優等生の僕が、問題児に「つまみ食い」されるまで

桑島(くわじま)、しっかりと授業を受けろ」
「あーはいはい。わっかりました〜いいんちょーさま〜」
「お前、それ分かってないだろ〜」
春木(はるき)が、可哀想だろ〜」
「分かってま〜す」

 クラスの委員長である僕は、クラスの不良に声をかけた。先生に頼まれたから、仕方なくである。
 入学して、数ヶ月が経った。僕は友達を作るのが、あまり得意ではない。

 黒髪で校則違反しないように、常に心がけている。視力が悪いため、黒縁のメガネをかけている。
 メガネをクイッと上げて、問題児を睨む。桑島(くわじま)朔弥(さくや)は、ただの問題児である。

 茶髪に染めており、左耳にピアスをつけている。切れ長の瞳に、端正な顔立ちをしている。
 前髪をセンター分けにしており、かなりのイケメンらしい。興味がないため、どうでもいい。

 僕とは違い、身長も高く運動神経はいい。僕が学年一位なのに対し、下から数えたほうが早いらしい。
 こいつは、いつも授業態度が悪い。基本的にふざけているし、寝ていることも多い。

 どうして、こいつが進学校に入学できたのだろうか。今世紀最大の疑問だし、七不思議に該当するだろう。
 いつも飄々としていて、真面目な部分を見たことがない。生活指導の先生に怒られているのに、改善するつもりがないらしい。

 先生に頼まれたことはしたから、文句はないだろう。僕は踵を返し、帰ることにした。
 放課後には、やることがあるからな。こんな奴に、構っている暇はない。

「おはようございます」
「春木くん、おはよう。今日は、洗い物からお願いね」
「はい、分かりました」

 自分で言うのもなんだが、僕は学校では品行方正で通っている。しかし秘密にしていることが、一つだけあった。
 それは校則違反のバイトである。ファミレスの厨房で働いているんだが、絶対に日密なのである。

 うちの学校は、バイトは禁止である。かなりの進学校のため、特別な理由がないため許可はされない。
 絶対にバレないようにしないと、困ったことになる。あの強面進路指導の先生は、反省文では済まないだろう。

 内申点に響く可能性があるため、母さんに怒られる。下手すると、漫画やゲームを没収される。
 それだけは絶対に阻止しないと、死活問題である。漫画やゲームのために、クラスの委員長や学年一位を取っている。
 本当は目立つのは嫌いだし、誰かに指示するのはいつも精一杯の勇気を振り絞っている。

「春木くんとこの学校は、いつから夏休み?」
「来週からです」
「暑いから、体調には気をつけてね」
「はい、ありがとうございます」

 洗い物やオーダーが、ひと段落ついた。そこで年配のパートさんから、声をかけられた。
 この店には、怖い人がいないからよかった。いつも心配してくれるし、可愛がってもらっている。

 来週には、夏休みが始まる。バイトにたくさん入って、お金貯めないとな。
 欲しいものが多くて、オタクはお金がかかる。推し活もあるし、体力勝負なのである。

 夏休みの宿題も、早めに目処をつけないとな。ゲームや、漫画を読まないといけないという使命があるからな。
 そのためには、先に終わらせておくのも大事だ。二学期分の予習も先に済ませておけば、後々が楽だな。
 全ては、充実したオタ活のためである。そのためだけに、僕は生きているからな。

「今日、新人さんが来たから」
「チッス! よろしくっす」
「桑島くん、ちゃんと挨拶」
「はいっす。桑島朔弥っす」
「うげっ」

 夏休みになり、バイトへと向かう。すると店長から、招集がかかった。
 新人が来ると言うので、僕も顔を覗かせた。するとそこには、一番見たくない顔がいた。

 いかにも、チャラそうな見た目の奴が。嘘だろ、なんでこいつがいんだよ。
 思わず、不満を口に出してしまった。すると目が合ってしまって、急いで逸らした。
 桑島は、ニヤッと不敵な笑みを浮かべている。何か嫌な予感がしたが、その予感は的中してしまった。

「あっ! 春木じゃん! 何、同じバイトなの! よろしくっ!」
「春木くんと、知り合いなのか」
「はいっす! 同じクラスですっ! マブダチっす!」
「違う」
「ひどっ!」

 こいつは、僕の名前を大声で呼んできた。そのせいで、一気に僕に視線が集中してしまう。
 別にそれ自体はいいが、一つだけ問題がある。こいつと友達認定されてしまうと、同類だと思われてしまう。

 基本的にめんどくさがり屋だが、僕は真面目で通っている。それなのに、一緒にされたくない。
 ただ同じクラスってだけなのに、迷惑である。しかしこいつは、余計なことを言わないとも限らない。

 バイト禁止でも、親が許可を出してくれた。それには条件があって、学校にバレないことだ。
 バレたら、辞めさせられてしまう。そうなったら、来月発売のゲームが買えなくなってしまう。

 僕にとっては、死活問題なんだよ。釘を刺しておきたいが、こいつが素直に言うことを聞くことはないだろう。
 一つ救いなのは、短期のバイトだということだ。夏休みだけらしく、少しだけ気持ちが楽である。

「なあ、賄いって食べていいのか」
「勝手にしろ」
「え〜初日なのにな〜マブダチなのに、酷いな〜」
「はあ……分かったから、静かにしろ」
「はいっす! 春木パイセンっ!」
「はあ……最悪だ」

 休憩をすることになり、バックヤードにやってきた。社員さんが気を遣ってくれて、桑島と同じ時間になった。
 そこで、賄いのルールを教えることになった。正直、関わり合いになりたくない。

 こんな奴と話すことなんて、一つもない。同じ空気を吸うのも嫌になるほどに、疲弊してしまった。
 僕は黙って黙々と、仕事をしていたい。それなのに、こいつときたら煩いんだよな。

 だけど初日なのに、もう馴染んでいるんだよな。キッチンは、若い人が少ない。
 それもあってか、年配の人たちから可愛がられる。自分でも言うのもなんだけど、ありがたい一面もあったんだよな。
 それ自体はいいが、極力関わり合いになりたくない。しかし店長から、休憩の仕方を教えてねと言われた。