◇◇◇
「影太、今日は随分ギリギリで来たな〜。珍しいじゃん。」
1時間目が終わり、前の席に座っている中野が声を掛けてきた。
いつもは光輝と一緒に余裕を持って教室に来るのに、今日はギリギリセーフだったため、中野は不思議に思った様だ。
俺は、さっきまで体験した狐につままれた様な驚き話をヒソヒソ声で話す。
「実はさ〜花園さんに呼び止められたんだよ。」
「────えっ!!マジ?!すげぇじゃん!……で、なんだって?」
ワクワクする中野を見て、俺はニッコリと仏の様に穏やかな笑みを浮かべた。
「多分光輝が好きだから、俺が邪魔だとかなんとかとかいう話だったと思うんだけど……正直よく分からなかった。」
「あ、そう……?な、なるほど。」
中野は納得した様に首を縦に何度か振ると、「どんまい。」と言って俺の肩を叩く。
まぁ、大抵わざわざ特進クラスから会いに来てくれたイコール、青春チックな話題だと思うわな……。
「一応ちゃんと受け答えしていたつもりだったんだけど、めちゃくちゃ怒らせちゃったみたいでさ。結局ビンタされて、最後はケツキックされたよ。」
「はぁぁぁ〜?」
それには驚き、目をまんまるにさせる中野。
俺だって、さっき起こった事が本当の様に思えずまだ信じられない。
いつもの清楚で可愛らしい感じの花園さんはそこにはおらず、意地悪でトゲトゲ全開な花園さんがいた。
その姿は、まるでシンデレラに出てくる継母にソックリ!
「いつもの姿と、さっき見た姿が合致しない。」
「人によって態度が違うって噂も本当だったんだな〜。あ〜……俺、女性恐怖症になりそう……。」
中野はシャカシャカと腕を擦り小さく震えると、続けて神妙な顔で口を開く。
「一応日野にこの事伝えるのか?そこまで性格が苛烈だと、怖いもんな。近づくなって言っとけば?」
「確かに怖い人だなって思うけど……。」
正直言って、色々自分の目で見た事を総合すると、花園さんはいい子!とは言えないと思った。
しかし、それを光輝に言うのは、なんだか言いつけたみたいで嫌だし……。
「……もし何か聞かれたら自分が思っている事は言うけど、近づくなとまでは言わないよ。それを決めるのは光輝だしな。
っつーかそもそも、女性相手に悪口みたいな事言いたくないや。カッコ悪過ぎるし。
それに光輝って意外にああみえて友情に熱い系男だから、下手に人間関係拗れたら悪いしな。」
「友情に熱い……。」
中野は遠い目をして何かを呟いていたが、最後はフッ……と穏やかに笑う。
「まぁ、確かに女子相手に、あーだこーだ文句や悪口言うのはカッコ悪いか。同意同意。
あ〜男は辛いよ……。っつーか、ビンタされたの大丈夫なのか?」
「うん。全然平気平気。こんなん猫パンチみたいなモンだし。
少女漫画とかだったら、これで恋が始まってたかもな。
『……くっ!なんて気が強い女だ!』とか言って喧嘩して、やがてそのヒロインが気になって仕方がなく思う様になってきて────……的な?」
王道展開を想像しながらそれを口にすると、中野は大爆笑していたが、直ぐに次の授業の先生が来てしまったので、必死に笑いを我慢していた。
そうして放課後、いつも通り部活へ向かおうとした俺の所に、光輝がやってくる。
いつもはバスケ部の方へそのまま向かうのに……?
「光輝、どうしたんだ?わざわざこっちまで来て。」
普段見れない姿に、クラスの女子たちは真っ赤な顔で固まっていた。
そんな女子達の視線をものともせずに、光輝はスタスタ前を通り過ぎて俺の前に立つと、あからさまに不機嫌そうな顔をする。
「これから少し部活の後に委員会の仕事があるから遅れそうなんだ。生徒会の手伝いも少し頼まれてさ。……面倒くさい。」
「そうか、分かった。大変だな。生徒会の仕事も手伝うのか?」
面倒くさがり屋の光輝が、そんな手伝いを了承するなんて珍しい……。
少し驚きながらそう尋ねると、光輝はコクリと素直に頷いた。
「ちょっと人脈を広げておきたくてさ。大会に優勝するには、多少それが必要だなって思ったんだよね。」
「────えっ!!」
とんでもない発言を聞いてびっくりしてしまう。
そ、そんなに優勝したかったのか……。
大会に対する情熱が垣間見えて……俺の頭の中には、朝に花園さんが言った言葉が思い浮かんだ。
『なんたって、日野君は私のために大会に出てくれるんだから〜。』
『だってぇ〜大会のミスは絶対私でしょ?なのに、ミスターに立候補するって……そういう事よ。』
光輝は花園さんと仲良くなりたい……?
「そ、そっか!頑張れよ!」
なんとなく引きつりそうになっている顔を無理やり笑顔にして、応援を口にする。
すると、光輝は面倒くさそうにため息をついた後、「終わったら迎えに行くから、こっちには絶対に来ないで部室で待ってて。」と言って、教室から出て行ってしまった。
迎えに来ないでって……もしかして、花園さんとの時間を邪魔するなって事だったりして?
────チクチク!!
いつも感じるのより強い胸の痛みに襲われ、思わず胸を押さえたが、痛みはじわじわと体中に広がっていく。
それが不思議で首を傾げたが、中野が「行こうぜ〜。」と言って歩き出してしまったので、俺は何度か胸を叩いて落ち着かせると、そのまま部室の方へと同じく歩き出した。
「影太、今日は随分ギリギリで来たな〜。珍しいじゃん。」
1時間目が終わり、前の席に座っている中野が声を掛けてきた。
いつもは光輝と一緒に余裕を持って教室に来るのに、今日はギリギリセーフだったため、中野は不思議に思った様だ。
俺は、さっきまで体験した狐につままれた様な驚き話をヒソヒソ声で話す。
「実はさ〜花園さんに呼び止められたんだよ。」
「────えっ!!マジ?!すげぇじゃん!……で、なんだって?」
ワクワクする中野を見て、俺はニッコリと仏の様に穏やかな笑みを浮かべた。
「多分光輝が好きだから、俺が邪魔だとかなんとかとかいう話だったと思うんだけど……正直よく分からなかった。」
「あ、そう……?な、なるほど。」
中野は納得した様に首を縦に何度か振ると、「どんまい。」と言って俺の肩を叩く。
まぁ、大抵わざわざ特進クラスから会いに来てくれたイコール、青春チックな話題だと思うわな……。
「一応ちゃんと受け答えしていたつもりだったんだけど、めちゃくちゃ怒らせちゃったみたいでさ。結局ビンタされて、最後はケツキックされたよ。」
「はぁぁぁ〜?」
それには驚き、目をまんまるにさせる中野。
俺だって、さっき起こった事が本当の様に思えずまだ信じられない。
いつもの清楚で可愛らしい感じの花園さんはそこにはおらず、意地悪でトゲトゲ全開な花園さんがいた。
その姿は、まるでシンデレラに出てくる継母にソックリ!
「いつもの姿と、さっき見た姿が合致しない。」
「人によって態度が違うって噂も本当だったんだな〜。あ〜……俺、女性恐怖症になりそう……。」
中野はシャカシャカと腕を擦り小さく震えると、続けて神妙な顔で口を開く。
「一応日野にこの事伝えるのか?そこまで性格が苛烈だと、怖いもんな。近づくなって言っとけば?」
「確かに怖い人だなって思うけど……。」
正直言って、色々自分の目で見た事を総合すると、花園さんはいい子!とは言えないと思った。
しかし、それを光輝に言うのは、なんだか言いつけたみたいで嫌だし……。
「……もし何か聞かれたら自分が思っている事は言うけど、近づくなとまでは言わないよ。それを決めるのは光輝だしな。
っつーかそもそも、女性相手に悪口みたいな事言いたくないや。カッコ悪過ぎるし。
それに光輝って意外にああみえて友情に熱い系男だから、下手に人間関係拗れたら悪いしな。」
「友情に熱い……。」
中野は遠い目をして何かを呟いていたが、最後はフッ……と穏やかに笑う。
「まぁ、確かに女子相手に、あーだこーだ文句や悪口言うのはカッコ悪いか。同意同意。
あ〜男は辛いよ……。っつーか、ビンタされたの大丈夫なのか?」
「うん。全然平気平気。こんなん猫パンチみたいなモンだし。
少女漫画とかだったら、これで恋が始まってたかもな。
『……くっ!なんて気が強い女だ!』とか言って喧嘩して、やがてそのヒロインが気になって仕方がなく思う様になってきて────……的な?」
王道展開を想像しながらそれを口にすると、中野は大爆笑していたが、直ぐに次の授業の先生が来てしまったので、必死に笑いを我慢していた。
そうして放課後、いつも通り部活へ向かおうとした俺の所に、光輝がやってくる。
いつもはバスケ部の方へそのまま向かうのに……?
「光輝、どうしたんだ?わざわざこっちまで来て。」
普段見れない姿に、クラスの女子たちは真っ赤な顔で固まっていた。
そんな女子達の視線をものともせずに、光輝はスタスタ前を通り過ぎて俺の前に立つと、あからさまに不機嫌そうな顔をする。
「これから少し部活の後に委員会の仕事があるから遅れそうなんだ。生徒会の手伝いも少し頼まれてさ。……面倒くさい。」
「そうか、分かった。大変だな。生徒会の仕事も手伝うのか?」
面倒くさがり屋の光輝が、そんな手伝いを了承するなんて珍しい……。
少し驚きながらそう尋ねると、光輝はコクリと素直に頷いた。
「ちょっと人脈を広げておきたくてさ。大会に優勝するには、多少それが必要だなって思ったんだよね。」
「────えっ!!」
とんでもない発言を聞いてびっくりしてしまう。
そ、そんなに優勝したかったのか……。
大会に対する情熱が垣間見えて……俺の頭の中には、朝に花園さんが言った言葉が思い浮かんだ。
『なんたって、日野君は私のために大会に出てくれるんだから〜。』
『だってぇ〜大会のミスは絶対私でしょ?なのに、ミスターに立候補するって……そういう事よ。』
光輝は花園さんと仲良くなりたい……?
「そ、そっか!頑張れよ!」
なんとなく引きつりそうになっている顔を無理やり笑顔にして、応援を口にする。
すると、光輝は面倒くさそうにため息をついた後、「終わったら迎えに行くから、こっちには絶対に来ないで部室で待ってて。」と言って、教室から出て行ってしまった。
迎えに来ないでって……もしかして、花園さんとの時間を邪魔するなって事だったりして?
────チクチク!!
いつも感じるのより強い胸の痛みに襲われ、思わず胸を押さえたが、痛みはじわじわと体中に広がっていく。
それが不思議で首を傾げたが、中野が「行こうぜ〜。」と言って歩き出してしまったので、俺は何度か胸を叩いて落ち着かせると、そのまま部室の方へと同じく歩き出した。

