ゴロゴロ――……。
 蒼天の空が雷雲に覆われてゆく。雲間に青白い雷光が瞬き始めた。
「……ッ?」
「そろそろ来ます。奴等が」
 チャキ――……。
 片手剣を眼前に屹立させつつ、レムが横目でジュンを睨みつけた。
「奴等って……ん?」
 朱に染まってはいるが、何処かで見た、誰かの眼差しに似ていた。
「えーと、ジャスティン王子? 準備はいいですか?」
「……は? 何の?」
 言っている意味が良く解らない。準備とは、奴等とは、一体――?
 首を傾げるジュンに真っ直ぐ向き直ると、少女が笑い目で囁いた。
「ジャスティン義兄さまっ。準備できた?」
「義兄……さま……?」
 思わず眼を瞠るジュン。その闊達な口調には何処かで覚えがある。
「……お前……」
「一足先に城下町の教会で待ってるよっ。準備忘れないでねっ!」
 タタタ――……。
 叫ぶなり駆けだしてゆくレム。ショーツがはだけ素っ裸となった。
「……城下町の教会って……城塔と反対側じゃねーか?」
 一体何の根拠があって教会へ? 呆け顔で後ろ姿を見送るジュン。
「それに、準備つたって……一体、何の……」
「お義兄さまぁあーーーっ!」
「……カミュッ?」
 見上げた城塔の狭間から、金髪少女が手を振っているのが見えた。
「そうだった……」
 ギュゥゥ――……。
 大身槍を握る手に膂力が籠ってゆく。己の使命を思い出すジュン。
 カミュを。王国を。世界を護る使命を託されていた事を思い出す。
「一同、俺に続けッ! 俺がグランドラ王子ジャスティンだッ!」
 わぁあああ――……。
 湧き立つ歓声。王国兵団の熱気が、嘗てない盛り上がりを見せる。

 カッ――。……ドガァンッ!!
 城下町近辺に降り注いだ巨大落雷がグランドラ領土を震撼させる。
「……ッ」
 何かが――。邪悪な気配を纏う何者かが降り立った感覚があった。
「おい、な、何か近づいて来るぞぉッ!」
「ま、マジかよッ。俺たちの腕の見せ所って訳かよッ!」
「ッしゃあッ! 誰だろうがかかって来いやッ!」
 わ――ッ!
 湧き立つ兵団には目もくれず、ジュンは現地に向けて走り出した。
「――ジェラルドだ」
 何故、自分に解るのか良く理解出来なかったが、本能的に感じた。
 恐らくは一足先に現場に直行したレムの動向も気になってはいた。
「勇猛果敢な王国兵団よ、俺に続けッ!」
 バッーー……。
 先陣に立ち大身槍を揮うジュンの檄に、兵団の士気が急上昇する。
「おぉッ! 王子に、――続けぇえッ!」
「俺たちグランドラ王国に敵は無いッ!」
「手柄立ててやるぜぇこの野郎ォおッ!」
 わぁあああ――……ッ。
 後に続く家臣を率い、ジュンは目星をつけた落雷付近へ急行する。