Excalibur

 ◇セレスの回想◇


 
 オォオォオ――……。
 人工太陽が沈み、辺りは薄暗かったが、発光植物のお陰で辛うじて見える。
「確かこの辺りだったよね、……あ、ここね? セレス、こっちだよ!」
 ザッ――……。
 探していた眩しい洞窟前に到着した。湿った緑地帯だが、魔物の姿はない。
 手掛かりを探るべく、慎重に中に入る二人。反射光で内部はとても明るい。
「ねぇディアナ、……この洞窟って、以前に絶対、誰か住んでたよね?」
 母船、――宇宙船ティアが、当惑星に衝突するよりも遥かずっと以前――。
 嘗ての地底に、素性の見知らぬ先住民が存在していたとても不思議はない。
「だと思うよ? ほら、微かに音が鳴ってる。これが違和感の正体だよ」
「本当だ。キィーて鳴ってる。でもこれって、何処で鳴ってるんだろ?」
 素朴な疑問だったが、ディアナから返事はなかった。何やら考え中の様だ。
「……洞窟全体で鳴ってるんだと思う。何だか身体が暖かくなってきた」
「本当。ぽかぽかしてくるみたい。ここって昔は療養地だったのかな?」
「セレス、滑らない様に気をつけて。至る所が苔でぬかるんでいるから」
 オォオォオ――……。
 足元を見やると、辺り一帯が苔状の発光植物によって敷き詰められている。
「滑りやすいから気をつけてね。壁面に溝がないか良く確かめてみよう」
「ぅ、ぅん。わかった」
 音溝があればデータ再現ができる。そこに何か記録されてる可能性はある。

 ◇一時間後◇



「駄目だ。これも違う。……手掛かりらしきものが何も見つからないね」
 オォオォオ――……。
 溝の様な跡は洞窟内の石壁や岩石に複数見つかったが、再現性がなかった。
 以前に先ず古代人の残したデータだったとして、再生方法が皆目解らない。
「……ねぇセレス。神託で授かった啓示って一体どんなモノだったの?」
「ぇ、……っとぉ……。記憶が曖昧だけど、私の見た啓示ってのは……」
 オォオォオ――……。
 洞窟の外に眼を向けると、辺りは既に真っ暗で、何も見えない状態だった。
「神託では、未開の地より、邪教の神が世界を滅すって降りてきて……」
 未だ誰も調査をしていない魔境の地、センチュリオンもその有力な一つだ。 
「邪教の神? このセンチュリオンに邪教の神が眠ってるっていうの?」
「ぅん。そういうメッセージだと受け取ったんだけど。違ったのかなぁ」
「……いや、セレスの啓示は大抵当たるから。それは私が一番解ってる」
 セレスの啓示は的中率が高い。解釈の違いを加えれば的中率は更に上がる。

 ザッ――……。
 洞窟の中腹付近に一際大きな岩座が鎮座している。奇妙な形状に気付いた。
「これ、コンソールパネルだ。なんで今まで気が付かなかったんだろう」
「ちょっとディアナ、危険だよ。も、もぅ帰ろう? 夜更けなんだよ?」
「……いや、もう少しだけ……。ここをこうして、……これ、かな……」



 カチッ、ヴゥン――……。
 起動音がした。岩座を操作していたディアナが、眼を丸くして顔を上げる。
「うわぁ……、凄い、……動いたっ! データが残ってたよ、セレス!」
「ディアナ、やっぱり私達だけじゃ。……帰って、誰か呼ぼうよ……?」
「……」
 ス――。
 セレスの方に真顔を向けると、ディアナは凛とした態度で力強く言い張る。
「そんな覚悟で来たの? 私達二人で、世界を危機から救う為でしょ?」
「っ! そ、それはそうだけど……っ、でも正直、私達だけじゃ……っ」
「貴女はどうか知らないけれど。このディアナ・クルスには二言はない」
「――……っ」
 連れて来たのが間違いだと確信する。ディアナは独自の信念を持っている。
 有事の際には頼もしい限りだが、間違った方へ傾けば、歯止めが利かない。

 キィィィイ――……。
 超音波の様な超高域のエコー音が鳴り始めた。洞窟全域に鳴り渡っている。
「音源データ……。この洞窟全体が光学ディスクの役割をしていたのか」
 パァァァア――……。
 ソプラノ歌手の美声を更に数オクターブ上げたかの様な、音色が反響する。
「でももし、――貴女がっ、……貴女がしんじゃったらどうするのっ!」
「その時はその時だよ。自分で決めた運命だもんね。私に後悔はないよ」
「……っ」
 今更、後戻りは出来そうもない。が、今はディアナ共々自分の身が危うい。
 
 ヒュ、ヒュ――、ガゴォッ!!
 辺りに散らばっていた岩石が音響浮遊で浮き上がり、物体を構築していく。
「これって、……データに合わせて、……再構築しているのか……っ?」
「音源データが、物体を創る……? けど、……一体、その目的は……」



 ガゴォ、ガゴォッ、――ゴガガガァッ!!
 瞠目する二人の前で、身の丈十M超の巨人像がみるみる組み上がってゆく。
 光学データを基に物体を組み上げる技術は、まるで三Ⅾプリンターの様だ。

「これは凄いな……、何かが復元されてきた。セレス、アレを見てっ!」
「……ぁ、ぁあ……っ!?」
 ガゴォンッ! ……――オォオォオ――……。
 洞窟内に広がる眩い立体空間の真ん中に、忽ち一体のゴーレムが完成した。



『ウォォォォォーー……ンッ』
 オォオォオ――……。
 組み上がった身の丈十Mを超える巨神兵の猛き咆哮が大気を打ち震わせる。
「これは……っ! 夢の中に、……私の神託に出てきた……」
「へぇー。そっかぁ。……セレス、コイツがそうなんだね?」
 世界を滅し者、センチュリオンより出る――。セレスはそう神託を受けた。
 なら放置する理由はない。ディアナの決断はティア人の誰よりも早かった。
「よしっ。こちら側から先制攻撃に移るっ! 顕現せよ――」
 ――ヴゥ……ン――、ジャキィッ!!
 青い眼が鋭い煌きを放つ。構えるディアナの両手に二丁の銃身が顕現した。
「……ま、待って!? この巨人、……本当に、私たちの敵なの?」
「神託を受けただろ? 岩座も破壊した方がいい。奴が動く前にっ」
 キュドッ、――ドゴォッ!!
 二対の粒子砲を岩座に浴びせて攻撃するディアナ。巨人が雄叫びを上げる。
『グォォォォォ……――ォンッッ』
「ま、待って! お願いディアナっ。まだ良く解らないのに……っ」
 ジャキ――ッ。
 戸惑うセレスを他所に、真っ直ぐに伸ばした拳銃を巨人に据えるディアナ。
「覚悟をきめろっ。この怪物を倒して世界を滅亡から救うんだっ!」
 ドン、ドン、ドォ……ォンッ――……。
 チェンバー効果で反響する銃撃音。少女の銃口が紅蓮の烈火を噴き上げる。

 ◇地下闘技場◇



 ワァァアア――ッ。
 歓声が大きさを増す。館内全域が割れんばかりの野次と怒号に揺れている。
「八百長じゃねェかッ! あの野郎、足が宙空に浮いてンぞおッ!」
「アレも実力の内っすよっ! インチキもあの男の実力の内っす!」
「普通の奴じゃ宙にすら浮きようがねェんだよッ! 奴は強ぇエッ」
「きゃぁあ素敵よぉォん♪ わだすのびりびりボゥゥ~~ゥイっ♪」
 バィィン――ッ。
 はだけたトップレスの中から、揺れ弾むシリコン仕込みの巨乳が炸裂――。



「なおっちゅわぁぁんっ♪ そんなクマちゃん、やっちゃぇ~っ♪」
「イカしたサンドバッグじゃないの~? ボクササイズに最適ィ~」
「てゆーかぁ~あのクマ体力あり過ぎじゃなぁい? どんだけぇ~」
 ピィー~っ、ヒュ―ヒューっ♪
 奇抜な肌着を身につけたドラァグクィーン達が、黄色い歓声で囃し立てる。



「るっさいわ~っ。つーかコレ、ホントにセレスの深層意識なの?」
「ふざけろよ、……さっきお前が自分でそう言ってたじゃねーかッ」
 ぼやくディアナを、さり気なく咎める直人。確かにおふざけが過ぎる様だ。
 セレスのお茶目な部分が出てるのか、或いはハデスが干渉してるのか――。



「とにかくアイツ等、とっとと黙らせてよっ! きしょいからっ!」
「あの老いぼれがやってンだとしたら、……まぁ、……気色悪ィな」
 ハデスの仕業である可能性は高い。悩まし気に眉根を寄せつつぼやく直人。
「あの野郎、とっとと〆て戻らねェとな……。現実世界が気になる」
「それより直人、そろそろ決めてっ! 控え室のセレスが心配っ!」
「……あぁ、解っている。――つぎで決めてやるよッ」
 ギシィ――。ィィィィ――……。
 漲る決意を胸に、両拳を握り締める直人。両の下腿に眩い勁力が凝集する。
「木崎流奥義、……――春霞ッ」
『……モッ!?』
 ドキュッ、……――ドボォオッ!!
 一瞬で間合いを詰めた直人の左のパンチが、魔獣の脇腹に深々と突き立つ。
『グモォォォォオオオオッ!?』
 グモォォオォオ――……。
 苦悶の呻き声を発する魔獣の懐深く潜り込んだ直人の眼が、煌きを放った。



「絶技、……――豪破爆炎拳ッ」
『アンギャァァァアアアアッッ』
 ボゥンッ、――ゴォォオオッッ!!
 脇腹にめり込んだ直人の拳が発火、燃え盛る業炎がのたうつ魔獣を焼いた。