リビングへ行くと、すでにみんなが座って、思い思いに朝食をとっていた。
「おはよう!」「おっはよー!」「遅いわよー!」
元気な声が飛び交う。
高級ホテルのスイートルームのような瀟洒なインテリアの中、大きな無垢の一枚板で作られたテーブルには、もうすでに全員が揃っていた。
エリナが子供たちにビシッと指示を飛ばし、コーヒーカップを傾けてニコッと笑う。
ミーシャが焼きたてのクロワッサンにジャムを塗って子供たちに配っている。
ルナがベーコンエッグと格闘している息子にいら立ち気にフォローする。
シエルがぷにぷにの赤ちゃんに幸せそうにミルクを与えている。
璃愛、星羅、緋奈、凛の四人だけではない。多くの子供に囲まれ、みんなすっかりママとしてたくましくなっているのだ。
レオンと四人の妻たちの間に生まれた、たくさんの命。
レオンはそんな元気な家族を見て嬉しそうに微笑んだ。
◇
窓の外には、巨大な湖が広がっていた。
朝日を受けて、水面がキラキラと輝いている。
まるで、無数の宝石を散りばめたかのように。
ここは湖の中に聳え立つ純白の塔、アルカナタワー。
高さ一キロを誇る、この国の象徴。
レオンたちの住む王宮であり、核融合発電所であり、データセンターでもある――まさに王国の心臓部だった。
そんな超高層ビルの中腹にレオンたちは居を構えている。
湖畔には数百棟のタワーマンションが林立し、その間を繋ぐ連絡通路には多くの人たちが行き交っているのが見える。
レオンが目指した理想の国はまさに出来上がりつつあったのだ。
「うぅーん! 今日はいい天気で良かったねぇ」
レオンは、湖面の煌めきに満足そうに伸びをした。
式典日和だ。
これなら、最高の一日になるだろう。
「私の日頃の行いがいいからね。はい、どうぞ」
エリナが、淹れたてのコーヒーをレオンの席に置いた。
芳醇な香りが、ふわりと立ち上る。
その横では、ガラスの丸い頭をつけたアンドロイドが、コーヒーミルなどを片付けていた。
滑らかな動き。
無駄のない所作。
人間以上に、人間らしい気配り。
「今日のはずいぶん美味しくできたわ。ありがとね」
エリナは、アンドロイドに声をかけた。
その声には、確かな感謝が込められている。
『お気に召していただけて光栄デス』
スピーカーから、柔らかな声が響いた。
アンドロイドは味が分からないから、淹れるコーヒーはどうしても平凡になってしまう。
だからエリナが、毎日フィードバックをして改善しているのだ。
少しずつ、少しずつ、理想の味に近づけていく。
その試行錯誤こそが、彼女の楽しみだった。
「よし、明日はお湯の温度を一度上げてみようか?」
『カシコマリマシタ!』
アンドロイドは、嬉しそうに腕を上げた。
その仕草には、確かな感情が宿っているようにすら見える。
「いやもう、十分美味いけどなぁ」
レオンは、爽やかな酸味と鼻に抜ける香ばしい香りに、うっとりしながら言った。
これだけで、眠気が吹き飛んでいく。
「いいのよ、こういう試行錯誤が楽しいんだから。ね?」
エリナは、アンドロイドに振った。
『ヤリガイになります!』
「そう? ならいいんだけど……」
レオンは、アンドロイドの『ヤリガイ』という言葉に、小首を傾げた。
機械に、やりがいがあるのだろうか?
プログラムされた反応なのか、それとも本当に、何かを感じているのか。
レヴィアと国造りを始めて、十五年。
AIとロボットの積極的な導入で、大アルカナ王国は信じられないほどの未来の国になっていた。
シアンが吹き飛ばした魔の山。
その跡にできた巨大なクレーターには、やがて水が溜まり、直径五キロほどの美しい湖になった。
碧落湖と名付けられたその湖の畔に、街を開拓した。
五十階建てのタワーマンションを、数百棟。
百万人の人が住む街は、活気に溢れていた。
タワーマンション同士は、十階ごとに連絡通路で結ばれ、そこはまるでショッピングモールのようになっていた。
カフェ、レストラン、雑貨店、アパレル――ありとあらゆる店が軒を連ねている。
連絡通路には小さなモービルが走り、これに乗れば王国のどこへでも行くことができた。
そして、何と言ってもこの国の最大の特徴は、働かなくても良いことだった。
衣食住に医療は、すべて無料で提供される。
行政サービスはAIが個々人に最適な形で提供しており、国民の満足度はとても高かった。
郊外に広がる広大な農地や工業地帯では、食料や日用品などの生産が行われている。
しかし、そこには人間が誰一人いない。
それどころか、人が入れる通路すら存在しないのだ。
完全オートメーション。
ロボットとAIだけが、二十四時間三百六十五日黙々と働き続けている。
人間は、そこに立ち入る必要すらなかったのだ。
ただし、嗜好品やアパレル、趣味色の強いものは、人間の仕事として残されている。
日替わりで各連絡通路では市場が開かれ、手作りのパンやクラフトビール、アクセサリーやアート作品などが、思い思いに売られていた。
ここで人気が出ると、常設の店を出す権利が得られる。だからみんな、熱を入れて商品開発を楽しんでいた。
誰にやらされるわけでもない自発的な創造の喜び。
誰かに認められる幸せ。
それが、この国を動かす原動力だった。
「おはよう!」「おっはよー!」「遅いわよー!」
元気な声が飛び交う。
高級ホテルのスイートルームのような瀟洒なインテリアの中、大きな無垢の一枚板で作られたテーブルには、もうすでに全員が揃っていた。
エリナが子供たちにビシッと指示を飛ばし、コーヒーカップを傾けてニコッと笑う。
ミーシャが焼きたてのクロワッサンにジャムを塗って子供たちに配っている。
ルナがベーコンエッグと格闘している息子にいら立ち気にフォローする。
シエルがぷにぷにの赤ちゃんに幸せそうにミルクを与えている。
璃愛、星羅、緋奈、凛の四人だけではない。多くの子供に囲まれ、みんなすっかりママとしてたくましくなっているのだ。
レオンと四人の妻たちの間に生まれた、たくさんの命。
レオンはそんな元気な家族を見て嬉しそうに微笑んだ。
◇
窓の外には、巨大な湖が広がっていた。
朝日を受けて、水面がキラキラと輝いている。
まるで、無数の宝石を散りばめたかのように。
ここは湖の中に聳え立つ純白の塔、アルカナタワー。
高さ一キロを誇る、この国の象徴。
レオンたちの住む王宮であり、核融合発電所であり、データセンターでもある――まさに王国の心臓部だった。
そんな超高層ビルの中腹にレオンたちは居を構えている。
湖畔には数百棟のタワーマンションが林立し、その間を繋ぐ連絡通路には多くの人たちが行き交っているのが見える。
レオンが目指した理想の国はまさに出来上がりつつあったのだ。
「うぅーん! 今日はいい天気で良かったねぇ」
レオンは、湖面の煌めきに満足そうに伸びをした。
式典日和だ。
これなら、最高の一日になるだろう。
「私の日頃の行いがいいからね。はい、どうぞ」
エリナが、淹れたてのコーヒーをレオンの席に置いた。
芳醇な香りが、ふわりと立ち上る。
その横では、ガラスの丸い頭をつけたアンドロイドが、コーヒーミルなどを片付けていた。
滑らかな動き。
無駄のない所作。
人間以上に、人間らしい気配り。
「今日のはずいぶん美味しくできたわ。ありがとね」
エリナは、アンドロイドに声をかけた。
その声には、確かな感謝が込められている。
『お気に召していただけて光栄デス』
スピーカーから、柔らかな声が響いた。
アンドロイドは味が分からないから、淹れるコーヒーはどうしても平凡になってしまう。
だからエリナが、毎日フィードバックをして改善しているのだ。
少しずつ、少しずつ、理想の味に近づけていく。
その試行錯誤こそが、彼女の楽しみだった。
「よし、明日はお湯の温度を一度上げてみようか?」
『カシコマリマシタ!』
アンドロイドは、嬉しそうに腕を上げた。
その仕草には、確かな感情が宿っているようにすら見える。
「いやもう、十分美味いけどなぁ」
レオンは、爽やかな酸味と鼻に抜ける香ばしい香りに、うっとりしながら言った。
これだけで、眠気が吹き飛んでいく。
「いいのよ、こういう試行錯誤が楽しいんだから。ね?」
エリナは、アンドロイドに振った。
『ヤリガイになります!』
「そう? ならいいんだけど……」
レオンは、アンドロイドの『ヤリガイ』という言葉に、小首を傾げた。
機械に、やりがいがあるのだろうか?
プログラムされた反応なのか、それとも本当に、何かを感じているのか。
レヴィアと国造りを始めて、十五年。
AIとロボットの積極的な導入で、大アルカナ王国は信じられないほどの未来の国になっていた。
シアンが吹き飛ばした魔の山。
その跡にできた巨大なクレーターには、やがて水が溜まり、直径五キロほどの美しい湖になった。
碧落湖と名付けられたその湖の畔に、街を開拓した。
五十階建てのタワーマンションを、数百棟。
百万人の人が住む街は、活気に溢れていた。
タワーマンション同士は、十階ごとに連絡通路で結ばれ、そこはまるでショッピングモールのようになっていた。
カフェ、レストラン、雑貨店、アパレル――ありとあらゆる店が軒を連ねている。
連絡通路には小さなモービルが走り、これに乗れば王国のどこへでも行くことができた。
そして、何と言ってもこの国の最大の特徴は、働かなくても良いことだった。
衣食住に医療は、すべて無料で提供される。
行政サービスはAIが個々人に最適な形で提供しており、国民の満足度はとても高かった。
郊外に広がる広大な農地や工業地帯では、食料や日用品などの生産が行われている。
しかし、そこには人間が誰一人いない。
それどころか、人が入れる通路すら存在しないのだ。
完全オートメーション。
ロボットとAIだけが、二十四時間三百六十五日黙々と働き続けている。
人間は、そこに立ち入る必要すらなかったのだ。
ただし、嗜好品やアパレル、趣味色の強いものは、人間の仕事として残されている。
日替わりで各連絡通路では市場が開かれ、手作りのパンやクラフトビール、アクセサリーやアート作品などが、思い思いに売られていた。
ここで人気が出ると、常設の店を出す権利が得られる。だからみんな、熱を入れて商品開発を楽しんでいた。
誰にやらされるわけでもない自発的な創造の喜び。
誰かに認められる幸せ。
それが、この国を動かす原動力だった。



