いつもの景色、いつもいる友達。
 でも今日はなんだか特別だ。
 そうか、今日が最後だから。
 あたりが急に薄暗くなって、さっきまで見えていた友達がいなくなってしまった。
 今、目の前にいるのは、僕のことを見る男の子。
 じっと見つめられて恥ずかしくなる。
 でも……いつもの優しい瞳ではない。
 僕を見る目が怖い。
 寂しい? 悲しい? 怒り?
 なんで、そんな目で見るの?
 彼の色が、黒く濁る。
 ……怖い。
 思わず、ぎゅっと目を閉じた。
 ――サト――。
 呼びかけに、うっすら目を開けると、そこはさっきまでの薄暗さは無くなっていた。
 見たことのある景色。
 展覧会場のエントランス。
 隣には、キラキラした男の子が笑いかけてくれていた。

 5歳の秋、展覧会へ出掛けた。
 絵画教室の先生の絵が展示されているということで、母が、僕とりょうちゃんを連れて行ってくれた。
 電車に乗って、駅から会場までを手をつないで歩いていく。
 時折吹く風が寒くて、身を震わせた。
 でも、つないだ手は温かくて幸せだ。
 会場に着くと、先生が待っていてくれた。
 先生に挨拶をして、一緒に見て回る。
 展覧会の中は、天井が高くて、綺麗なものが沢山あった。
 どの絵も綺麗で上手で、僕は夢中になって見て回った。
「先生、絵が描きたい」
 つまんなそうにしていたりょうちゃんが先生に告げると、先生は、お部屋を用意してくれた。
「僕も描く!」
 絵を見るのも好きだけど、やっぱり描く方が好きだ。
 会場の隣にある会議室のような小さい部屋に案内された。
 りょうちゃんと向かい合って、持ってきた画用紙にクレパスを動かす。
 僕は、りょうちゃんをりょうちゃんは、僕の顔を描く。
 りょうちゃんの絵を描くことが好きだ。
 りょうちゃんは、優しい。
 いつも僕の絵を褒めてくれる。