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「──さっきの続きだけどさ。緑が田崎と別れたの、耀司のせいもあるだろ」
女子に囲まれていた耀司と別れ、同じ必修を取るワタルとコースケと一緒に教室に入った。
並んで腰を下ろすと、隣のワタルがやけに真面目な顔でこちらを見る。
「んなことねえよ」
「だってさ、つき合ってるってバレてから、耀司めちゃくちゃ緑にべったりだったじゃん。そりゃ田崎も近寄れねーよな」
ワタルの言葉に、向こう側に座るコースケが身を乗り出す。
「そうそう。田崎ってワード、完全に耀司の地雷になっててさ。空気読めねー奴が緑に田崎ネタ振ると、露骨に機嫌悪くなるから、俺らも相当気ぃ遣ったんだぜ」
コースケは「今も言えねーしな」と肩をすくめ、うんうんと大きく頷いた。
田崎の名前は、完全に耀司の地雷だった。
「悪い……秘密にされてたのがかなり胸糞悪かったみてーで」
「そんなんなのに何でつき合ったの? 今だに緑と田崎は謎だわ。接点もないし、話してる所も見たことねーし」
「そそ、俺ン中の七不思議だわ、どっちから告ったの」
二人が俺の答えを聞きたくて、じっと見てくる。
ワンコ二匹が餌をわくわくして待ってるみたいでぷっと噴き出してしまった。
「内緒、教えねーよ」
「なんだよそれ、ドケチ!」
「期待させんじゃねーよっ」
キャンキャン鳴いているみたいで、まるで俺にだけ当たりのキツイノエルだ。
ノエルは、きっと俺の気持ちを知っている。
「ここだけの話、まだ田崎のこと好きなんじゃねーの、緑」
ワタルが珍しくマジな顔をする。
「は? 全然だけど」
「ホントに? 時々すんげー辛そうな顔してるからさ、耀司に絡まれてる時」
ワタルはいつだって人の感情に敏感で、時々嫌な所をついてくる。
「はは、気のせいだって」
自分たちは幼馴染。それ以上でもそれ以下でもない。
感情は混線したまま、未だに直る気配はない。
「実際緑の彼氏状態だもんな、耀司」
「はいはい、言ってろ」
つき合いが高校からのコースケは、当初俺に絡むたびに耀司に剥がされ、間を取らされていた。
幼馴染じゃしょーがねーよな、とコースケは耀司の独占欲に笑っていた。
「あんな、黙っててもイケメンって言われる男がいつもくっついててさ、とばっちり食らってばっかだっただろ?」
ワタルが呆れたように息を吐く。
「正直、緑はその弊害で女子苦手になったとこあるっしょ。だからこそさ、田崎は特別だったんじゃねーの? それ、結構大事なことよ?」
「だから、ホント耀司は関係ないって」
「嘘じゃん?」
そう言い切ったつもりだったのに、ワタルに否定されて声が少し強くなった。
「田崎は大阪の大学って決まってたし。遠恋は無理だって、どのみち卒業したら別れるって話だったんだ」
「……はあ?」
ワタルは俺の言葉を飲み込めなかったみたいに、眉を寄せた。
「な、なんだよ」
「じゃあ逆に聞くけどさ。進学先が分かってたなら、なんでつき合ったんだよ」
「それは──」
畳みかけるように言われて、言葉に詰まる。
「遠恋無理って理由だけで、そんなあっさり別れられるもんか?」
「確かに」
今度はコースケまで口を挟んできた。
「好きならさ、別れる必要なくね?」
二人に挟まれて、視線を泳がせる。
「ち、違うって……」
「いいっていいって」
ワタルは手を振って、どこか納得したように言った。
「無理すんなよ。どうせ、耀司の存在がデカすぎたんだろ」
「だよな。田崎も耀司には勝てねーわな」
二人は妙に納得したようだった。
「田崎バーサス耀司の戦いは耀司の勝利か」
「しゃーねえ。さっきの女子もそうだったけどさ。耀司にアピってくる女子って、気ぃ強そうなのばっかじゃん。あれ見てたら、耀司が緑オンリーになるのも分かんだよなあ」
「緑以外塩対応だもんな。女子も強烈にアピらねーと印象残らねーから、逞しくなってああなるんだろ。超悪循環だわ」
コースケはどこか分析的な目で、さっきまで耀司を囲んでいた女子たちを思い浮かべている様子だった。
「塩なのは緑守るために警戒してるんだよな。女子は緑のポジション奪うために必死だからさ」
「男の友情に勝てると思ってんだもんな。ガッツあるぜ。だからって緑を敵認定すんのどうなの」
「そうそう、露骨に睨むよな、俺らまで邪魔者扱いされるしさ、こえーのなんのって。ん?」
そこまで言って、ワタルは何かに気づいたようだった。
「俺ら耀司から、さっき睨まれてね?」
「めっさ睨まれたわ」
コースケが即答する。
「?」
「?」
ワタルとコースケがお互いを見合って首を傾げる。
「え、俺ら耀司に敵認定されてる?」
その仕草が妙にシンクロしていて、思わず笑ってしまった。
