ギギ、ギギ――ゴォン……。
 瀟洒なレリーフの施された重厚な青銅製ドアが軋みながら閉まる。
 大理石の巨柱が聳え立ち、精巧なステンドグラスを曙光が照らす。
 内部は丸天井となっており、頂上高くにマリアの彫像が鎮座する。
「……壮観だな」
 彫像、レリーフ、彫刻、聖遺物。装飾の粋を尽くした豪奢な内観。
 ライトアップされた大聖堂は、魔法の様な極彩色で彩られている。
「こっちだよ、早くー」
「……?」
 馴染みある声に眼を向けると、レムが主祭壇から手招きしていた。
「……やれやれ」
 広大な身廟内を、チャンセルに向けてゆったりと歩き出すジュン。
 洗礼盤の様な協会用具や、聖体拝領台と思しき台座が散見される。
「聖域はこっち。そっちじゃないっ」
「……?」
 顔を上げると、レムが壇上のアプス部から身振り手振りしている。
 こっちへ来い――。みたいなニュアンスだろうと勝手に解釈した。
「……ふぅ……」
 レムの正体も既に解っていた。あの天真爛漫さはまさにカミュだ。
 恐らく本体は、ジオシティの孤島モンサンミッシェル外庭だろう。
「……」
 両の掌を見つめるジュン。透けてはないが妙にリアル感が乏しい。
 マトリックスの世界ではないが、この身体も借り物かもしれない。
「おーいっ。早くぅー。こっちこっちぃーっ」
「……」
 見やった先でレムが両手をブンブン振ってジュンを催促している。
 デジャヴ――。過去にも、こういう思い出深い場面があって――。
「……?」
 時間の流れに埋もれていた記憶の一場面が、鮮やかに蘇っていた。
 すっかり乾ききったと思っていた感情が、熱く沸騰するのが解る。
「……」
 目頭が熱くなるのを感じる。自分の死期が近い事を、――悟った。
「ジャスティン義兄さまー。連中が来るよぉー!」
「解っている。今行くから。ちょっと待っていろ」
 ザッ――。霊廟に向けて、ゆっくりと慎重に、歩を進めるジュン。
 連中。という響きが気にはなるものの、気にしていても仕方ない。

 ギィ、ギィ――……。
 古びた木製の階段を登って祭壇に上る。レムがこちらを見ている。
「義兄さま遅いっ。早くこの中に入って?」
「ん? ……あぁ」
 あの棺みたいな箱は聖櫃だろうか? 選択肢の余地はなさそうだ。
「狭くない?」
「……大丈夫」
 ガタン。……ゴゴ。
 言われるがままに古びた木製の棺に入り、レムが蓋を閉じてゆく。
「暑かったら言ってね? 温度調節するからさ」
「俺を……燃やすのか?」
「ぷっ。バカ言わないの」
 ガタン――。半笑いのレムが蓋を閉めて、辺りは真っ暗になった。