいって言うのは、嘘じゃないだろう。だけど口実だって言うことぐらいは、流石の僕でも分かるからね。

「春木の成績なら、どの大学で行けるだろう」
「学部って、いつ頃決めるものですか」
「そうだな……何か、やりたいことはないのか」
「その……詳しくは決めてないですが。先生になりたいです」
「なるほどな〜良いんじゃないか。桑島に教えるの、上手いようだし」
「ありがとうございます。専攻って、いつ決めるんですか」
「大学に入ってからでも遅くないぞ。まあ、小学校か中学か高校かは決めた方がいいが」
「なるほど……考えてみます」

 僕の成績なら、どこの大学でも大丈夫みたい。肝心なのは、学部だよな。
 学部を決めないと、どこにするのか定まらないと思うし。先生になりたいと告げると、応援してくれた。

 先生って言っても、たくさんの選択肢があるな。小学校は、僕に子供の面倒が見れる自信はない。
 中学は、思春期だからな。僕も先生から嫌なことを言われたことあるし。

 悪気はないのも分かっているが、難しい年頃だ。僕には対応できる自信がないな。
 高校にするとして、専攻だよな。まあ今決めなくても、入学してからでもいいと思うけど。

「先生、あのお聞きしたいことが」
「なんだ」
「さく……桑島なんですけど、僕と同じ大学に行けますかね」
「なるほど……まあ…………今後次第だな」
「そうですか」
「最近は、頑張っているし。一年だからな、そう焦らなくてもいい。何か分からないことは、聞きに来ていいからな」
「分かりました。ありがとうございます」

 僕の進路の相談はここまでいいとして、気になったことを聞いてみる。僕だって、朔弥くんと一緒にいたい。
 恥ずかしいから、今は言わないでおくけど。メガネをクイッと上げて、先生の顔を見る。

 だけど僕の脳内は、朔弥くんのことしかない。僕の質問に、先生は絶妙な間を作っていた。
 それが全てを物語っているようで、ため息が出そうになった。親身になって聞いてくれるため、信頼できそうだ。
 まあ、今度次第か。じゃあ今以上に、鬼教師になってスパルタ指導をしよう。

「はあ……はあ……体力ないにも、程があるな」
「なあ、朔弥って春木のこと嫌いじゃなかったのか」
「嫌いだったけど」

 職員室を出て、急いで教室に向かう。走らないように、競歩になるように頑張った。
 しかし僕みたいなもやしには、無理なようだ。競歩って、想像の五倍はキツいようだ。

 教室の前に着き、ドアを開けようとした。すると中から、朔弥くんと友人の会話が聞こえてきた。
 僕のことを話しているようで、嫌いだったとはっきりと言った。分かっていたはずなのに、落胆してしまう。

 今更傷つくことじゃないし、僕だって嫌っていた。興味もなかったし、相容れない存在だった。
 相手の嫌なとこしか見ずに、偏見の塊だった。僕に、傷つく資格はない。

「だって、あいつ。マジで煩かっただろ」
「確かにな。顔を見ると、突っかかっていたし」
「まあ、俺も悪いんだけど。優等生が、鼻にかかっていたからな」
「嫌悪感、マックスって感じだったもんな」

 煩かったと言われて、胸が痛くなった。僕だって、好きで優等生をしているわけじゃない。
 誰が好き好んで、こんな役周りするかよ。本来の僕なら、絶対に選ばなかっただろう。