「もうすぐ到着ですよー」
御者の明るい声が、眠りこけていた五人を現実へと引き戻した。
「ん?」
「へ?」
「もう?」
いつの間にか、争っていた少女たちも疲れ果てて眠りに落ちていたらしい。床に座っていたレオンも、揺れる馬車の中でうとうとしていた。
馬車は一面の小麦畑を抜ける一本道を、クーベルノーツへ向けてパッカパッカと順調に進んでいる。
麦畑を抜ける風が黄金の穂を揺らし、まるで大地が呼吸しているかのような壮大なウェーブを描いていた。
つい数日前、この道を逆方向に進んだ時のことを、レオンは思い出していた。あの時は不安と緊張で胸が張り裂けそうだったし、仲間たちを死地に送り込むという重圧に、押し潰されそうだった。
だが今は違う。
同じ風景が、まったく別のものに見える。黄金色の穂が揺れるその様が、まるで自分たちの凱旋を祝福しているかのようだった。
窓から顔を出すと、前方に堅牢な城壁が見える。
「はぁ、無事に帰って来れたんだなぁ……」
レオンが深い安堵の息を漏らす。
帰ってきた。
五人全員、誰一人欠けることなく。
その事実が、何よりも嬉しかった。
「行くときは泣いてたケドね。ふふっ」
エリナが少し意地悪な調子で笑った。だが、その声には温かさが滲んでいる。黒曜石のような瞳が、どこか優しく細められている。
「それは言わないでよ……」
レオンは苦笑いを浮かべながら肩を落とした。
仲間たちを危険に晒すことへの恐怖と、それでも前に進まなければならないという決意が、涙となって溢れ出していたのだ。
だが、あれだけの想いを込めたからこそ、奇跡を起こせたのかもしれない。
レオンは少し瞳を潤ませながら、徐々に大きくなっていく城門を眺めた。
その時だった――。
ポン! ポンポン!
城門の上で赤青緑の鮮やかな魔法が炸裂し、まるで打ち上げ花火のような盛大な光の軌跡を描いた。光の粒子が朝の空にキラキラと舞い散り、虹色のカーテンのように揺らめいている。
「え?」
「なに?」
「どうしたの?」
五人は思わず窓に顔を寄せる。
見れば城門のあたりに、数百、いや千を超える人々が集まっている。老人も、子供も、男も、女も。みんな手を振り、拍手をして、馬車を熱狂的に歓迎しているではないか。
「ははっ、こりゃぁ凱旋パレードですなぁ! すごい!」
御者は楽しそうに笑った。
「が、凱旋パレード!?」
五人はその盛大な歓迎に圧倒される。
まさか、こんな出迎えが待っているとは、夢にも思っていなかった。
◇
「アルカナー!」
「ありがとーう!」
「最高だぜ!」
「英雄様だ!」
歓声と盛大な拍手の中、馬車はゆっくりと速度を落として城門をくぐった。
ポンポーン!
魔法の花火が景気よく弾ける中、馬車はパッカパッカと蹄の音を響かせ、ゆったりと石畳の道を進んでいく。
うわぁぁぁぁ!
英雄の馬車の登場に、街全体が歓声に包まれた。
通りの両側は人の海で埋め尽くされている。みんな涙を流しながら、笑顔で『アルカナ』の偉業を讃えていた。
母親が子供を肩車して手を振っている。老人が杖を振り上げて叫んでいる。若者たちが肩を組んで歌っている。
十万人の命を救った。
その感謝が、街中から溢れ出していた。
「サンキュー!」
「アルカナ万歳!」
「命の恩人だ!」
通りに面する家の窓からも、声がかかる。老人が涙を流しながら手を合わせ、子供が無邪気に手を振り、母親が赤ん坊を抱きながら感謝の言葉を叫んでいる。
花びらが窓から投げられ、五人の頭上に舞い降りる。赤、白、黄色、ピンク。色とりどりの花弁が、祝福の雨のように降り注いでいく。
一行は圧倒されながらも、窓から手を振って応えていった。
「ボクたち、凄いこと……やったんだね……」
シエルの碧い瞳に涙が光る。男装の下から感情が溢れ出している。
つい数日前まで、自分は逃亡者だった。将来も見えず、行き詰まり、ただ逃げ続けるだけの存在。それが今、こんなにも大勢の人に感謝されている。
「落ちこぼれから……こんな風に……」
ミーシャも目を潤ませる。聖女の仮面など、もうどこにもない。ただの感動に震える少女の顔があった。
孤児院で誰にも本当の自分を見せられなかった。聖女を演じ続けなければ、居場所がなく必死だった。でも今は違う。本当の自分を受け入れてくれる仲間がいて、その仲間と一緒に、こんな奇跡を起こせた。
「みんな……喜んでる……」
ルナが窓から身を乗り出し、群衆を見つめる。
かつて、自分は化け物だと思っていた。強すぎる力は呪いであり、人を傷つけることしかできないと。でも、その力で、こんなにも多くの人を救うことができた。
この歓声の中にいる一人一人が、自分の魔法のおかげで生きている。その事実が、胸を熱くする。
「私たち……本当に……」
エリナも、普段のクールな表情を崩し、涙を一筋流した。
復讐だけを生きがいにしていた。家族を殺した者たちへの憎しみだけが、自分を動かす原動力だった。でも今、人を救う側に立っている。守る側に立っている。
五年前に失ったものは、もう戻らない。
でも、新しく得たものがある。
仲間がいる。信じてくれる人がいる。そして、守るべき人々がいるのだ。
御者の明るい声が、眠りこけていた五人を現実へと引き戻した。
「ん?」
「へ?」
「もう?」
いつの間にか、争っていた少女たちも疲れ果てて眠りに落ちていたらしい。床に座っていたレオンも、揺れる馬車の中でうとうとしていた。
馬車は一面の小麦畑を抜ける一本道を、クーベルノーツへ向けてパッカパッカと順調に進んでいる。
麦畑を抜ける風が黄金の穂を揺らし、まるで大地が呼吸しているかのような壮大なウェーブを描いていた。
つい数日前、この道を逆方向に進んだ時のことを、レオンは思い出していた。あの時は不安と緊張で胸が張り裂けそうだったし、仲間たちを死地に送り込むという重圧に、押し潰されそうだった。
だが今は違う。
同じ風景が、まったく別のものに見える。黄金色の穂が揺れるその様が、まるで自分たちの凱旋を祝福しているかのようだった。
窓から顔を出すと、前方に堅牢な城壁が見える。
「はぁ、無事に帰って来れたんだなぁ……」
レオンが深い安堵の息を漏らす。
帰ってきた。
五人全員、誰一人欠けることなく。
その事実が、何よりも嬉しかった。
「行くときは泣いてたケドね。ふふっ」
エリナが少し意地悪な調子で笑った。だが、その声には温かさが滲んでいる。黒曜石のような瞳が、どこか優しく細められている。
「それは言わないでよ……」
レオンは苦笑いを浮かべながら肩を落とした。
仲間たちを危険に晒すことへの恐怖と、それでも前に進まなければならないという決意が、涙となって溢れ出していたのだ。
だが、あれだけの想いを込めたからこそ、奇跡を起こせたのかもしれない。
レオンは少し瞳を潤ませながら、徐々に大きくなっていく城門を眺めた。
その時だった――。
ポン! ポンポン!
城門の上で赤青緑の鮮やかな魔法が炸裂し、まるで打ち上げ花火のような盛大な光の軌跡を描いた。光の粒子が朝の空にキラキラと舞い散り、虹色のカーテンのように揺らめいている。
「え?」
「なに?」
「どうしたの?」
五人は思わず窓に顔を寄せる。
見れば城門のあたりに、数百、いや千を超える人々が集まっている。老人も、子供も、男も、女も。みんな手を振り、拍手をして、馬車を熱狂的に歓迎しているではないか。
「ははっ、こりゃぁ凱旋パレードですなぁ! すごい!」
御者は楽しそうに笑った。
「が、凱旋パレード!?」
五人はその盛大な歓迎に圧倒される。
まさか、こんな出迎えが待っているとは、夢にも思っていなかった。
◇
「アルカナー!」
「ありがとーう!」
「最高だぜ!」
「英雄様だ!」
歓声と盛大な拍手の中、馬車はゆっくりと速度を落として城門をくぐった。
ポンポーン!
魔法の花火が景気よく弾ける中、馬車はパッカパッカと蹄の音を響かせ、ゆったりと石畳の道を進んでいく。
うわぁぁぁぁ!
英雄の馬車の登場に、街全体が歓声に包まれた。
通りの両側は人の海で埋め尽くされている。みんな涙を流しながら、笑顔で『アルカナ』の偉業を讃えていた。
母親が子供を肩車して手を振っている。老人が杖を振り上げて叫んでいる。若者たちが肩を組んで歌っている。
十万人の命を救った。
その感謝が、街中から溢れ出していた。
「サンキュー!」
「アルカナ万歳!」
「命の恩人だ!」
通りに面する家の窓からも、声がかかる。老人が涙を流しながら手を合わせ、子供が無邪気に手を振り、母親が赤ん坊を抱きながら感謝の言葉を叫んでいる。
花びらが窓から投げられ、五人の頭上に舞い降りる。赤、白、黄色、ピンク。色とりどりの花弁が、祝福の雨のように降り注いでいく。
一行は圧倒されながらも、窓から手を振って応えていった。
「ボクたち、凄いこと……やったんだね……」
シエルの碧い瞳に涙が光る。男装の下から感情が溢れ出している。
つい数日前まで、自分は逃亡者だった。将来も見えず、行き詰まり、ただ逃げ続けるだけの存在。それが今、こんなにも大勢の人に感謝されている。
「落ちこぼれから……こんな風に……」
ミーシャも目を潤ませる。聖女の仮面など、もうどこにもない。ただの感動に震える少女の顔があった。
孤児院で誰にも本当の自分を見せられなかった。聖女を演じ続けなければ、居場所がなく必死だった。でも今は違う。本当の自分を受け入れてくれる仲間がいて、その仲間と一緒に、こんな奇跡を起こせた。
「みんな……喜んでる……」
ルナが窓から身を乗り出し、群衆を見つめる。
かつて、自分は化け物だと思っていた。強すぎる力は呪いであり、人を傷つけることしかできないと。でも、その力で、こんなにも多くの人を救うことができた。
この歓声の中にいる一人一人が、自分の魔法のおかげで生きている。その事実が、胸を熱くする。
「私たち……本当に……」
エリナも、普段のクールな表情を崩し、涙を一筋流した。
復讐だけを生きがいにしていた。家族を殺した者たちへの憎しみだけが、自分を動かす原動力だった。でも今、人を救う側に立っている。守る側に立っている。
五年前に失ったものは、もう戻らない。
でも、新しく得たものがある。
仲間がいる。信じてくれる人がいる。そして、守るべき人々がいるのだ。



