
◇セレスの回想◇
オォオォオ――……。
肩を並べる二人。眼前に、長い蔦で覆われた厳めしい古神殿が聳えている。
当初は疎らに散見されていた魔物の姿も、目的地に近づくにつれ激減した。
「大丈夫かな。皆には内緒で、かなり遠い所まで来ちゃったけど……」
「弱気だねセレスは。今から手ぶらで引き返す訳にもいかないよね?」
「そうよね……。私の我が儘につき合わせちゃって御免ね、ディアナ」
ザザァ――……。
荒涼たる岩石地帯の麓に、淀んだ水辺に藻の様な発光植物が生息している。
「水源はあるのに、小鳥一匹すら見えないなんて……、何だか変ね?」
「捕食生物の姿も……、特に見えないな。潜伏している気配もないね」
ヒュォォォ――。
見晴らす限り荒涼たる景観が続いており、山麓特有の空っ風が吹いている。
「んじゃあ、先に進むよ。覚悟はいいよね?」
「ぅん。ディアナこそ大丈夫? 顔が硬いよ」
「私は大丈夫だよ。貴女を護らないとね……」
ザッ、ザッ――。
一歩先を慎重に進みながら、ディアナが怪訝そうに辺りを見渡して呟いた。
「アガルタにこんな場所があるなんて。生態系はどうなってるんだ?」
「もしかしたら、私達がまだ見知らぬ生態系が存在してるのかも……」
母船、――自分達の宇宙船ティアが、当惑星に衝突するよりも遥か昔――。
嘗ての地底に、素性の見知らぬ生命体が存在していたとても不思議はない。
◇一時間後◇

「……」
「……」
――ザッ――。
散策には然程の時間を要さなかった。広大な史跡痕を周遊して調査は終了。
気になる神殿の中は蛻の殻で生活感もなし。先住者の影も気配もなかった。
「すっかり暗くなっちゃった……。家に帰るまで大分かかりそうね」
「そうね。ディアナが一緒なお陰で、凄く安心できた。ありがとう」
特にモンスターに遭遇する事もなく、二人は無事に元の地点へ戻って来た。
肉眼で視える様な怪しい生命体も特に見つからず、至極平和な探索である。
「でもスリルあったよねぇ」
「……ぅーん。……セレス」
コツン――。
小石を蹴飛ばしながら、先導していたディアナがくるっと後方を振り返る。
「ねぇセレス。……この遺跡ってさ、結局は誰が創ったものだと思う?」
「ぅん。文明が崩壊してかなり経っている様だし。データでもあればね」
太古に崩壊した文明の様だが、残存データも、手掛かりの様な物すらない。
壁画、文字、音溝、或いは磁気媒体など再生可能なデータでもあれば――。
◇一時間後◇
見落としがないかと注意深く周囲を探索したが、何も手掛かりはなかった。
「あの、……透明な洞窟。……さっき入った場所、何か感じなかった?」
「……」
オォオォオ――……。
ディアナの返答前に、奇妙な沈黙があった。何時もの闊達な即答ではない。
「……ん。あのやけに眩しい洞窟の事? じゃあもう一度入ってみる?」

「……えぇ」
渋々同意するセレス。とある洞窟の内部がやけに眩しかった事が気になる。
「でも、……やっぱり、もぅ止そっか。何だか嫌な予感もするんだよね」
自分の提案ではあったが、暫しの黙考の後、セレスはやんわりと拒否した。
「……何だか、あそこにはもう行きたくないというか」
実は、先程の洞窟には嫌な予感が付き纏っていた。調査を続けるのが辛い。
神託の放棄も癪だが、家に帰りたかった。成果云々より身の保全が優先だ。
「弱気になった、セレス? 貴女が言い出したんだよ。責任持ちなさい」
「……っ? ディアナ、どうしたの? 突然、そんな真顔になって……」
胸騒ぎが大きくなる。内心の動揺を抑えきれなくなり、質問し返すセレス。
ディアナから柄になく張り詰めた決意を感じる。声に何時もの余裕がない。
「一応調査は終わったんだから、……形上は問題なしでも良いよね……」
「神託を受け、それを遂行する事が貴女の責務でしょ? 放棄するの?」
キッ――。
ディアナの視線が、これ迄にない真剣みを宿している。口調がやけに熱い。
「結果的にそれが間違いであっても。貴女は自分の道を進むべきでは?」
「……な、なによディアナ、そんな極端な事、私言ってないじゃないっ」
反論するセレスだが、完全にディアナに同意見だった。心は誤魔化せない。
どんな美辞麗句で体面だけ取り繕おうと、本心に嘘をつき通す事は困難だ。
「神託を受け、貴女は信じたんでしょう? なら最後まで調査しようよ」
「……でもっ、ここまで何の手掛かりも無かったんだよ? 今更……っ」
「だからこそじゃない? 貴女の言ってた洞窟、もう一度再調査しよう」
「ぁ……っ」
ザッ、ザッ――。
呼び止める間もなくディアナが先を歩き出した。おずおず後を追うセレス。


