優等生の僕が、問題児に「つまみ食い」されるまで

 だけどそんなことよりも、自分でも分からない感情に包まれた。助けてもらったのに、やめてほしい。
 だって、僕を庇って怪我するなんて! そんなの、絶対にダメに決まっている!

 だけどそんな僕を、抱きしめてくれた。大事そうに微笑んで、おでこにキスまでしてきた。
 そこから全身に熱が広がり、不思議と安心できた。こいつの体温と香りに包まれて、心地よかった。

「落ち着いたか」
「その節は……ご迷惑おかけしました」
「いいよ。俺のことは気にすんな」
「そ……れと、それ直して……」
「ん? あっ、これか? どうだ? 色気あるだろっ」

 落ち着きを取り戻すと、急激に恥ずかしくなってきた。そのため、顔を見ることができない。
 しかもそれ以上に、気になることがあった。僕がしがみついたから、浴衣がはだけてしまった。

 胸元が見えて、恥ずかしくなった。男の胸板なんて、別に興味ない。
 筋肉は好きだけど、それはまた別の話だ。本来なら、ドキドキなんて絶対にしない。

 僕はBがLする世界に、興味ないから。そのはずなのに、ここ最近その世界の住人な気がしてきた。
 しかも僕の指摘に、こいつはヘラヘラとしている。わざとはだけて見せて、揶揄ってくる。

 いいから、早く直してくれっ! このままだと、僕の心臓は持たないっ!

「直したぞ」
「そうか……その、大事な話が」
「なんだ」
「バイト……辞めないでくれ」

 直したと言われて、前を向き直した。チラッと見てみると、確かに直してあった。
 少しだけはだけていたが、許容範囲内だろう。僕が直すことは無理なため、いいということにしよう。

 そこで大事な話があるため、目を見てみる。すると優しく微笑んでいるため、思わず目を逸らしてしまった。
 恥ずかしいが、思っていることを告げる。とは言っても、今日までの契約だろう。

「ぷっ、そんなことで悩んでいたのか」
「なっ! そんな言い方しなくてもいいだろ! お前にとっては、そうでもなくても! 僕にとっては!」
「あー、悪かったよ。早い段階で、長期になってるんだよ」
「えっ……あっ……えっ」
「辞めないよ。望がいるから」

 僕は必死に懇願しているのに、こいつは笑っていた。お前にとっては、取るに足らないことなんだろうな。
 大変な時も、お前がいたから乗り越えられた。楽しかったし、充実した一ヶ月だった。

 それなのに、笑うことないじゃんかよ。下を向いていると、抱きしめられた。
 驚いて顔を見ると、優しい笑みを浮かべていた。そこでもう既に、長期になっていることを告げられた。

 急激に恥ずかしくなって、目を逸らしてしまった。だけど耳元で、甘い言葉を囁かれた。

「どうして……」
「好きだから」
「どうして、そんなに簡単に告白できるんだよ」
「簡単じゃない。ずっと言ってるじゃん、可愛いって」
「そ……それは、他の人にも言って」
「言ってない。俺は、望意外を可愛いって思わない」

 僕がいるから、辞めない。その意味が分からずに聞くと、告白された。
 簡単に言っていないことぐらい、目を見れば分かる。それが本心で、緊張していることも。

 僕を見る目は、いつだって優しい。手だって震えていて、汗もかいている。
 鈍感な僕だって、それぐらい分かってる。こいつが本気で、伝えようとしていることなんて。

 誰が見ても、丸分かりだろう。いつもの飄々としたチャラさは、微塵も感じられない。
 だけど僕の気持ちが、分からない。確かにドキドキしているし、こいつと一緒にいると楽しい。

 だけどこれが、こいつと同じ好きなのかが分からない。相手の本気に、応える自信がない。

「返事は、今じゃなくていい」
「えっ」

 朔弥くんの優しい声を聞いて、思わず声が出てしまった。僕を見て、優しく微笑んでいる。
 頬を触ってきて、熱い手のひらだった。僕のために、今じゃなくていいと言ってくれた。

 こいつなりの優しさなのは、間違いないだろう。それなのに、何故か釈然としない。
 返事するべきなのに、何を言えばいいのか分からない。こいつのことは好きだけど、それがどの好きなのか。

 友達としてなのか、恋愛的なものなのか。僕には分からないため、答えることができない。

「そうだ、これ。誕生日おめでとう」
「えっ、誕生日? なんで、知って」
「メッセージアプリに、登録しているだろ」
「あっ、そうか」
「因みに俺の誕生日は、クリスマスイブね。まあ、貰えるように頑張るよ。ほら、開けて」

 そこで声をかけられて、恐る恐る顔を見た。いつも通りの表情をしていて、面食らってしまう。
 僕のことを、気にかけてくれているんだよね。優しくて、カッコいいとかマジでイケメンすぎる。

 しかも誕生日って、そんなこと忘れていた。家族以外に祝ってもらえるなんて、何年振りだろう。
 チャラけた態度で、誕生日はクリスマスイブだと言っている。直ぐに悲しそうな顔になって、返答に困ってしまった。

「キーホルダー」
「欲しかっただろ」
「どうして」
「この前、コンビニのくじを睨んでいただろ」
「買いたかったけど……お金が足りなくて」
「一回目で出たから、プレゼント」
「あ……りがと」
「おうっ」

 袋に入っていて、優しく開封した。すると【幕末ドライバー】の、土方さんのキーホルダーが入っていた。
 コンビニのくじでやっていて、欲しかったんだ。だけどお金がなくて、泣く泣く諦めた。

 それを見ていて、買ってくれたんだ。一回って言っているけど、きっと何回も引いてくれたよな。
 この好きが、何の種類なのか分からない。だけど、これだけはハッキリとしている。

 ――――朔弥くんと、これから先も花火を見たい。

 お礼を言うと、優しく笑っていた。少年のような瞳で、僕だけを見つめてくれた。
 色とりどりの花火が上がっていて、綺麗だった。こいつの横顔の方が、花火以上に輝いて見えた。