
オォオォオ――……。
隔絶された時空の狭間の孤島。数体の少女達が魔物の群れに囲まれている。
ドシュゥッ! 燦然と輝く陽の下、紺碧の空に一条の鮮血が舞い上がった。
「うぎゃっ」
ドゥ――。
迷彩柄のミリタリージャケットを着込んだ一体の少女が地面に倒れ伏した。
「きゃぁっ! あ、アメジストぉっ!?」
「慌てないでっ。隊列を崩しちゃ駄目っ」
ザぁ――っ。
瀟洒な杖を握り締めた黒髪少女の喝に、一同が乱れた隊列を組みなおした。
若草色の髪をした二丁拳銃の少女が、戦況を見定める黒髪少女に進言する。
「トト隊長、ご指示をっ! 仲間達の疲労も、恐らくは限界ですよっ」
「新手の出現が止まらないわ。あのワームホールを塞がなくてはっ!」
ぱっ――。
少女が杖で指示した先の虚空に、渦を巻く暗黒空間がぽつんと開いている。
ヴヴ――ヴゥン……。
地鳴りの様な重低音を発し、ゆったりと渦を巻く空間から魔物が出現する。
「ウォオォオ――……ンッ!!」
ズゥゥン――。
ドス黒い体色を日差しに煌めかせ、巨漢のモンスターが砂上へと降り立つ。
「まぁーた現れたぁ。たくバカの一つ覚えかっつーの。ザぁコがっ♪」
ビュン、ダダダッ――。
刀剣を一振りすると、金髪の少女がモンスターの軍勢に単身突撃してゆく。

「パール! 勝手な真似は駄目よっ! 単独行動は許さないってばっ」
「へへーん。甘い甘いっ。ぁんたのゆー事なんて聞く訳ないっしょ♪」
キィィィイイ――……。
高域の音を響き鳴らして発光する刀剣に、並々ならぬ神霊力が漲ってゆく。
「グァアアアア――ッ!!」
ヴォンッ! 棍棒の様な剛腕の薙ぎ払い攻撃が、ザンッ。――空を斬った。
「ゴッァアッ!??」
ヴシュゥッ!! 飛び散る鮮血。怯む魔の軍勢に血のシャワーが降り注ぐ。
「遅い遅いっ♪ 止まって見えるよっ」
「ギャゥアァウッ!」
「ゴルルルァアアッ」
バッ、――ゴォオオッ!!
一瞬だけ怯むも、忽ち獰猛な牙を剥き標的に飛び掛かるモンスターウルフ。
ヴォン――ッ!!
ほぼ同時に、タイタン族の勇壮な戦士が、巨木の様な剛腕を打ち下ろした。
隊列の中心に陣取る隊長格の黒髪少女が、杖を翳しながら檄を投げかける。
「来るよパールっ!」
「……ざぁ~こっ♪」
――カチリ……ッ。
嗤う金髪の少女。クラック音が鳴り、景色が暗転。戦場が静謐に包まれた。

「必殺……、タイム・イーター♪」
――チッ、チッ、チッ――。
一切の動きを止めたモンスターの群れの中を、悠々と練り歩く金髪の少女。
「てぁ、はっ、っぇい♪」
ヒュンヒュン、――ズバッ、ザンッ、ドシュッ!!
縦横に刀剣を振り回し、魔物の群れをスプラッターの集塊へと変えてゆく。

オォオォオ――……。
見渡す一面すっかり血の海と化した戦場の中心に、金髪少女が佇んでいる。
「げぷっ。……御馳走様でしたぁ♪」
お腹がぽっこり膨れている。あたかも【時間を食べた】かの様な反作用だ。
「もぉ~お腹一杯だぁ~。これ以上だときっとパンクしちゃぅ~っ♪」
――タタタ……。
茶化すかの様に嗤って砂上に座り込む金髪少女。傍に黒髪少女が駆け寄る。
「パールっ! まぁた時間食べたの? あんま無茶しないでよぉ~っ」
「げぷっ。はぁ~いトト。お久しぶりっ♪ 別に無理してないよぉ~」
「バカっ。時間食べたら、また犯罪の前科が増えちゃうじゃないっ!」
呆れ顔でパールを叱りつける黒髪少女。彼女は心底からうんざりしていた。
時空管理者の彼女はパールの横暴に巻き込まれ剰え片棒を担がされていた。
「ぁ、そだったね。ぁははっ♪ まぁ今更、ぁんま変わんなくねっ?」
けらけらと空笑いを立てると、金髪の少女は髪をツーテールに束ねて括る。
「ヴァネッサちゃん、ヴイっ♪ 時間たぁっぷり食べてやりましたっ」
「まぁ確かに今更って感じか。ってか貴女の源氏名はパールでしょ?」
隊長・トトの冷徹な突っ込みに、パールは愛想笑いで口許を引き攣らせる。
「ぇろい呼び方やめろってば~。何だよ源氏名って。ゃらしーなーっ」
「貴女が自分でそう呼べって言ったんでしょ? もぉ忘れちゃった?」
澄まし顔で平然と嘯く黒髪少女、トト。思い出したかの様にパールが笑う。
「……ぁっ。調子に乗って言っちゃったかもしんない……。ぁははっ」

「ところで貴女、また現世で悪事働いてきたんじゃないでしょーね?」
「――ぃっ!? ぃやぁ~……。悪事って程でもぉ~~、ぁはははっ」
誤魔化すべく愛想笑いを作るパール。引き攣った笑顔がトトの疑念を催す。
「あ~? 怪しいなぁ。パールの嘘なんて私、直ぐ分かるんだからねっ?」
「ちょぉっとだけさぁ、パーティー会場を爆破させてきちゃったけど……」

「はぁ? 干渉したら駄目なんだってば。この歪の原因殆ど貴女でしょ!」
トトが目くじらを立てて怒る。流石のパールも誤魔化すのが億劫になった。
「格好良いお兄さんが居たからね。ちょっと一緒にダンス踊っただけだよ」
「パーティー会場壊しちゃったんでしょおっ? それやっちゃ駄目な事っ」
「現世に影響するからって、別に誤差だろ? いーじゃんね、別にそれ位」
「駄目ったら駄目なのおっ! 歪が増えて秩序が保てなくなっちゃうの!」

大口を開けてトトが懸命に怒鳴り散らす。が、必死の説得も寝耳に水――。
「秩序が崩れたら戻すだけじゃん。失敗から学ぶやり方だってあるよね?」
「パール、いえ、ヴァネッサっ! 貴女のはね、無秩序な破壊なのよっ!」
「あーるっさいなー。今お腹引っ込めるんだからちょっと黙っててよぉ~」
「ちょ、こんなところでっ!?」
シャぁ――っっ!
その場にしゃがみ込むと、パールはラメ入りショーツを脱いで用を足した。
「ひゃぁ~気ん持ちいい~っ。野外って最高ぉっ! 十年分出したぁーっ」
しゃぁぁー……。
膨れ上がっていたお腹がみるみるへっこんでゆき、元の体型に戻ってゆく。

「んもぉっ破廉恥な女ですわねっ。貴女って恥ずかしいとは思わないの?」
「何ともないけどぉ~? ぁたしはね、バトルに負ける方が恥ずいかなぁ」
ぐっ、……。
ピンクのショーツを無造作に履くと、ツーテールの髪をやおら掻き揚げる。
「……ぅん。よしっ。ヴァネッサちゃんってば完璧っ♪」
ザッ――。
凹んだお腹を叩いて立ち上がると、パールはにっこり笑顔をトトに向ける。
「今を愉しむのって、大事だと思うんだよね。勝手な思い込みかもだけど」
「……ぅーんそれもそっかぁ。だけど、貴女は周りに迷惑かけ過ぎだよ?」
窘めるトト。モンスター勢を制圧した仲間達が、二人の下へ集まってきた。
「おーーーぃっ。無事だったかぁ~~パールぅーーっ!」
「もぉ。あんまり無茶なさらないでってアレ程……っ!」
「ちょっとお前らっ。ゲート閉じきれてないんだけどっ」
――タタタ――……っ。
メンバーの一同が集まってくる。エメラルドの異名を持つ銃使い・フェニ。
サファイアの異名を持つ水晶使い・ガーランド。トルマリンのキケの姿も。
「まぁーた時間喰ったなお前ぇー。懲役追加だぞぉ~?」
「まぁフェニ。パールは幼いんだから大目に見てあげて」
クスクス……。
呆れ果てるフェニの横では、ガーランドが両肩を揺らし笑いを堪えている。
「バカっ! ぁたしが時間喰わなきゃ全滅してただろ!」
「余計な世話だよっ。自分の尻くらい自分で拭けるわっ」
「シュウフクリツ……、六十%……マダオジカンヲ……」
ドッ。ぁはは――っ。
一同大笑いを呈する中で、やられたアメジストは自己修復を開始している。
「冗談だよぱーる~♪ ちゃんと感謝してまぁーっす!」
「むっかぁー。その言い方な~んか許せないんだけどっ」
ギャーギャーっ!!
取っ組み合いのキャットファイトを尻目に、手早く指示を出す隊長のトト。
「ガーランド。バカは放っといてホールを塞ぎましょ?」

「既にキケが動いております。トト。心配は無用ですよ」
「ゃ、っそれっ、」
パンっ――。パチンっ――。
遠方を眺ると、俊敏な忍装束のキケが封印の護符を張り付けている最中だ。
「同朋が乱してきた時空の歪を糺す。これに失敗すれば」
「……時空警察に、我々が処罰される。……ですよね?」
黙然と頷くトトの横に並び立ち、キケの動向を注意深く見守るガーランド。
「遠方に新たな歪が出現予定。まだ油断は出来ませんね」
オォオォオ――……。
歪が何時生まれ、何処に魔物が現れるか不明である以上、予断を許さない。


