(くっ、言いくるめられたな……)
レオンはキュッと口をむすんだ。
「こういうの困るんだよ……」
「いや……なの?」
シエルが小首をかしげながら、レオンの顔を覗き込んでくる。
その碧眼が、不安そうに揺れていた。
男装を解いた彼女は、驚くほど可憐で――思わず守ってあげたくなるような儚さを漂わせている。
銀色の髪が湯気に濡れて、頬に張り付いている様子が、なんとも艶めかしい。
「あ、いや、心配してくれるのはありがたいんだけど、ちょっと、刺激が強すぎる……よね?」
レオンは必死に理性を保とうとする。
視線をどこに向ければいいのか分からない。
「別に嫌ならいつだって逃げられるし? ほら」
ルナは無邪気な表情で、ドアを指差しながら言う。
その緋色の瞳には、悪気など微塵もない。純粋に、レオンを励まそうとしているだけなのだ。
しかし、レオンの身体にはすでに生理現象が起こっており、とてもじゃないが立ち上がって外に出られるような――いや、絶対に立ち上がってはいけない状態になっていた。
(まずい……まずいぞこれは……!)
レオンは前かがみになって、顔を真っ赤に染める。
膝を抱えて、できるだけ体を小さく丸めた。
「に、逃げは……しないよ……」
声が、上ずった。
「さて、背中流して差し上げますわ。ほら、上がって?」
ミーシャが悪戯っぽい笑みを浮かべながら、レオンの腕を引っ張る。
その柔らかな手の感触に、レオンの心臓はさらに早鐘を打った。
ミーシャの指が、まるで羽のように優しく腕に絡みつく。
「やっ、やめて!」
レオンは慌てて腕を振り切る。
「まだ入ったばかりなの! 放っておいて! 頼むから!」
そう叫ぶと、レオンは必死に向こうを向いた。
窓の外の夕焼け空を、まるで命綱のように見つめる。
(静まれ、静まれ、静まれ……! えーと、何か悩んでたよな? そ、そうだよ! スキルのこと! そうだ、失ったスキルのことを……)
しかし、スキルを失った絶望を思い出そうとしても、目の前の刺激的すぎる状況がそれを上回ってしまう。
背中にミーシャの視線を感じる。横からはエリナの吐息が聞こえる。ルナとシエルの視線もビシビシと感じる。
四方八方から、甘い香りと柔らかな気配に包囲されていた。
(なんでだよぉ……)
レオンの心の中で、虚しい叫びが木霊した。
「じゃあ、少し待っててあげますわ」
ミーシャが優雅に微笑む。
「なら、私も入ろ!」
「そーれ!」
「きゃははは!」
バシャバシャと盛大な水音を立てながら、残りの三人も次々と湯船に飛び込んでくる。
「おわぁ!」
お湯が大きく波打ち、レオンの体に柔らかな感触がいくつも触れては離れていく。
少女たちの甘い香りが、湯気に混じって鼻をくすぐる。
花の香り。果実の香り。甘酸っぱい香り。
四人四様の、女の子特有の甘い匂いが、レオンの嗅覚を蹂躙していく。
身体の反応は静まるどころか高まるばかり。
こんなのを見られたらすべてが終わってしまう――。
レオンはキュッと唇を結び、泣きそうな顔をして膝を抱えた。
(神様……どうか、この試練を乗り越える力を……!)
彼にとって、かつて三万の魔物と戦ったスタンピードの時よりも、今この瞬間の方がよほど過酷な戦場だった。
◇
そんなレオンの必死の戦いなど気が付きもせず、少女たちは少女たちで、楽しそうにお喋りを始めた。
「あらぁ……ミーシャの肌、すっごく綺麗……」
エリナがうっとりとした表情で、ミーシャの二の腕をそっと撫でる。
普段は剣一筋で、女性らしさとは無縁に見えるエリナだが、やはり年頃の少女。美容への関心は人一倍強いのだろう。
「あら、お手入れの秘訣を教えて差し上げましょうか? 毎晩、ハーブオイルで丁寧にマッサージをするんですの。特に、肘や膝は念入りに……」
ミーシャが得意げに微笑む。
その白い肌は、確かに陶器のように滑らかで、一点の曇りもなかった。
「ハーブオイル!? いつの間に? 私たち、あんなに貧乏だったのに……」
エリナが目を丸くする。
確かに、アルカナを結成したばかりの頃は、宿代を払うのも精一杯だったはずだ。
「ふふっ、ハーブなんてその辺の草でいいんですのよ。カモミールとかローズマリーとか、道端に生えてるでしょ? それを摘んで、オリーブ油に漬け込むだけ。お金なんてかかりませんわ」
「そんなのでいいの?!」
エリナの目が輝く。
復讐のことしか考えてこなかった彼女にとって、こういう女の子らしい話題は新鮮なのだろう。
「私も教えて! あのね、最近ちょっと肌が荒れちゃって……」
ルナが身を乗り出す――その瞬間。
つるん。
足を滑らせて。
バシャーン!
と、盛大な水しぶきを上げた。
レオンはキュッと口をむすんだ。
「こういうの困るんだよ……」
「いや……なの?」
シエルが小首をかしげながら、レオンの顔を覗き込んでくる。
その碧眼が、不安そうに揺れていた。
男装を解いた彼女は、驚くほど可憐で――思わず守ってあげたくなるような儚さを漂わせている。
銀色の髪が湯気に濡れて、頬に張り付いている様子が、なんとも艶めかしい。
「あ、いや、心配してくれるのはありがたいんだけど、ちょっと、刺激が強すぎる……よね?」
レオンは必死に理性を保とうとする。
視線をどこに向ければいいのか分からない。
「別に嫌ならいつだって逃げられるし? ほら」
ルナは無邪気な表情で、ドアを指差しながら言う。
その緋色の瞳には、悪気など微塵もない。純粋に、レオンを励まそうとしているだけなのだ。
しかし、レオンの身体にはすでに生理現象が起こっており、とてもじゃないが立ち上がって外に出られるような――いや、絶対に立ち上がってはいけない状態になっていた。
(まずい……まずいぞこれは……!)
レオンは前かがみになって、顔を真っ赤に染める。
膝を抱えて、できるだけ体を小さく丸めた。
「に、逃げは……しないよ……」
声が、上ずった。
「さて、背中流して差し上げますわ。ほら、上がって?」
ミーシャが悪戯っぽい笑みを浮かべながら、レオンの腕を引っ張る。
その柔らかな手の感触に、レオンの心臓はさらに早鐘を打った。
ミーシャの指が、まるで羽のように優しく腕に絡みつく。
「やっ、やめて!」
レオンは慌てて腕を振り切る。
「まだ入ったばかりなの! 放っておいて! 頼むから!」
そう叫ぶと、レオンは必死に向こうを向いた。
窓の外の夕焼け空を、まるで命綱のように見つめる。
(静まれ、静まれ、静まれ……! えーと、何か悩んでたよな? そ、そうだよ! スキルのこと! そうだ、失ったスキルのことを……)
しかし、スキルを失った絶望を思い出そうとしても、目の前の刺激的すぎる状況がそれを上回ってしまう。
背中にミーシャの視線を感じる。横からはエリナの吐息が聞こえる。ルナとシエルの視線もビシビシと感じる。
四方八方から、甘い香りと柔らかな気配に包囲されていた。
(なんでだよぉ……)
レオンの心の中で、虚しい叫びが木霊した。
「じゃあ、少し待っててあげますわ」
ミーシャが優雅に微笑む。
「なら、私も入ろ!」
「そーれ!」
「きゃははは!」
バシャバシャと盛大な水音を立てながら、残りの三人も次々と湯船に飛び込んでくる。
「おわぁ!」
お湯が大きく波打ち、レオンの体に柔らかな感触がいくつも触れては離れていく。
少女たちの甘い香りが、湯気に混じって鼻をくすぐる。
花の香り。果実の香り。甘酸っぱい香り。
四人四様の、女の子特有の甘い匂いが、レオンの嗅覚を蹂躙していく。
身体の反応は静まるどころか高まるばかり。
こんなのを見られたらすべてが終わってしまう――。
レオンはキュッと唇を結び、泣きそうな顔をして膝を抱えた。
(神様……どうか、この試練を乗り越える力を……!)
彼にとって、かつて三万の魔物と戦ったスタンピードの時よりも、今この瞬間の方がよほど過酷な戦場だった。
◇
そんなレオンの必死の戦いなど気が付きもせず、少女たちは少女たちで、楽しそうにお喋りを始めた。
「あらぁ……ミーシャの肌、すっごく綺麗……」
エリナがうっとりとした表情で、ミーシャの二の腕をそっと撫でる。
普段は剣一筋で、女性らしさとは無縁に見えるエリナだが、やはり年頃の少女。美容への関心は人一倍強いのだろう。
「あら、お手入れの秘訣を教えて差し上げましょうか? 毎晩、ハーブオイルで丁寧にマッサージをするんですの。特に、肘や膝は念入りに……」
ミーシャが得意げに微笑む。
その白い肌は、確かに陶器のように滑らかで、一点の曇りもなかった。
「ハーブオイル!? いつの間に? 私たち、あんなに貧乏だったのに……」
エリナが目を丸くする。
確かに、アルカナを結成したばかりの頃は、宿代を払うのも精一杯だったはずだ。
「ふふっ、ハーブなんてその辺の草でいいんですのよ。カモミールとかローズマリーとか、道端に生えてるでしょ? それを摘んで、オリーブ油に漬け込むだけ。お金なんてかかりませんわ」
「そんなのでいいの?!」
エリナの目が輝く。
復讐のことしか考えてこなかった彼女にとって、こういう女の子らしい話題は新鮮なのだろう。
「私も教えて! あのね、最近ちょっと肌が荒れちゃって……」
ルナが身を乗り出す――その瞬間。
つるん。
足を滑らせて。
バシャーン!
と、盛大な水しぶきを上げた。



