二人を両腕に抱え、レオンはただ、欲望に負けないようにと顔をしかめた。
柔らかな感触と甘い香りに包まれながら、彼は心の中で叫ぶ。
(神様……これは何の試練なのですか?!)
右腕にはミーシャの豊満な体、左腕にはルナの小さくも弾力のある体が寄り添っている。二人の体温が混ざり合い、二人の香りが溶け合い、二人の吐息が耳元をくすぐる。
これは天国なのか、地獄なのか?
レオンには拷問のようなジリジリとした時間が過ぎていく――。
やがて二人はうとうとし始める。極度の疲労と安心感から、急速に睡魔に襲われていたのだ。
「レオン……好き……」
ルナが寝言を呟く。
「あたしも……大好きですわ……」
ミーシャも夢うつつでささやく。
レオンは、腕の中で眠りに落ちていく少女たちを見下ろしながら、口をキュッと結んだ。
嬉しい。
正直に言えば、とても嬉しい。
こんなに可愛らしい少女たちに想いを寄せられて、嬉しくないはずがない。
だが同時に、責任の重さも感じていた。
彼女たちは、自分を信じてついてきてくれた。自分の言葉を信じて、命懸けの戦いに身を投じてくれた。その信頼に、自分は応え続けなければならない。
欲望のはけ口として、この純粋な少女たちを貪るようなことはあってはならなかった。そんなことをしたら、今まで彼女たちを利用しようとしてきた男たちと変わりなくなってしまう。
(……守らなきゃな)
レオンは静かに決意を新たにする。
この少女たちの笑顔を、この少女たちの未来を、何があっても守り抜く。
それが、自分に課せられた使命であり、【運命鑑定】を得た時に見た輝かしい未来につながる道なのだ。
しかし――。
本能深く突き刺さる、温かなどこまでも柔らかな感触に、レオンはどこまでも苛まれていく。
「何なんだよぉ……。くぅぅぅ……」
朝日が昇り始めた空の下、奇跡的な勝利の余韻の中で、レオンは別の意味での死闘を繰り広げる羽目になってしまったのだった。
◇
地獄のような時間が過ぎ、ようやくレオンは解放された。
何とか無事に山を下りて来たレオンたちは、砦で歓迎を受ける。
奇跡を起こし、街を守った男――――。
本来ならば、それは最大級の賛辞でもって迎えられるべきものだった。実際、兵士たちは感謝の言葉を口にし、握手を求めてくる。
だが、その表情には、どこかしら腫れ物に触るようなよそよそしさが漂っていた。
握手を求める手はわずかに震え、感謝を述べる声はどこか上ずっている。そして何より、彼らの瞳の奥には、言葉にできない恐怖が見え隠れしていた。
英雄か、災厄か。
三万の命を一瞬で灰に変えた光景を目の当たりにした彼らは、まだ答えを出せずにいるのだ。あの灰色の津波が、もし自分たちに向けられたら。そんな想像が、感謝の念と共存して、彼らの心を複雑に揺さぶっている。
司令官ガルバンに報告した際も、どこか警戒されている色があった。感謝と畏怖が入り混じった、複雑な眼差し。五十年の戦歴を持つ歴戦の勇士でさえ、レオンたちを前にすると、どこか居心地悪そうにしていた。
ただ、徹夜での命がけのミッションで一行は限界に達していた。
控室に用意された簡易ベッドに倒れ込むように身を投げ出すと、五人は泥のように眠りに落ちた。安堵と疲労が、ようやく彼らを解放したのだ。
◇
日の傾きかけた頃――――。
目を覚ましたレオンは、シエルが戦っていた監視塔に登って辺りを見回した。
眼下に広がるのは、昨日とは打って変わって灰色の火山灰に覆い尽くされた大地だった。
かつて緑豊かだった谷は、今や死の荒野へと変貌している。風が吹くたびに灰が舞い上がり、まるで亡霊たちが踊っているかのようだった。生命の気配は微塵もない。ただ、静寂と喪失だけが支配する世界。
今朝まで、あそこには三万の命があった。
憎むべき魔物とはいえ、彼らにも意志があり、生きようとする力があった。それら全てが、今は灰となって風に舞っている。
レオンは唇をキュッと結んだ。
【運命鑑定】が無ければ、誰もこんなことは起こせなかっただろう。そして今頃、街は阿鼻叫喚の地獄絵図になっていたに違いない。
確かにアルカナはやった。見事な逆転劇だった。十万の命を救い、伝説の一歩を刻んだのだ。
しかし――――。
(これで、本当にいいのだろうか……?)
消せない疑念が、心の奥底でくすぶっている。
今回は魔物だったから、ある意味では自業自得かもしれない。だが、もし人間が攻めて来た時も、これをやるのだろうか?
きっと【運命鑑定】は、想像を絶する方法で目的を完遂してしまうに違いない。どれだけ多くの命が失われようとも、最適解を示してしまうのだ。
三万の命を奪った。
それは憎き魔物であっても、命は命だ。その重さが、レオンの胸にずしりと圧し掛かっていた。
『大いなる力には、大いなる責任を伴う』
いつか聞いたそんな言葉が、頭の中で何度も渦巻いた。
柔らかな感触と甘い香りに包まれながら、彼は心の中で叫ぶ。
(神様……これは何の試練なのですか?!)
右腕にはミーシャの豊満な体、左腕にはルナの小さくも弾力のある体が寄り添っている。二人の体温が混ざり合い、二人の香りが溶け合い、二人の吐息が耳元をくすぐる。
これは天国なのか、地獄なのか?
レオンには拷問のようなジリジリとした時間が過ぎていく――。
やがて二人はうとうとし始める。極度の疲労と安心感から、急速に睡魔に襲われていたのだ。
「レオン……好き……」
ルナが寝言を呟く。
「あたしも……大好きですわ……」
ミーシャも夢うつつでささやく。
レオンは、腕の中で眠りに落ちていく少女たちを見下ろしながら、口をキュッと結んだ。
嬉しい。
正直に言えば、とても嬉しい。
こんなに可愛らしい少女たちに想いを寄せられて、嬉しくないはずがない。
だが同時に、責任の重さも感じていた。
彼女たちは、自分を信じてついてきてくれた。自分の言葉を信じて、命懸けの戦いに身を投じてくれた。その信頼に、自分は応え続けなければならない。
欲望のはけ口として、この純粋な少女たちを貪るようなことはあってはならなかった。そんなことをしたら、今まで彼女たちを利用しようとしてきた男たちと変わりなくなってしまう。
(……守らなきゃな)
レオンは静かに決意を新たにする。
この少女たちの笑顔を、この少女たちの未来を、何があっても守り抜く。
それが、自分に課せられた使命であり、【運命鑑定】を得た時に見た輝かしい未来につながる道なのだ。
しかし――。
本能深く突き刺さる、温かなどこまでも柔らかな感触に、レオンはどこまでも苛まれていく。
「何なんだよぉ……。くぅぅぅ……」
朝日が昇り始めた空の下、奇跡的な勝利の余韻の中で、レオンは別の意味での死闘を繰り広げる羽目になってしまったのだった。
◇
地獄のような時間が過ぎ、ようやくレオンは解放された。
何とか無事に山を下りて来たレオンたちは、砦で歓迎を受ける。
奇跡を起こし、街を守った男――――。
本来ならば、それは最大級の賛辞でもって迎えられるべきものだった。実際、兵士たちは感謝の言葉を口にし、握手を求めてくる。
だが、その表情には、どこかしら腫れ物に触るようなよそよそしさが漂っていた。
握手を求める手はわずかに震え、感謝を述べる声はどこか上ずっている。そして何より、彼らの瞳の奥には、言葉にできない恐怖が見え隠れしていた。
英雄か、災厄か。
三万の命を一瞬で灰に変えた光景を目の当たりにした彼らは、まだ答えを出せずにいるのだ。あの灰色の津波が、もし自分たちに向けられたら。そんな想像が、感謝の念と共存して、彼らの心を複雑に揺さぶっている。
司令官ガルバンに報告した際も、どこか警戒されている色があった。感謝と畏怖が入り混じった、複雑な眼差し。五十年の戦歴を持つ歴戦の勇士でさえ、レオンたちを前にすると、どこか居心地悪そうにしていた。
ただ、徹夜での命がけのミッションで一行は限界に達していた。
控室に用意された簡易ベッドに倒れ込むように身を投げ出すと、五人は泥のように眠りに落ちた。安堵と疲労が、ようやく彼らを解放したのだ。
◇
日の傾きかけた頃――――。
目を覚ましたレオンは、シエルが戦っていた監視塔に登って辺りを見回した。
眼下に広がるのは、昨日とは打って変わって灰色の火山灰に覆い尽くされた大地だった。
かつて緑豊かだった谷は、今や死の荒野へと変貌している。風が吹くたびに灰が舞い上がり、まるで亡霊たちが踊っているかのようだった。生命の気配は微塵もない。ただ、静寂と喪失だけが支配する世界。
今朝まで、あそこには三万の命があった。
憎むべき魔物とはいえ、彼らにも意志があり、生きようとする力があった。それら全てが、今は灰となって風に舞っている。
レオンは唇をキュッと結んだ。
【運命鑑定】が無ければ、誰もこんなことは起こせなかっただろう。そして今頃、街は阿鼻叫喚の地獄絵図になっていたに違いない。
確かにアルカナはやった。見事な逆転劇だった。十万の命を救い、伝説の一歩を刻んだのだ。
しかし――――。
(これで、本当にいいのだろうか……?)
消せない疑念が、心の奥底でくすぶっている。
今回は魔物だったから、ある意味では自業自得かもしれない。だが、もし人間が攻めて来た時も、これをやるのだろうか?
きっと【運命鑑定】は、想像を絶する方法で目的を完遂してしまうに違いない。どれだけ多くの命が失われようとも、最適解を示してしまうのだ。
三万の命を奪った。
それは憎き魔物であっても、命は命だ。その重さが、レオンの胸にずしりと圧し掛かっていた。
『大いなる力には、大いなる責任を伴う』
いつか聞いたそんな言葉が、頭の中で何度も渦巻いた。



