「私はこの『ひだまりのフライパン』で、みんなの笑顔と触れ合っていたいんです! 世界の半分なんて要りません!」
「い、いや……え……?」
ゼノヴィアスは完全に言葉を失った。
五百年生きてきて、初めてのプロポーズ。まさか断られるなんて、想像もしていなかった。
「そもそも」
シャーロットは腰に手を当てた。
「私、ゼノさんのこと何にも知らないし、それで結婚とかないですよ」
正論だった。
ぐうの音も出ない正論。
「お、おぉ、そうか、そうだったな……」
ゼノヴィアスは慌てて立ち上がった。
「では、我のことをまず理解してもらおう! 我は魔王城に住んでおってな……えーと……」
必死に自己紹介を始めようとする魔王。その姿には、もはや威厳の欠片もない。
だが、シャーロットの表情が急に曇った。
「それに……」
声が震える。
「今は、王都が疫病で大変で……」
涙が、頬を伝った。
うつむくシャーロット。その小さな肩が震えている。
「疫病?」
ゼノヴィアスは眉をひそめた。
「なぜ、シャーロットが関係あるのだ?」
「実は……」
シャーロットは顔を上げた。涙でぐしゃぐしゃになった顔で、それでも真っ直ぐにゼノヴィアスを見つめる。
そして、ポツリポツリと語り始めた。
王都での孤独な日々。
夜な夜な、一人で薬を作り続けたこと。
誰にも知られず、感謝もされず、それでも人々を守ろうとしたこと。
そして――追放されてしまったこと。
「レシピは聖女に託したのに……きっと、作ってくれなかったんだわ」
シャーロットの声は、罪悪感に満ちていた。
「私がもっとちゃんと説明していれば……もっと強く頼んでいれば……」
堰を切ったように、言葉が溢れ出す。
ゼノヴィアスはそっと悲しみに暮れるシャーロットを引き寄せた。
「今も、王都では人が死んでいく……私が救えたかもしれない命が……うわぁぁぁぁん」
ゼノヴィアスの胸の中で嗚咽が漏れる――――。
今まで溜まりに溜まっていた感情が、怒涛のように流れ出していく。
ゼノヴィアスは、黙ってその告白を聞いていたが突然、声を上げた。
「そうか! 『天使様の薬』とは、シャーロットのものだったのか!」
目を輝かせる。
「さすが! 我が妃にふさわしい!」
ゼノヴィアスはシャーロットの顔をのぞきこむ。
「だから、妃にはなりませんって!!」
シャーロットは涙目で抗議した。
「でも……なんで『天使様の薬』を知ってるんですか?」
不思議そうに首を傾げる。
「フハハハハ!」
ゼノヴィアスは胸を張った。
「魔界をなめてもらっては困る! 世界中あちこちで、我がインテリジェンスが暗躍しておるのだ!」
得意げに説明を始める。
「最近王都で不思議な薬があること、それが青カビから生成されていること……全て調査済みだ!」
「へっ!? そこまで……」
シャーロットは驚愕した。
秘密裏に進めていたはずのプロジェクト。その全てを、この魔王は知っていたというのか。
「では、もしかして……」
希望に満ちた声。
「おう!」
ゼノヴィアスは誇らしげに頷いた。
「我が魔王城の精鋭のノームたちが、すでに量産をしておる!」
そして、にやりと笑った。
「良ければ……王都に提供してもいいが?」
その瞬間――――。
「ゼノさん!!」
シャーロットは、思わずゼノヴィアスの手を取った。
両手で、ぎゅっと握りしめる。
その温もりに、ゼノヴィアスの心臓が跳ね上がった。
「本当に!? 本当に薬があるの!?」
キラキラと輝く瞳で見つめられ、ゼノヴィアスはその純粋な輝きに射抜かれた。
頬が、じわりと熱くなる。
「あ、ああ……もちろんだ」
声が、かすかに震えた。
「す、すごいわ……」
シャーロットに希望の笑みが広がる。
「ど、どうだ? 余の力を見直したか?」
ニヤリと笑う。
「す、すごいですよ!」
シャーロットは感激で震えていた。
「あ、でも、結婚は……」
慌てて付け加える。
「ははは!」
ゼノヴィアスは豪快に笑った。
「こんなことで結婚は迫らんよ」
優しい眼差しでシャーロットを見つめる。
「もっと我を知り、我と共に過ごしたくなった時……」
一呼吸置いて。
「その時が、誓いの時だ」
そこには運命がもたらす予感があった。
「あ、ありがとう……」
シャーロットの顔に心からの笑顔が咲いた。
まるで、春の陽だまりのような、温かい笑顔――――。
その笑顔を見た瞬間、ゼノヴィアスは確信した。
この笑顔のためなら世界の半分も何も、全てを投げ出してもいい、と。
「い、いや……え……?」
ゼノヴィアスは完全に言葉を失った。
五百年生きてきて、初めてのプロポーズ。まさか断られるなんて、想像もしていなかった。
「そもそも」
シャーロットは腰に手を当てた。
「私、ゼノさんのこと何にも知らないし、それで結婚とかないですよ」
正論だった。
ぐうの音も出ない正論。
「お、おぉ、そうか、そうだったな……」
ゼノヴィアスは慌てて立ち上がった。
「では、我のことをまず理解してもらおう! 我は魔王城に住んでおってな……えーと……」
必死に自己紹介を始めようとする魔王。その姿には、もはや威厳の欠片もない。
だが、シャーロットの表情が急に曇った。
「それに……」
声が震える。
「今は、王都が疫病で大変で……」
涙が、頬を伝った。
うつむくシャーロット。その小さな肩が震えている。
「疫病?」
ゼノヴィアスは眉をひそめた。
「なぜ、シャーロットが関係あるのだ?」
「実は……」
シャーロットは顔を上げた。涙でぐしゃぐしゃになった顔で、それでも真っ直ぐにゼノヴィアスを見つめる。
そして、ポツリポツリと語り始めた。
王都での孤独な日々。
夜な夜な、一人で薬を作り続けたこと。
誰にも知られず、感謝もされず、それでも人々を守ろうとしたこと。
そして――追放されてしまったこと。
「レシピは聖女に託したのに……きっと、作ってくれなかったんだわ」
シャーロットの声は、罪悪感に満ちていた。
「私がもっとちゃんと説明していれば……もっと強く頼んでいれば……」
堰を切ったように、言葉が溢れ出す。
ゼノヴィアスはそっと悲しみに暮れるシャーロットを引き寄せた。
「今も、王都では人が死んでいく……私が救えたかもしれない命が……うわぁぁぁぁん」
ゼノヴィアスの胸の中で嗚咽が漏れる――――。
今まで溜まりに溜まっていた感情が、怒涛のように流れ出していく。
ゼノヴィアスは、黙ってその告白を聞いていたが突然、声を上げた。
「そうか! 『天使様の薬』とは、シャーロットのものだったのか!」
目を輝かせる。
「さすが! 我が妃にふさわしい!」
ゼノヴィアスはシャーロットの顔をのぞきこむ。
「だから、妃にはなりませんって!!」
シャーロットは涙目で抗議した。
「でも……なんで『天使様の薬』を知ってるんですか?」
不思議そうに首を傾げる。
「フハハハハ!」
ゼノヴィアスは胸を張った。
「魔界をなめてもらっては困る! 世界中あちこちで、我がインテリジェンスが暗躍しておるのだ!」
得意げに説明を始める。
「最近王都で不思議な薬があること、それが青カビから生成されていること……全て調査済みだ!」
「へっ!? そこまで……」
シャーロットは驚愕した。
秘密裏に進めていたはずのプロジェクト。その全てを、この魔王は知っていたというのか。
「では、もしかして……」
希望に満ちた声。
「おう!」
ゼノヴィアスは誇らしげに頷いた。
「我が魔王城の精鋭のノームたちが、すでに量産をしておる!」
そして、にやりと笑った。
「良ければ……王都に提供してもいいが?」
その瞬間――――。
「ゼノさん!!」
シャーロットは、思わずゼノヴィアスの手を取った。
両手で、ぎゅっと握りしめる。
その温もりに、ゼノヴィアスの心臓が跳ね上がった。
「本当に!? 本当に薬があるの!?」
キラキラと輝く瞳で見つめられ、ゼノヴィアスはその純粋な輝きに射抜かれた。
頬が、じわりと熱くなる。
「あ、ああ……もちろんだ」
声が、かすかに震えた。
「す、すごいわ……」
シャーロットに希望の笑みが広がる。
「ど、どうだ? 余の力を見直したか?」
ニヤリと笑う。
「す、すごいですよ!」
シャーロットは感激で震えていた。
「あ、でも、結婚は……」
慌てて付け加える。
「ははは!」
ゼノヴィアスは豪快に笑った。
「こんなことで結婚は迫らんよ」
優しい眼差しでシャーロットを見つめる。
「もっと我を知り、我と共に過ごしたくなった時……」
一呼吸置いて。
「その時が、誓いの時だ」
そこには運命がもたらす予感があった。
「あ、ありがとう……」
シャーロットの顔に心からの笑顔が咲いた。
まるで、春の陽だまりのような、温かい笑顔――――。
その笑顔を見た瞬間、ゼノヴィアスは確信した。
この笑顔のためなら世界の半分も何も、全てを投げ出してもいい、と。



