それでも、レオンは微笑みを崩さない。
手も離さない。
(どうして……どうして、そこまで……)
ルナの瞳から、涙が溢れ出す。
あの日、魔法学院で暴走した時、誰もがルナから逃げていった。親友さえも、最後には背を向けた。
当然だ。
化け物から逃げるのは、当たり前のことだ。
でも、この人は――。
この人だけは、逃げない。
火傷を負いながら、激痛に耐えながら、それでも自分を抱きしめ続けている。
「できると信じてごらん? 本当のキミには簡単なことなんだから……」
「本当の……私……?」
本当の私。
それは、どんな私だろう。
化け物? 災厄? 呪われた存在?
違う。
レオンが見ているのは、そんな私じゃない。
『僕は本当のルナを知ってるよ』
来る途中に聞いた言葉が、心の奥底で響く。
『暴走する力も、それにおびえる弱さも全部含めて、僕にはルナが必要なんだ』
そう口説かれながら山道を登ってきていたのだ。
なぜかは知らないが、ずっと前からルナは知っていた。
この人のためなら、何でもできる、と。
この人のためなら、どんな恐怖にも立ち向かえる、と。
「くっ!」
ルナは涙を拭い、大きく息を吸い込む。レオンの吐息が、痛みと共に確かな信頼を伝えてくる。
何度か大きく深呼吸を繰り返すと、上空で暴れる炎龍を睨みつけた。
緋色の瞳が、龍殺しの魔力を宿して妖しく輝く。その瞬間、少女の中に眠っていた真の力が目覚める。
恐怖は、消えていなかった。
トラウマは、癒えていなかった。
でも、それでいい。
怖くても、震えていても、立ち向かうことはできる。
大切な人を守るために。
信じてくれた人に応えるために。
「炎龍よ!」
小さな体から、神をも畏怖させる威圧感が放たれる。大地が震え、空気がきしむ。
「戯れはこれまで! 我が命に従え!」
そして、凄まじい殺気を込めて叫んだ。
「従わなければ……ぶっ殺す!」
その瞬間、ルナの殺意が紫電となって炎龍を貫いた。龍を殺すために生まれた魔力が、その本性を露わにする。
これが、竜殺しの魔力。
これが、ルナ・クリムゾンの真の姿。
可愛らしい少女の外見の奥に潜む、古代龍さえも屠る殺戮の本能。
ギョワァァァ!
炎龍が怯えたような咆哮を上げる。まるで天敵に出会った獣のように、身を縮こまらせる。
自分が生み出した龍が、自分を恐れている。
それは、ルナにとって初めての経験だった。
(私は……龍を従えられる……!)
歓喜と共に、新たな力が全身を駆け巡る。
「行きなさい! あの穴に!」
次の瞬間、炎龍が主人に従う忠犬のように、素直に噴気孔へと突っ込んでいった。
「ヨシッ!」
ルナが小さくガッツポーズ。
その瞬間、全身から力が抜けて、膝から崩れ落ちそうになる。
「ルナ!」
レオンが、焼けただれた腕でルナを支えた。
「やった……私、やったよ……」
振り返ると、レオンの腕は酷い有様だった。赤く腫れ上がり、所々に水膨れができている。
「ご、ごめん……! 私のせいで……!」
涙が溢れ出す。また、大切な人を傷つけてしまった。
だが、レオンは笑っていた。
「ルナ、やったな」
「で、でも、腕が……!」
「こんなの、大したことないよ」
そう言って、レオンは焼けただれた腕を震わせながら上げた。
「君が成功したんだ。それに比べたら、こんな傷なんて……」
「馬鹿……! 馬鹿、馬鹿、馬鹿……!」
ルナはレオンの胸に顔を埋めて、声を上げて泣いた。
嬉しくて。
悔しくて。
そして、何より――この人のことが、どうしようもなく大切に思えて。
「べ、別に……あんたのためにやったわけじゃ、ないんだからね……」
涙声で、いつもの台詞を呟く。
レオンは優しく笑って、ルナの頭を撫でた。
「ああ、分かってる」
その手は、火傷で真っ赤に腫れ上がっていた。
それでも、その温もりは、どんな魔法よりも心地よかった。
◇
炎龍が噴気孔へと突っ込んでいった直後、ミーシャは一瞬の躊躇もなく前に踊り出た。
全身から黄金色の聖なる光が溢れ出し、まるで女神が降臨したかのような神々しさ。
「聖なる封印!」
両手を天に掲げ、全魔力を解放する。黄金の光が巨大な盾となって、炎龍が突っ込んでいった噴気孔を完全に塞いだ。
噴気孔の奥深くで炎龍が大爆発する轟音が響き、凄まじい衝撃が聖なる盾を揺るがす。
山全体が、巨人が目覚めるかのように震動し始める。火山が、三百年の眠りから目覚め始めていた。
手も離さない。
(どうして……どうして、そこまで……)
ルナの瞳から、涙が溢れ出す。
あの日、魔法学院で暴走した時、誰もがルナから逃げていった。親友さえも、最後には背を向けた。
当然だ。
化け物から逃げるのは、当たり前のことだ。
でも、この人は――。
この人だけは、逃げない。
火傷を負いながら、激痛に耐えながら、それでも自分を抱きしめ続けている。
「できると信じてごらん? 本当のキミには簡単なことなんだから……」
「本当の……私……?」
本当の私。
それは、どんな私だろう。
化け物? 災厄? 呪われた存在?
違う。
レオンが見ているのは、そんな私じゃない。
『僕は本当のルナを知ってるよ』
来る途中に聞いた言葉が、心の奥底で響く。
『暴走する力も、それにおびえる弱さも全部含めて、僕にはルナが必要なんだ』
そう口説かれながら山道を登ってきていたのだ。
なぜかは知らないが、ずっと前からルナは知っていた。
この人のためなら、何でもできる、と。
この人のためなら、どんな恐怖にも立ち向かえる、と。
「くっ!」
ルナは涙を拭い、大きく息を吸い込む。レオンの吐息が、痛みと共に確かな信頼を伝えてくる。
何度か大きく深呼吸を繰り返すと、上空で暴れる炎龍を睨みつけた。
緋色の瞳が、龍殺しの魔力を宿して妖しく輝く。その瞬間、少女の中に眠っていた真の力が目覚める。
恐怖は、消えていなかった。
トラウマは、癒えていなかった。
でも、それでいい。
怖くても、震えていても、立ち向かうことはできる。
大切な人を守るために。
信じてくれた人に応えるために。
「炎龍よ!」
小さな体から、神をも畏怖させる威圧感が放たれる。大地が震え、空気がきしむ。
「戯れはこれまで! 我が命に従え!」
そして、凄まじい殺気を込めて叫んだ。
「従わなければ……ぶっ殺す!」
その瞬間、ルナの殺意が紫電となって炎龍を貫いた。龍を殺すために生まれた魔力が、その本性を露わにする。
これが、竜殺しの魔力。
これが、ルナ・クリムゾンの真の姿。
可愛らしい少女の外見の奥に潜む、古代龍さえも屠る殺戮の本能。
ギョワァァァ!
炎龍が怯えたような咆哮を上げる。まるで天敵に出会った獣のように、身を縮こまらせる。
自分が生み出した龍が、自分を恐れている。
それは、ルナにとって初めての経験だった。
(私は……龍を従えられる……!)
歓喜と共に、新たな力が全身を駆け巡る。
「行きなさい! あの穴に!」
次の瞬間、炎龍が主人に従う忠犬のように、素直に噴気孔へと突っ込んでいった。
「ヨシッ!」
ルナが小さくガッツポーズ。
その瞬間、全身から力が抜けて、膝から崩れ落ちそうになる。
「ルナ!」
レオンが、焼けただれた腕でルナを支えた。
「やった……私、やったよ……」
振り返ると、レオンの腕は酷い有様だった。赤く腫れ上がり、所々に水膨れができている。
「ご、ごめん……! 私のせいで……!」
涙が溢れ出す。また、大切な人を傷つけてしまった。
だが、レオンは笑っていた。
「ルナ、やったな」
「で、でも、腕が……!」
「こんなの、大したことないよ」
そう言って、レオンは焼けただれた腕を震わせながら上げた。
「君が成功したんだ。それに比べたら、こんな傷なんて……」
「馬鹿……! 馬鹿、馬鹿、馬鹿……!」
ルナはレオンの胸に顔を埋めて、声を上げて泣いた。
嬉しくて。
悔しくて。
そして、何より――この人のことが、どうしようもなく大切に思えて。
「べ、別に……あんたのためにやったわけじゃ、ないんだからね……」
涙声で、いつもの台詞を呟く。
レオンは優しく笑って、ルナの頭を撫でた。
「ああ、分かってる」
その手は、火傷で真っ赤に腫れ上がっていた。
それでも、その温もりは、どんな魔法よりも心地よかった。
◇
炎龍が噴気孔へと突っ込んでいった直後、ミーシャは一瞬の躊躇もなく前に踊り出た。
全身から黄金色の聖なる光が溢れ出し、まるで女神が降臨したかのような神々しさ。
「聖なる封印!」
両手を天に掲げ、全魔力を解放する。黄金の光が巨大な盾となって、炎龍が突っ込んでいった噴気孔を完全に塞いだ。
噴気孔の奥深くで炎龍が大爆発する轟音が響き、凄まじい衝撃が聖なる盾を揺るがす。
山全体が、巨人が目覚めるかのように震動し始める。火山が、三百年の眠りから目覚め始めていた。



