Excalibur

 ◇選手控え室◇



 オォオォオ――……。
 タブレットから投影された三Ⅾホログラムが虚空にリングを映写している。
「しゃあッ! 嬢さんッ、ヤったスよッ! 兄貴がやりましたッ!」
 ゴォォオオ――……。
 燃える魔獣のホログラムを眼に、沈黙したまま表情を凍り付かせるセレス。
「……っ、まだ、……まだ終わってないっ。これから、変身が……」
「はぁ? どう見ても兄貴の完勝っス! 燃えちゃったンスからッ」
 束の間の喜びに水を差された形となったプロミスが、息を荒げて抗議する。
「大丈夫ッしょ。あの状態じゃ、もう闘う力は残ってない筈ッス!」
「違う、……アレは、相手のエネルギーを取り込んで、進化を……」
「は? アレって、……じゃ、あの魔獣って一体、何なんスかッ?」
「何某かの高度な知的生命体である事は確か……、ただ正体が……」
 言い淀むセレスの表情から、恐らく実体が掴めていないだろう事が窺える。
「嬢さんが記憶を封印する事になったのって、……奴のせいスか?」
「……ぅ、……うぅ……っ」
 ズキン――。
 苦悶に顔を歪め、項垂れるセレス。間断のない片頭痛が彼女を苛んでいた。

 ◇セレスの回想◇



 ――ドォン、ドガァンッ!
 光線銃の間断ない絨毯爆撃を浴びた巨体が、口から真っ白な硝煙を吐いた。
『グモォォォォオオオ――……ッ』
 ズズゥゥ――……ン。
 喉奥から重低音の咆哮を発しながら、身の丈十M超の巨大魔獣が聳え立つ。



「くっなんて奴だ、これだけ喰らわせても立ってくるなんて……っ」
「ディアナっ! 怪物のパワーが上昇しているっ! 注意してっ!」
 ゴゴゴゴゴ――……。
 静かな鳴動を轟かせる秘境の洞窟内部で、ゴーレムとの戦闘が続いていた。
『ウォォォォ――……ッッ』
「――ぐっ!」
 ――ドゴォォッ!!
 飛んできた横殴りの剛腕が、防御するディアナの身体を壁面に叩きつけた。
「ディアナっ!」
「……ぐ、……がはっ」
 ビシャ――ッ。
 口から吐血。セレスの必死の呼び声に、昏倒しかけた意識を辛うじて戻す。
「く、……このぉっ!」
 ドキュ、ドキュッ、……――ドォォンッ!
 手負いの仲間を援護すべく光線銃を乱射するセレス。ほぼ全弾が命中――。
『グモォォォオオオ……ッ』
 ――が、ダメージを与えるどころか、魔獣のパワーがより巨大化してゆく。
『ウォォォォォ――……ン』
 ――ギラリッ。
 猛き咆哮を発する魔獣の双眸が、援護射撃を加えたセレスへ狙いを定めた。

 ◇選手控え室◇



 ガタンッ――。
 慌てて椅子から立ち上がるなり、セレスは控え室のドアノブに手をかけた。
「嬢さんッ、何処へ? 警備員連中に見つかっちゃいまスッてば!」
「行かなきゃ……っ、私、今度こそディアナを助けなくちゃ……っ」
「あ、ちょっと待って下さいよぉッ。嬢さん! セレス嬢さんッ!」
 ガチャ、――バタンッ!
 控え室を後に、セレスの後を追う様にしてロビーホールへと走るプロミス。
「待って、ちょっと待って下さいッ、……お嬢さんッ」
 ダダダ――っ。
 小走りで先を急ぐセレス嬢の後を追う様に走りながら、小男は疑念を抱く。
 助けるとはいえ今のディアナはすり替わった偽物だ。お嬢は騙されている。
「そりゃぁ、……ディアナを助けたいのはッ、……山々っスけどッ」
 失踪して長い時間が経っている。既にこの世に存在してない可能性が高い。
 ――かといって、正論を振りかざして今の彼女を説得する事は無意味――。
「くッ、ぁっしは一体、どうすりゃいいんスかッ、兄貴ィ……ッ!」
 タタタ――っ。
 遠ざかるセレスの後ろ姿が、滲んでゆく。後を追いながら歯噛みする小男。

 ◇地下闘技場◇



 ワァァアア――……。
 相変わらず観衆のブーイングや罵声が飛び交い、完全アウェーのリング上。
「いいぞ怪物ゥッ、やっちまぇえッ! そいつを処刑しろオッ!」
「ヒャッヒャァアッ! いいぞ化け物ォッ、反撃しろやぁあッ!」
「ちょぉ~~。わだすのボゥゥ~イ、ここは逃げ時なのね~ン?」
 オォオォオ――……。
 悲哀、怒り、怨嗟、羨望、妬み、絶望、……様々な情感が渦を巻いている。
「ほんっと賑やかだけど……っ、でも今はそれどころじゃ……っ」
 ワァァアア――……。
 ブーイングに苛立ちを募らせたディアナが、周囲に睨み眼を効かせている。
「……~~っ」
 ガッシャァン――ッ。
 コーナーポストをぶっ叩くが観衆の歓声や咆哮は一向に収まる気配がない。 



 ドォオォオ――……。
 歓声と怒号がうねりとなって全館を揺るがす中をジェスの声が捲し立てる。
「おぉーっと~? モンスターは攻撃が効いてなぃのかぁーッ!」
「どう見ますかオリカさん、これは絶体絶命じゃないですか~?」
 解説者から話を振られた美魔女が、満面に笑みを浮かべ、的確に回答する。
「そうですね~、ブルーサンダーは結構ヤバいと思いますよぉ~」
「どれだけダメージを与えても修復されてしまいますからねェ~」
 ワァァアア――……。
 危険を察したか、観戦に興ずる解説陣もリングから距離を開けての設営だ。

 ゴオオォォォォ――……。
 焼き尽すかの如く燃え盛っていた業炎が、……急速な勢いで鎮まってゆく。
「……ッ? ――チィッ」
「駄目だ効いてないっ、……ってか、逆にパワー増してないっ?」
「あぁ、……その様だな」
 シュゥゥゥゥゥ――……。
 鎮火した硝煙が突風に流れ、後から魔獣の巨大な影が健在ぶりを誇示する。
『グルルルゥゥゥゥ……』
 パリッ、パキィ――……。
 業炎に爛れた表皮が破れ、内奥から筋骨隆々の艶めく外骨殻が姿を顕した。
「直人、あのモンスター進化してるっ。今までと違うからねっ!」
「……の、……様だなッ」
 ――ギリッ。
 奥歯を噛み、緻密に張り巡らせていた攻略の糸口を一旦リセットする直人。
 ダメージを吸収、更にパワーアップする相手を前に、安易に攻撃出来ない。

 ◇地下闘技場◇



 ドボォォオ――……。
 狂爪の一撃を掻い潜ったカウンターの正拳がモンスターの懐に突き刺さる。
『グモォォォオオッ!?』
「奥義、……」
 ピキ、パキ――ッ。
 直人の右拳が急速に冷却してゆき、魔獣の身体をみるみる凍結させてゆく。
「……――ペルティエ・デヴァイスッ」
「おぉっ、クマちゃんが凍ってくっ!」
 パキィィ――……。
 喜びも束の間、熱を奪われた魔獣はそのまま休眠モードへ入ってしまった。
 ざわ、ざわ――……。
 ざわめくスタンドの観衆。レフリーのジェスの声が困惑気味に捲し立てる。
「おぉーーっとぉ? これは休戦モードぉ? 決着つかないぞおッ!」
「……いいや、決着はつくさ。――奥義、……」
 キィィィ、……――バチィッ。
 直人の両下腿に集まった青白い勁力が、――バシィッ。発破音を散らせる。
「――鉄山靠ッ」
 キュン、ドゴォォ――ッ。ビシビシ――ッ。
 零距離からの体当たり攻撃を浴びた魔獣の身体に罅割れの様な亀裂が奔る。



「やったぁっ! これでクマは粉砕じゃんっ!」
「……ッ?」
 ――バキィンッ!!
 砕けた氷の石像内から、更に変貌を遂げた魔獣の姿が顕れ、咆哮を発する。
『グモォォォオオオオオオ――ッ!!』
「あぁーっとぉおッ!? 割れた氷の中から、またしても復活ゥウ?」
「……表面だけッ。……――内部はまさにマグマって訳かい……ッ!」
 トッ、ザザァ――……ドンッ。
 後方に跳んで反撃のベアクローを避ける直人。ポストに背中を叩きつける。
「なぁにやってんのよっ! あんな奴、早く倒しちゃえってぇえっ!」
「……無茶言うな、……見たろ? 付け焼き刃の冷却じゃ通らねェッ」
 ギィィ――っ。
 ディアナに髪を引っ張られ、声を荒げる直人。視線は魔獣に据えたままだ。



「……およそ思いつくどんな攻撃も効かねェ……、――倒せねェッ!」
 ワァァァアア――……。
 熱気が最高潮に達する。ヒートアップする場内の観衆が口々に喚き立てる。
「しゃあッ! クマ公ォッ、そろそろワシを億万長者にさせろぉおッ」
「無敵やないでスかぁッ。こんなん次回から賭け成立しまへんでぇ~」
「ぁにやってんだブルーサンダーッ、とっとと感電させちまぇやあッ」 
「オゥノゥオ~。頑張ってェ~わだす達のびりびりボゥゥ~~ゥイ♪」
 ドォオォオ――……。
 歓声と怒号がうねりとなって全館を揺るがす中をジェスの声が捲し立てる。
「おぉーーっとぉ? ここへ来てブルー陣営が仲間割れかぁ~~ッ?」
「仲間割れなんかしてねーしっ! くそレフェリーは黙っとけよっ!」
「……くッ、どうする、……どうすれば……ッ、あの化け物を……ッ」
 打つ手がない――。外野の喧騒を他所に、必死に自問自答を繰り返す直人。