◇◇
「ほ〜。色々青春してんな〜お前。」

親父がご飯を頬張りながら笑うと、俺は『えぇ〜……』と眉を寄せて首を振る。

「なんだか、光輝のせいで普通の青春って感じがしないんだけど……。」

「いやいや〜光輝君のお陰で寧ろ青春できてんじゃね?だってお前一人だとゲームしかしてなさそうだもん。」

ガハハ〜!と豪快に笑う親父は、近くに落ちているゲーム雑誌へ視線を向けて、誂うような目を向けてきた。

ちょうど学校からの帰り道、親父から夕飯に間に合うという連絡を受けたので、今日は自分の家に帰る事にしたのだ。
そうなると勿論光輝は当たり前の様に家に来るわけだが、本日は珍しく光輝の両親も家に帰ってくるとの事で、中野はそのままバイトへ、俺と光輝はお互いの家に帰る事になった。
そのためこうして親子の久しぶりの夕食となったわけで、せっかくだからと俺は今起きている事や自分のよく分からない心情について話してみたというわけだ。

俺と光輝はこのままの関係でいてもいいのかどうか、多分それについて悩んでいたから。

「まぁ、色々あるにしてもさ、光輝ってあの通りめちゃくちゃモテるし、キラキラしてるし……。俺と一緒に馬鹿やっているのが正しいのかなって、ちょっと最近悩んでいるんだ。
俺と一緒にいても毎日ゲームの話ばっかりだしさ、もっと広い視野で色んな体験をした方が光輝のためになるんじゃないかって。
……俺ってもしかして、光輝の成長の邪魔してる?」

白米を一口頬張りながらポツリポツリと呟くと、親父は目を閉じて考え込む仕草を見せた。

「なるほどな。確かに、そういう見方もある。
色んな体験をして色んなモノを見て、聞いて、触って……なんでも積極的にした方が良いって昔からよく言うもんな。
そのチャンスのタイミングは人によって違うから、無理に一緒にいるとそれぞれの足を引っ張る事もあるかもな。」

「そっか……。」

光輝と同じ道を歩いていて、気がつけば違う道がお互い別々に広がっている。
光輝はその中から自分で道を選ぼうとしているのに、俺が進みたい方向へ光輝を無理やり引っ張る────そんな場面を想像すると、チクチクと胸が痛んだ。
しんみりしてしまった俺を見て、父は今度はお惣菜の唐揚げを食べながら、何故か首を横に振る。

「だかな〜それで駄目になっちまうヤツも世の中にいるんだ。
自分の作った世界観から無理して出させると、自分の主軸がめちゃくちゃになっちまうヤツが。だから、一概にそれが正しいと俺は思ってない。」

「はぁ……なるほど?」

少し難しい話になってきて、う〜ん?と考え込んでいると、父は笑いながら箸で俺の方を指す。

「だから、結局ソイツにとって何がBESTなのかは誰にも分からないんだから、周りは何も言わないのが一番だ。
その結果、お互いどんな関係になっていくかは、お楽しみ。
とりあえず、その答えは他人が無理に導くモノじゃない。自分で決めるモンなんだからさ。
犯罪じゃない限りは暖かく見守ってやればいい。」

「……そ、そっか。」

”無理に導くモノではない”

その言葉がグサッ!と心に突き刺さり、俺は世の正義を光輝に押し付けようとしていたのか……と気付いた。

光輝は光輝で、いいなと思えば俺に背中を向けてどこまでも行っちゃうだろうし、外が面倒だと思うならこのまま側にいてくれるかもしれない。
それはそれで、どんな結果になっても仕方ない事だから、俺が押し付けちゃ駄目なんだ。

「俺、今まで光輝に自分の考えを押し付けてた。
昔から自分の楽しい事ばっかりして突き合わせてたし、最近も色んな人と話した方がいいんじゃないかって……そんなの光輝のペースでやるべきなのにな。」

「はぁ?いや、アイツはウキウキで付き合ってたから、別に付き合わせてた感じじゃないと思うが……。
あのな、一応アドバイスすると、アイツめちゃくちゃ究極の唯我独尊男だと思うぞ?
周りが何言おうが聞いてなさそうじゃん……。寧ろお前の方が────。」

父が小さい声でボソボソ喋っていたが、涙が滲んできたので鼻思い切り噛んでいた俺には聞こえなかった。
自分の最低な暴君ぶりを思い出し、涙は次から次へと流れていき、鼻を噛むティッシュが五枚目に到達したその瞬間……。

ピンポンピンポンピンポ〜ン!!

自分の家のピンポンが押される音が、連続して聞こえた。

「あ、は〜い!」

鼻を噛んだティッシュをゴミ箱に入れて玄関に向かう────間も、ピンポン音は続く。
更に玄関にたどり着いた時など、ドンドン!!と扉を叩く音まで聞こえれば……もうその正体は分かった。

「光輝〜ドア壊れるだろ。止めろって!」

ガチャッとドアを開けた瞬間、予想通りの光輝がそこにいて、正面からギュッ!と抱きしめてくる。

「……ただいま。」

「??お、おかえりなさい??」

そこはお邪魔しますでは??と思ったが、ま、いっか!と流しておかえりなさいを口にした。
すると、耳に光輝がフッと笑った声が聞こえ、擽ったさに首を大きく横に振る。

「うへぇ〜擽ったい!止めろって!」

「んん〜……。」

光輝はそのまま、まるで犬の様にスンスン!と俺の耳や首の匂いを嗅ぎ回った。
そのせいでひたすら笑っていると、親父が玄関の扉から少しだけ顔を出してジッ〜……と見つめてくる。