伯爵令嬢になった世界では大切な人に囲まれ毎日が輝く2

 今日はオーリン家の庭園にてお母様主催のお茶会の日だ。アンリは瞳と同じブルーのアフタヌーンドレスに身を包み、会場である庭園に立っていた。

 今日のお茶会のために噴水の周辺にはいくつものテーブルと椅子が並べられ、今はメイド達が最終調整を行なっている。そして今頃、キッチンではルエとシーズがお茶会用のケーキや軽食の仕上げの工程を行なっている頃だろう。

 アンリの隣に立つフレッドはベストにブルーブラックの髪に良く似合う最近仕立てたばかりの紺色のスーツを身に纏っている。

 招待客がやって来るまであと一時間ほどあるにも関わらず、アンリとフレッドが二人並んで庭園に立っているのには訳がある。それはお茶会の始まる前の時間、彼らときちんと向き合うためだ。

「アンリちゃん、お待たせ~」
「アンリ様、バノフィーくん、待たせてすまない」
「オーリン家の庭園に来るのは久しぶりだな。確かガキの頃にアンリと遊んで以来か」

 今日は一日、客人対応を任されているルイに案内されてやって来たクイニー、ミンス、ザックの三人はフレッド同様、それぞれオーダーメイドのカラースーツでオシャレをしている。
 しかしそんな事を冷静に観察している余裕も無いほど、アンリの心臓はバクバクと嫌な音を立てている。

「お嬢様、庭園の準備は終わりましたから、よろしければお席に案内致しましょうか」

 メイドに案内され、アンリ達は七脚の椅子が並ぶ純白のテーブルクロスの掛けられた丸テーブルに移動し、それぞれのネームプレートの置かれた席に腰掛ける。アンリの右隣はフレッド、フレッドの右がミンス、クイニー、ザックの順だ。ザックの右隣でありアンリの左隣に当たる場所には二脚分の空席がある。

 三人に向けてお母様が用意してくれた招待状には、お茶会の始まる前に話したい事がある為、この時間に来て欲しいという旨を書かせて貰っていた。しかし何を話したいのか内容まで示していない故、どう話を切り出すべきなのか分からない。
 おまけに告白されたことも無かった私に、好意に応える事は出来ないと伝える方法が分かるわけもない。

 なにより出来る事ならこれからもクイニーやミンス、ザックとは変わらず仲良くしたいと思っている。だからこそ、余計にどう伝えるべきなのか分からなくなるのだが…。

「アンリ様、どうしたんだ?」
「アンリには似合わない浮かない表情だな。体調でも悪いのか?」

 普段と違い口数も少なく、晴天の空には似合わないアンリの表情にザックやクイニーは顔色を伺っている。

「アンリ…、僕の方から言おうか?」

 隣に座るフレッドはそう提案してくれるけど、これは私が自分で言わないといけない、向き合わないといけない事だ。フレッドに頼るわけにいかない。
 静かに首を振ると「分かった…」とだけ言うと、フレッドは黙りアンリを見守る。

 クイニー、ミンス、ザックの顔を順に見ると、大きく深呼吸してゆっくり重たい口を開く。

「クイニー、ミンスくん、ザックくん。私ね、みんなから気持ちを伝えて貰って、すごく嬉しかった。でも…、ごめんなさい。私、みんなからの気持ちには応えられない」

 そう言い切ると、三人の反応や表情を見るのが怖くて俯いてしまう。緊張や恐怖から手足は一瞬で氷のように冷たくなり、小刻みに震えてしまっている。

 だが、そんな不安を打ち消すようにミンスはいつも通りの声で「アンリちゃん」と呼ぶ。
 恐る恐るミンスに視線を移すと、可愛らしい笑顔でアンリの瞳を見つめ笑っている。

「アンリちゃん、もちろん僕達は今でもアンリちゃんが大好きだよ。その気持ちは変わらない。でもね、僕はアンリちゃんが笑っていてくれる事が一番なんだ」

 ミンスの言葉に同調するようにクイニーとザックは頷く。

「実のところ、私はお茶会の招待状が届いた時から、こういう事を言われるんじゃ無いかって想像はしていたんだ。クイニーもそうだろ?」
「あぁ、まぁな」
「え…、どうして?」
「一時間も前に来て欲しいなんて、他の奴らに聞かれたくない話をしたいって事だろ。まぁだから俺もザックと同じように覚悟はしてた。だからお前はそんな顔をしなくて良いんだ。分かったか?」

 クイニーやザックは振られる事を覚悟した上で、それでもわざわざお茶会のお誘いに乗ってくれたというのだろうか。
 クイニーとザックはご令嬢からの人気は相変わらずだ。それでも言動や態度から時々勘違いされがちな二人でもあるが、不器用なだけで本当はこんなにも優しい人だったのだと改めて実感する。

「それにその様子だと、フレッドくんと両思いになれたんだよね!」
「え、なんで?」

 突如、嬉しそうに指摘してくるミンスにアンリは驚きで目を見開いてしまう。
 確かに三人からの想いには応えられないとは言ったが、まだフレッドとの事は言っていない。私からしてみれば、三人へは落ち着いてから話そうかと考えていたというのに、なぜミンスはフレッドとの事を知っているのだろうか。

「なんでって聞かれたら難しいけど、二人を見てたら伝わってくるよ。もちろん悔しくないって言ったら嘘だけど、同時にアンリちゃんとフレッドくんならすっごくお似合いだなって思うし、僕は二人の事を応援したいな。ね、ザック」
「あぁ、そうだな。それに相手がバノフィーくんというのなら、文句の付けようが無いよ」
「…みんなはこれからも、私と友達で居てくれる…?」

 顔色を伺いながら聞くアンリに、クイニーは溜息を落とした後、不器用に笑ってみせる。

「アンリ、お前はこれから俺らの関係がギクシャクするんじゃ無いかって心配しているんだろうが、何一つ変わる事は無いからな。言っただろ、俺はこのメンバーで過ごしている時間が一番好きなんだ。一度振られたからって、俺らの今まで積み上げてきた日々が終わるわけじゃ無いだろ?」

 その言葉に同調するように精一杯頷くミンスと、ゆっくりと頷くザック。それぞれがアンリに向ける微笑みは、アンリの抱えていた不安を一気に吹き飛ばすのだった。

「でももしアンリを泣かせる様ならバノフィー、お前が相手だろうが俺は遠慮しないからな」
「クイニー、バノフィーくんがアンリ様を泣かせるわけが無いだろう」
「まぁ確かにそうだな」

 そしてその場は自然と笑い声で溢れるのだった。