第一皇子の俺、12歳の誕生日に世界樹として埋葬されました。〜どうやら俺が世界樹の王らしいので、内側から国を繁栄させようと思います〜

 しばらく待っていると、グラディオラスとその他数名が巨大な何かを持って再び現れた。

「急ゴシラエダガ、ソコニ腰ヲカケテクレ」

 すると、彼らは俺たちが上に手を伸ばしてようやく掴まれる程度の木を階段状に積み重ね、自分たちと同じ目線の高さになるように腰かけを用意してくれた。
 背もたれも肘置きも、もはや座面すらない、本当に急ごしらえの()()()だが、好意を断るわけにもいかず、俺はクルセドたち騎士団団長を連れてそのソファを登り、腰を掛けた。

 そして俺たちが座るのを確認した後で、グラディオラスもその場に座った。
 人間基準でこれが丁重なもてなしなのかどうかは置いておいて、礼儀を尽くそうとしてくれている旨は感じ取れた。

「さて、大戦士グラディオラス、事情を聞かせてもらいたい」

 目線の高さを合わせても、自分の体長の四、五倍はあるグラディオラスは凄まじい迫力だった。
 氷のように青い皮膚に、クルセドが霞んで見えてしまうほどの体格の良さ。
 比べるまでもなく、俺たちとは別の種族だと分かる相手だ。
 だが、俺は怖気づくことなく、話を切り出した。

「アア、マズハ、貴殿ノ仲間ヲ傷ツケテシマッタコトヲ、改メテ詫ビサセテモラウ」

 グラディオラスはもう一度謝罪より話を始めた。

「ダガ、我ラニモ、ノッピキナラナイ事情ガアッタノダ」

「その、事情とは?」

 言い訳をするではなく、本当に何かがあったような顔をするグラディオラスに俺は続きを促す。

「……炎ノ魔獣ダ。貴殿ラハ知ッテイルカ? アノ悍マシキ魔獣ノコトヲ」

「炎の魔獣? ……まさか、ニーズヘッグか?」

 俺がその名前を出すと、グラディオラスの表情が一気に険しくなる。

「カノ魔獣ノ名前ヲ、我々ハ知ラナイ。ダガ、感覚デ分カル。ソノニーズヘッグト言ウ魔獣デ間違イナイダロウ……我々ハ、ココデ目覚メテスグ、ソノ魔獣ノ被害ニアッタノダ」

「——っ!? 目覚めてすぐニーズヘッグの被害に? 待て、あなたたちがここで目を覚ましたのは一体いつ頃なのだ?」

 予想外の展開だった。
 仲間を無力化した事情を聞こうと思っていたところ、まさか、こんなところからニーズヘッグの話が聞けるとは。

「我々ガ目ヲ覚マシタノハ、オヨソ一月程前ノコトニナル。ヨトゥンヘイムニテ、大戦士ノ務メヲ果タシタ俺ハ、世界樹ノ元デ眠リニ就ク、ハズダッタ……ダガ、目ヲ覚マシテ見レバ、コノ世界、ヨトゥンヘイムトハ違ウ世界ニ来テイタノダ」

 大戦士の務め、と言うのは分からないが、恐らく俺たちで言う世界樹化がグラディオラスの身に怒ったのだろう。
 あとの状況はおそらく俺と同じだ。

「困惑シタガ、ソコニハカツテ務メヲ果タシテ行ッタ同胞ノ姿ガアッタ。俺ガ起キルト、段々ニソノ者タチモ目ヲ覚マシ始メ、我ラハ50名程ノ集団トナッタ」

 50名? そう言われて辺りを見てみるが、どう考えても50名には程遠い。
 あの建物の影に隠れているのだろうか? いや、だとしても、これだけの巨体を持つ霜の巨人たちが後30名以上いるようには見えない。
 と言うことは、つまり……。

 俺は状況を察し、思わず目を伏せる。

「……アア、察シノ通リダ。ソコニ炎ノ魔獣、ニーズヘッグガ来襲シタ。必死ノ抵抗デ何トカ逃走ニハ成功シタ、ガ、我々ハ34名ノ同胞ヲ失ッタノダ。貴殿ノ仲間ヲ襲ッテシマッタノハ、彼ラガ、炎ヲ扱ッテイタカラダ……言イ訳ニ過ギナイガ、ソウ言ウ事情ガアッタノダ」

 なるほど。
 世界樹をも枯らしてしまうニーズヘッグの毒炎を見たあとに、第四騎士団の炎属性スキルを見せられたせいでトラウマが刺激されたり、もしかしたら、ニーズヘッグの仲間だと思われたのかも知れない。
 仲間をやられているため、それなら許す、と言う訳にも行かないが、同情の余地は過分なほどにある話だった。

「そうか。丁寧な説明に感謝する。霜の巨人族、大戦士グラディオラスよ。仲間についても事情は把握した。こちらから報復するようなことはしないと約束しよう」

 許すとは言わない。
 だが、報復はしないと約束する。
 ある意味で一方的に貸しを作ったようなものだ。

 霜の巨人たちがこちらに敵対的であったならば、こんな遠回しな言い方はしなかったが、理由あってのことだったのなら、この後の提案のためにこれを使わせてもらおう。

「寛大ナ対応ニ感謝スル。世界樹ノ王、アルトヨ」

 グラディオラスはそう言って頭を下げた。
 やはり、彼の態度は好ましい。

 俺は今、グラディオラスから事情を聴きながら、あることを考えていた。
 それは、この霜の巨人たちと同盟を結ぶことだ。
 特にニーズヘッグとの戦闘経験があるというのが大きい。
 
 逃走してきたと言っていたが、その時のグラディオラスの口調は酷く恨みの籠った声だった。
 つまり、彼らは間違いなくニーズヘッグへの復讐の機会をうかがっているはずだ。
 ならば、同じ目的を持つ者同士、協力できるはず。

「顔を上げてくれ、世界樹の戦士グラディオラスよ。一つ、提案があるのだ」

「提案?」

「ああ。俺は世界樹の王として、この世界樹に迫る危機を取り除くためにここに呼ばれたんだ。その危機とは、正に、魔獣ニーズヘッグ」

 その名を言えば、再びグラディオラスの顔が歪む。
 そんな顔をまっすぐに見つめながら、俺は口調を仲間たちで向けるものにして話す。

「かの魔獣はこの世界樹を枯らし、焦がし、やがて焼き尽くさんほどの力を持っている。世界樹が焼かれると、ここだけではない。俺のアスガルドや、貴殿たちのヨトゥンヘイムのような世界樹の恩恵に預かる国に、その恩恵が届かなくなってしまうのだ」

「ヨトゥンヘイムニモ……」

「だから、あなたたちの力を貸してほしい。魔獣ニーズヘッグの討伐に、力を貸してくれないだろうか」

 不躾かとも思ったが、俺は座っていた樹の上に立ち上がり、グラディオラスの方へ向けて手を伸ばす。
 ニーズヘッグがどれだけ強大な魔獣かは未だグラディオラスの伝聞でしか知らない。
 だが、クルセドを唸らせるような攻撃を繰り出す彼らが迷わず逃走を選ばざるを得ないということは、つまりはそう言うことなのだろう。
 ならば、仲間は大いに越したことはない。

 アスガルドのために、そして、ここで暮らすイグドラシルの民たちのために、この同盟は必ず成し遂げたい。

「……」

 ジッとこちらを見つめるグラディオラスが無言で立ち上がる。
 そして、俺の手へ向けて、その巨大な手を伸ばしてくる。

 だが、俺たちの手は結ばれなかった。
 グラディオラスがその直前で手を止めたのだ。

「世界樹ノ王アルトヨ。貴殿ノ意思ハ理解シタ。ソレニ俺モ、コノ同盟関係ハ有用ナモノダト思ウ。ダガ……無礼ヲ承知デ言ワセテモラウト、俺ハ貴殿ニ背中ヲ預ケラレル強サヲ感ジナイ。我ラヲ見テモ怯マナイ、ソノ胆力ハ賞賛ニ値スル。王トシテノ器モ、認メヨウ。ダガ、俺ハ、俺タチ霜ノ巨人族ハ戦士ノ一族ダ。我ラハ器ヤ胆力デハナイ、物理的ナ強サヲ仲間ニハ求メルノダ」

 グラディオラスはそう言って、俺の目の前まで伸ばした手を下ろした。

「貴様っ! アルト様の強さを愚弄するかっ!」

 すると、隣りで聞いていたクルセドがいきり立つ。
 まるで自分が貶されたとでも言うように怒りをあらわにする姿は、もはや流石と言えるだろう。

「待て、クルセド。グラディオラスの言うことも一理ある。それに、グラディオラスの意図は俺を愚弄するようなものではない。彼は仲間を失っているのだ。二の舞にならないように、と、そう言う意味だろう」

 世界樹の本体とも言えようここでは、骨折などの怪我をすることはもちろん、死ぬこともない。
 だが、そんな世界樹を枯らしてしまうニーズヘッグの毒炎は、まだどうなのか分からないとロロも言っていた。
 つまり、死のないはずの世界で、唯一、命を失ってしまう可能性のある相手と戦わなければならないのだ。

 それに霜の巨人たちは既に30人以上の仲間を失っている。
 もし仮に、俺たちと同盟を組んだとしても、自分たちが守る対象が増えたのでは、巨人たちにとってはこの同盟に、戦闘上でのメリットはない。

 だから、グラディオラスの言葉には納得できた。

「……ですがっ!」

 俺が言い含めてもなお、食い下がってこようとするクルセドを手で制し、俺は今一度、グラディオラスに向き直る。
 
「世界樹の戦士グラディオラスよ。あなたの懸念は最もだ。だから俺に、一度機会を貰えないだろうか?」

「……機会?」

「ああ。俺があなたたちを納得させる強さを見せることが出来れば、是非この手を取ってほしい」

 俺は今一度グラディオラスに手を差し出しながら言う。
 メリットがないと言うのならば、見せつけてやればいい。
 戦士の一族と言う霜の巨人たちが、俺の手を取り、背を預けて戦うだけのメリットがあると。

「本気、カ?」

「ああ。無論、本気だ。俺は王だ。無責任な発言はしない」

「……良イダロウ」

 グラディオラスは不敵な笑みを浮かべ、少し離れた場所まで歩いて行く。

「アルト様、戦われるのであれば、私たちが……!」

 すると、これまで黙って俺たちの話を聞いていたトワレが不安そうな表情でこちらを見て来た。
 だが……。

「お止めなさい。これはアルト様自ら、証明すると言った機会。私たちの出る幕はないわ」

 俺がトワレを諫める前に、リスタが代わりに言い含めてくれる。
 そうだ。
 この戦いは、俺が代表として、その強さを見せなくてはならないのだ。
 守られるだけの王ではないと、自ら軍を率いて戦うことのできる王であると証明しなければ意味がない。

「ああ。これは俺の戦いだ。誰も手を出してくれるなよ?」

 三人に向けてそう言えば、リスタは悠然と頷いて見せ、続いてトワレも渋々納得してくれた。
 最後に、一人ずっと唸っていたクルセドだったが、

「これは俺の王としての務めなのだ。分かってくれるな、クルセド」

 そう言えば、忠臣である彼に頷かないという選択肢はなく。
 俺は三人に見送られながら、グラディオラスの元へと歩いて行く。

「待たせたな、大戦士グラディオラスよ」

「ホウ、マサカ一人デ向カッテクルトハ……ソノ心意気ヤヨシ!」

 予想外と言わんばかりの驚きに顔を歪めながらも、その声音は歓迎の色を示している。
 世界樹の戦士と言うくらいだ。
 理性的な話し合いは出来ても、本能では、こう言う分かりやすい方が好みなのだろう。

「勝負の形式は?」

「真剣勝負、ト言イタイトコロダガ……。ソレゾレ立場ノアル身分。ヨッテ、俺ニ一撃ヲ入レテ見セヨ」

「いいだろう」

 真っすぐ捉えれば侮られているともとれる勝負条件。
 だが、身長1.5メートル程度の俺と6メートルを超えるグラディオラスの勝負だ。
 自分で言うのもなんだが、かなりのハンディキャップマッチ。
 スキルがなければ話にもならない戦い。

 だから、この条件に文句はなかった。

世界樹権能:剣形態(ユグドラシル:モードソード)

 使う武器は一番扱い慣れた剣。
 槍や大斧などのリーチのある武器も一瞬頭を過ったが、この対格差ではそのリーチが大きな利を成すとは思えなかった。

「準備ハイイカ?」

「ああ」

 剣を構え、鷹揚に頷く。
 これまでの経験とここに来てからの戦闘訓練の成果を発揮する時だ。

「デハ、イツデモ来イ!」

 グラディオラスは手の中に巨大な氷の槌を出現させながらそう言った。

 まずはその言葉に乗って俺から攻める。
 先手必勝とでも言うかのように、一気に距離を詰め、見えにくいであろう足元を切り払う。

 四倍以上の対格差のある俺たちだが、それはある意味でメリットでもあった。
 身体の大きな霜の巨人たちは鈍いというほどではないが、動きが俊敏には見えない。
 だから、足元から攻め、有効打を狙う戦略だった、が、

 ——ガキンッ!

 あの巨大な樹をも簡単に斬ってしまうような俺の刃は、グラディオラスの氷の槌の長い柄によって阻まれる。

「鋭サハ悪クナイ。ダガ、ソノ程度デハ、俺ニ一撃ヲ入レルコトハ叶ワン!」

 攻撃を弾かれ、咄嗟に距離を取ろうとする俺に巨大な槌が凄まじい速度で迫ってくる。
 足元を掬いあげるようなその一振りはゴォッと空気を薙ぎ払う音がしていた。

 あの速さでは、回避は間に合わない。
 だったら……!

世界樹権能:大盾形態(ユグドラシル:モードシールド)

 俺は即座に剣を盾へと切り替えて、その下部を地面へと突き立て、防御の姿勢を取る。

 ドォン、と、正しく破城槌の如き一撃が全身の骨に振動を伝える。
 衝撃をいくらか地面に逃していると言うのに凄まじい威力だった。
 だが、俺の剣をグラディオラスの氷の槌が止めたように、俺の盾もグラディオラスの氷の槌をがっしりと受け止めていた。

「ホウ! ソノ身体デ俺ノ一撃ヲ受ケ止メルカ!!」

 驚きと喜びの入り混じった声が頭上から響く。
 だが、それに反応しているまでの余裕は俺にはなかった。

 防御こそ出来たものの、このままではどう考えても俺がジリ貧だ。

 いくら世界樹の盾で防御が出来るからと言って、身体能力で大きく劣る俺が力押しで勝てるようなビジョンは見えない。
 何か、戦況を変えうる技が必要だ。

 俺は一度距離を取るべく、地面に突き立てた盾を蹴って後ろへ飛び退く。
 そして、盾形態を解除し、剣に戻す。

 これで状況は開始前と同じ。

 だからこそ、もう一度突進しても結果は同じだろう。
 ここは一つ、試してみるか。

 グラディオラスは自ら攻めてくることはなく、俺の次の行動を待っているようだ。
 あくまで勝負は俺がグラディオラスから一本を取るということなのだろう。

 それならば、あれが使えるかもしれない。
 試したことも、ロロに教えてもらったこともない。
 だが、漠然と、出来るのではないかというイメージが自分の中にある、その技。

『世界樹権能……』

 イメージするのはあの日、一度だけ見た圧倒的な強さ。
 騎士団の訓練で、屈強な王国騎士たちが逃げるしかなかったあの技。
 母さんには絶対に逆らえないと、父上の言うことに初めて心から納得したあの日の鮮烈な光景。

『……模倣・氷結の刃』

 俺が見たことのある限り、最強の攻撃力を持つスキルを俺のスキルで再現する。

 すると、剣身ほどの刃たちが俺の周りに次々と現れていく。

「ム……奇妙ナ」

 その数は十を超え、三十、五十、百とどんどん数を増やしていく。

 そして——

「行けっ! 駆けよ世界樹の刃!!」

 俺がグラディオラスに向けて、手に持つ剣の刃先を向ければ、その数え切れないほどの刃が空気を裂く音を立てながら飛んでいく。

「ナントッ!? コレホドノ刃ヲ操ルダトッ!?」

 グラディオラスは驚きながらも氷の槌を回転させ、その刃たちに対処する。

 氷と樹がぶつかっているとは思えない音を立てながら、俺の刃は撃ち落とされていくが、俺の真の狙いはそこにはなかった。

 俺は一本だけ残しておいた世界樹の刃を拾い上げる。
 
世界樹権能:宿り木形態(ユグドラシル:モードミスルトゥ)

 そしてその刃で分身をさらに一体生み出し、自身は気配を殺してグラディオラスの背後へと走った。

「中々良イ技ダッタガ、コレデモマダ俺ニハ届カンゾ! 世界樹ノ王アルト!」

 俺がグラディオラスの背後に回った時、グラディオラスは残して来た分身の方を見ながらそう言っていた。
 よし、気付かれていない。

 分身を動かすにはかなりの力がいるが、真っすぐ立たせておくだけなら、追加でもう一体を作ってもギリギリ行動に問題はない。
 
 グラディオラスが最後の刃を撃ち落とし終え、棒立ちの俺へと視線を移した。

「今度ハサラニ強ク行クゾ!」

 そして、未だ棒立ちの俺に向けて氷の槌を振り下ろそうとした瞬間——俺は跳んだ。

 これも世界樹の恩恵なのだろうか?
 こちらに来てからと言うもの、疲れを知らないこの身体は疲れないだけではなく、その能力も倍どころか数十倍にも上がっている。
 物理的な対格差、膂力差を埋めることは出来ないが、人間元来の身軽さにこの能力が合わされば……。
 
 全力で跳び上がった俺は背後からグラディオラスの首辺りを目掛けてぐんぐん距離を縮めていき、目の前に無防備に晒されたそのうなじへ向けて、俺は全力で剣の腹を叩きつけた。

「グゥォッ!?」

 予想していなかったところからの攻撃にグラディオラスがうめき声を上げ、体勢を崩す。
 何とか膝を付いて、倒れることからは免れるも、振り返ったその顔に俺は剣先を向けて言い放った。

「これで一撃だろう?」

 そして、俺は見せつけるようにグラディオラスの正面に棒立ちしていた分身を解除する。

 「……ハ、ハハハハハハッ!! コレハ一本取ラレタナ。マサカ刃ノ弾幕デ目ヲ眩マセ、サラニ分身ヲ用意シタ上デ背後ヲ取リ、一撃ヲ浴ビセテ来ヨウトハ。見事! 誠ニ見事ダ! 世界樹ノ王アルト!!」

 満足そうに高笑いして見せるグラディオラスに俺は持っていた剣も解除し、改めて右手を差し出す。

「それでは、この手を取ってくれるか?」

「アア! ソノ強サ、機転、戦場ヲ知ラヌ子供ト思ッタガ見事ナモノダッタ。コチラカラモ、宜シク頼ミタイ」

 グラディオラスが俺の手を取る。
 いや、手を取るにはグラディオラスの手は大きすぎるため、形的には俺がグラディオラスの人差し指を握った形だが、それでも今ここにイグドラシルと霜の巨人との同盟が結ばれた。

「共にニーズヘッグを打ち倒そうぞ、グラディオラス!」

「アア! 同士ヨ。……イヤ、違ウナ。王、アルト様ヨ」

 俺の言葉に恭しく(かしず)いて見せるグラディオラス。
 どうやら、同盟関係だけでなく、王としても認めてもらえたらしい。

「同盟ではなく、俺の臣下になってくれるのか?」

「アア。アルト王ハ、ソレダケノ力ヲ我ニ示シテ見セタ。ソレニ、俺ハ大戦士ダガ、統率ヲ取ルノハ得意デハナイ。戦士ハ戦士トシテ、働クベキダロウ?」
 
 ニカッと笑うグラディオラスは晴れやかな顔をしていた。
 
「戦士タチヨ! 今日カラ我ラハイグドラシルノ民トシテ、世界樹ノ王アルト様ノ下デソノ力ヲ振るウ。文句ノアル者ハイルカッ?」

 巨人たちを振り返り、グラディオラスが声を掛けるも、反対の声は上がらない。
 すると、グラディオラスは次はお前の番だという風にこちらを見て来た。

世界樹権能:指揮形態(ユグドラシル:モードタクト)

 俺はそれに応えるように指揮棒を樹具化させ、

「第一、第二、第三騎士団全員に告ぐ! 今日ここに霜の巨人族と我らイグドラシルの同盟が結ばれた! これからは霜の巨人たちも同胞として受け入れ、共に魔獣ニーズヘッグを打ち倒そうぞ!」

 全員に向けて、そう発信した。

「「「「「おおおおおおおお!!!! 同盟万歳!!! アルト様万歳!!!」」」」」

 第四騎士団のことで確執を持つ者もいるかと思ったが、その前のグラディオラスの発言を聞いていたおかげだろうか?
 少なくともここにいる60名あまりの騎士たちからは反対の声は聞こえてこなかった。

 こうして、第四騎士団の救出作戦は予想外の利益をもたらして、終結するのだった。

 ◇◇◇
 ——アルト本体視点——

「はぁっ、はぁっ、はぁっ」

「アルトっ!? 大丈夫ですかっ!?」

 霜の巨人たちとの同盟が締結する一方、俺は分身でのスキル使用による反動を受けていた。
 仰向けに倒れたベッドの背中は水を被ったかのような大量の汗に濡れ、酷使した脳は激しく痛み、陸に打ち上げられた魚のように必死に酸素を求めて荒い呼吸をする。

「ああ、ごめんロロ。心配ない。この位なら、まだ、耐えられる」

 分身でのスキル使用はただでさえ消耗が大きい。
 それに加えて、ぶっつけ本番で使った母さんの技の模倣がかなりきつかった。
 あれは切り札だな……。

「アルト……」

 ロロの顔に暗い影が差す。
 そんな顔を見ながら、俺は、あの一撃で決まってくれてよかったと、全力で思うのだった。