【運命鑑定】で拾った訳あり美少女たち、SSS級に覚醒させたら俺への好感度がカンスト!? ~戦闘力ゼロの追放軍師、最強パーティ(全員嫁候補)と送る甘々ライフ~

「――っ! 罠か!」

 レオンが叫んだ瞬間、階段の上方から、轟音とともに濁流が津波のように襲いかかってきた。

 茶褐色に濁った水流は、階段の幅いっぱいに広がり、容赦なく五人へと迫る。その勢いは、まるで暴れ狂う獣のようだった。

「ひぃっ! ホーリー――」

 障壁を展開しようとしたミーシャの声が、濁流の咆哮にかき消される。

 抗う術もなく、五人は激しい水流に飲み込まれた。

 世界が、一瞬にして上下を失う。

 体が、まるで木の葉のように弄ばれ、呼吸ができない。何も見えない。ただ、冷たい水が容赦なく押し寄せ、体を、意識を、引き裂いていく――――。

 レオンは必死に手を伸ばした。誰かの手を、仲間の手を掴もうと。けれど、濁流は彼らを散り散りにしていく。指先が何かに触れた気がしたが、次の瞬間には、その感触も失われていた。

 ごめん……みんな……。

 薄れゆく意識の中で、レオンは心の中で謝罪した。

 自分が、もっと警戒していれば。もっと、仲間たちを守れていれば。

 自責の念が胸を締め付ける。

 そして、暗闇が、全てを呑み込んだ――――。


     ◇


 次にレオンが意識を取り戻した時、全身を包む冷たい感覚に、思わず呻き声を漏らした。

「……っ、う……」

 体が、水に浮いている。

 氷のように冷たい水が、全身を覆っていた。手足が思うように動かない。まるで体中に鉛を詰め込まれたような、重苦しい脱力感が全身を支配している。

 これは……毒、か……? 

 レオンは必死に思考を巡らせる。水に何か、麻痺毒のようなものが混入されているのだろう。微かに、舌先が痺れるような感覚があった。

「みん……な……」

 掠れた声で呼びかける。視界がぼやけている。目を凝らすと、自分たちが巨大な地下貯水槽のような場所にいることが分かった。

 天井は高く、石造りの壁が周囲を取り囲んでいる。薄暗い空間に、無数の魔導灯が怪しげな光を放っていた。

 そして、少し離れた場所に、仲間たちの姿が見える。

 エリナ、ミーシャ、ルナ、シエル。

 四人とも、レオンと同じように水面に浮かび、意識を失っているようだった。

「みんな……! しっかり、しろ……!」

 レオンは必死に腕を動かし、近くにいたミーシャの元へと泳ごうとする。けれど、体が思うように動かない。僅かな距離が、途方もなく遠く感じられた。

 その時だった。

 頭上から、声が降ってきた。

「あらあら、可愛い迷える子羊たち。ようこそ我が神殿へ。ふふっ」

 鈴を転がすような、美しい声。

 けれど、その声には、どこか歪んだ慈愛が滲んでいた。まるで、壊れた聖歌隊(せいかたい)が歌う賛美歌(さんびか)のような、不協和音を孕んだ優しさ。

 レオンは、必死に顔を上げた。

 貯水槽を見下ろす高い回廊に、一人の女性が立っていた。

 純白のシスター服。銀糸(ぎんし)で刺繍された紋章。腰まで伸びた美しい金髪。そして、柔和な微笑みを湛えた、聖母のような顔立ち。

 けれど、その手に握られているのは、禍々しい三日月を喰らう(ワシ)の紋章が刻まれた杖だった。

 黒く、歪んだ紋章が、まるで生きているかのように蠢いている。

 その瞬間、レオンの傍で、小さな水音がした。

 ミーシャが、意識を取り戻したのだ。

 彼女は朦朧とした様子で顔を上げ、回廊の女性を見た。そして――。

「あ、あぁ……」

 ミーシャの空色の瞳が、見開かれる。

 血の気が顔から引き、唇が震え始めた。

「……シスター……イザベラ……?」

 絞り出すような、か細い声だった。

 普段の余裕ある口調はそこにはない。ただ、子供のような、震える声だけがあった。

 イザベラと呼ばれた女性が、嬉しそうに目を細める。

「ふふっミーシャ。久しぶりですわね。こんなに立派になって……とても嬉しいわ」

 その言葉に、ミーシャの体が、びくりと震えた。

 恐怖。困惑。そして、何よりも深い――絶望がミーシャの顔に浮かぶ。

 シスター・イザベラ。

 それは、ミーシャが孤児院で「お母様」と慕い、神の教えと神に仕える女としての生き方を授けてくれた、唯一の家族とも呼べた存在だった。

 敬虔で、慈悲深く、そして誰よりも厳格だった彼女が。

 なぜ。

 なぜ、こんな場所に。

 なぜ、あの禍々しい紋章の杖を持っているのか。

「どう……して……」

 ミーシャの声が、震える。

「シスター・イザベラ……どうして、あなたが……こんな場所に……」

「あらあら、ミーシャ」

 イザベラは、変わらぬ慈愛に満ちた微笑みを浮かべたまま、首を傾げた。

「それは、私が聞きたいですわ。どうして、あなたがこんな場所にいるのかしら? 私たちの聖なる神域を、汚しに来た愚かなゴミどもに混ざっているのですか?」

「……え……?」

 ミーシャの瞳が、揺れる。

「聖なる……神域……?」

「ええ、そうですわ」

 イザベラは、優しく、けれど確固たる意志を込めて頷いた。

「ここは、神の意志を実現するための、最も神聖な場所。愚かな人間たちに裁きを与え、新たな世界を創造するための、揺籃(ようらん)の地ですもの」

 その言葉の意味を理解した瞬間、ミーシャの顔から、完全に血の気が失せた。