「だ、だだだだ、大丈夫です！」
エドワードは泣きそうな声で叫んだ。
「もう、シャーロットを泣かすようなことは……」
「『シャーロット様』だろうが！！」
ガン！
強烈な頭突きが、エドワードの額に炸裂した。
「ぐほっ！」
目から火花が散ってふらふらになる。
膝から崩れ落ちそうになるが、ゼノヴィアスが襟首を掴んで支えた。
「お前ごときが呼び捨てていい人じゃないんだが？ ふざけんなよ？」
「し、失礼いたしました！」
エドワードは涙目で謝罪した。
「シャーロット様には、今後一切近づきません！ 命に懸けて誓います！！」
「ふむ……」
ゼノヴィアスは値踏みするような目で、エドワードを見下ろした。
「実はな……」
そして、恐ろしい笑みを浮かべた。
「暇つぶしに、王都を焼いてやろうと思っていたんだ」
くっくっくと、喉の奥で笑い声が響く。
ブワッ！
紫色のオーラが、まるで炎のようにゼノヴィアスの全身から噴き出した。
その威圧感に、エドワードは息ができなくなった。
「ひ、ひぃぃぃ！」
情けない悲鳴を上げる。
「そ、そんな！ や、やめてください！」
「だが……」
ゼノヴィアスは急に真剣な表情になった。
「シャーロットがいるから、戦争を止めてやっているんだ」
「言っている意味が、分かるか？」
ゼノヴィアスは深紅に輝く瞳をクワっと開き、エドワードの瞳を覗き込む。
「シャ、シャーロット様が……それだけ素晴らしいお方である、と……？」
「そうだ」
ゼノヴィアスの目に、一瞬だけ優しい光が宿った。
「五百年もの間、いろんな女を見てきたが……」
遠い目をする。
「彼女ほど魅力のある女は、いない」
ゼノヴィアスは月を見上げ……何度もうなずいた。
「もう二度と近づくな。分かったか？」
「近づきません！ 誓います！ 私が間違っておりました！！」
エドワードは地面に頭をこすりつけんばかりに謝罪した。
「よぉし……」
ゼノヴィアスは満足そうに頷くと、腕をブンと振った。バサッとマントが翻る。
「ならば、消え失せろ！」
「はいっ！ 直ちに！！」
エドワードは一目散に仲間の元へ走った。
「おい！ お前ら撤収！ 撤収だ！ 急げ！！」
店の中から心配そうに見ていた兵士たちに向かって叫ぶ。
そして、一行は蜘蛛の子を散らすように逃げていった。
ゼノヴィアスは、その背中を見送りながら、ふんっ！と鼻を鳴らす。
（シャーロットの魅力の分からぬ愚か者どもめ……）
そして、意気揚々と店に戻っていった。
◇
「シャーロット！」
扉を開けながら、ゼノヴィアスは誇らしげに宣言した。
「王子君は理解してくれたよ！ もう二度と君を困らせることはない！」
にこやかな笑顔。まるで、褒めてもらいたい大型犬のような表情。
だが――――。
シャーロットもルカも、その笑顔を見ていなかった。
二人の視線は、ゼノヴィアスの額に釘付けになっている。
「え……？」
「こ、これって……」
シャーロットの声が震えた。
「え？ あ……」
ゼノヴィアスは自分の額に手をやった。
そこには――角がある。
変身魔法を解いたまま、隠すのを忘れていたのだ。
「しまった……」
ギリッと奥歯を噛む。
あれほど気をつけていたのに。騒動に気を取られて、最も大切なことを忘れていた。
「ゼ、ゼノさん……？」
シャーロットの声は、恐怖ではなく困惑に満ちていた。
謎の多い変わった人だとは思っていたシャーロットも、まさか魔族――それも、こんな立派な角を持つ高位の魔族だったとは想像もしていなかったのだ。
ゼノヴィアスは覚悟を決めた。
（もう、隠しても仕方ない）
ずいっと、シャーロットに近づく。
「シャーロット」
ポン！と音がして手品のように、もう一本の虹色の花が現れた。先ほどプレゼントしたものと同じ、この世のものとは思えない美しさを放っている。
ゼノヴィアスはそれを両手で恭しくシャーロットに差し出した。
「……え？」
真剣な眼差しでブラウンの瞳を見つめるゼノヴィアス。
「我が妃となれ」
「き、妃……って？」
シャーロットの頭は完全に混乱していた。
角がある。
妃になれと言っている。
つまり――――。
「魔王妃となって、一緒に魔界を統べるのだ」
ゼノヴィアスは誇らしげに宣言した。
「え？ お断りします」
即答だった。シャーロットはきっぱりと、そして少し迷惑そうに断った。
「え？」
今度はゼノヴィアスが固まる番だった。
「な、なぜ？」
声が裏返る。
「世界の半分が二人のものだぞ？」
必死に説得を試みる。
「こないだも言ったじゃないですか！」
シャーロットはプクッと頬を膨らませた。
エドワードは泣きそうな声で叫んだ。
「もう、シャーロットを泣かすようなことは……」
「『シャーロット様』だろうが！！」
ガン！
強烈な頭突きが、エドワードの額に炸裂した。
「ぐほっ！」
目から火花が散ってふらふらになる。
膝から崩れ落ちそうになるが、ゼノヴィアスが襟首を掴んで支えた。
「お前ごときが呼び捨てていい人じゃないんだが？ ふざけんなよ？」
「し、失礼いたしました！」
エドワードは涙目で謝罪した。
「シャーロット様には、今後一切近づきません！ 命に懸けて誓います！！」
「ふむ……」
ゼノヴィアスは値踏みするような目で、エドワードを見下ろした。
「実はな……」
そして、恐ろしい笑みを浮かべた。
「暇つぶしに、王都を焼いてやろうと思っていたんだ」
くっくっくと、喉の奥で笑い声が響く。
ブワッ！
紫色のオーラが、まるで炎のようにゼノヴィアスの全身から噴き出した。
その威圧感に、エドワードは息ができなくなった。
「ひ、ひぃぃぃ！」
情けない悲鳴を上げる。
「そ、そんな！ や、やめてください！」
「だが……」
ゼノヴィアスは急に真剣な表情になった。
「シャーロットがいるから、戦争を止めてやっているんだ」
「言っている意味が、分かるか？」
ゼノヴィアスは深紅に輝く瞳をクワっと開き、エドワードの瞳を覗き込む。
「シャ、シャーロット様が……それだけ素晴らしいお方である、と……？」
「そうだ」
ゼノヴィアスの目に、一瞬だけ優しい光が宿った。
「五百年もの間、いろんな女を見てきたが……」
遠い目をする。
「彼女ほど魅力のある女は、いない」
ゼノヴィアスは月を見上げ……何度もうなずいた。
「もう二度と近づくな。分かったか？」
「近づきません！ 誓います！ 私が間違っておりました！！」
エドワードは地面に頭をこすりつけんばかりに謝罪した。
「よぉし……」
ゼノヴィアスは満足そうに頷くと、腕をブンと振った。バサッとマントが翻る。
「ならば、消え失せろ！」
「はいっ！ 直ちに！！」
エドワードは一目散に仲間の元へ走った。
「おい！ お前ら撤収！ 撤収だ！ 急げ！！」
店の中から心配そうに見ていた兵士たちに向かって叫ぶ。
そして、一行は蜘蛛の子を散らすように逃げていった。
ゼノヴィアスは、その背中を見送りながら、ふんっ！と鼻を鳴らす。
（シャーロットの魅力の分からぬ愚か者どもめ……）
そして、意気揚々と店に戻っていった。
◇
「シャーロット！」
扉を開けながら、ゼノヴィアスは誇らしげに宣言した。
「王子君は理解してくれたよ！ もう二度と君を困らせることはない！」
にこやかな笑顔。まるで、褒めてもらいたい大型犬のような表情。
だが――――。
シャーロットもルカも、その笑顔を見ていなかった。
二人の視線は、ゼノヴィアスの額に釘付けになっている。
「え……？」
「こ、これって……」
シャーロットの声が震えた。
「え？ あ……」
ゼノヴィアスは自分の額に手をやった。
そこには――角がある。
変身魔法を解いたまま、隠すのを忘れていたのだ。
「しまった……」
ギリッと奥歯を噛む。
あれほど気をつけていたのに。騒動に気を取られて、最も大切なことを忘れていた。
「ゼ、ゼノさん……？」
シャーロットの声は、恐怖ではなく困惑に満ちていた。
謎の多い変わった人だとは思っていたシャーロットも、まさか魔族――それも、こんな立派な角を持つ高位の魔族だったとは想像もしていなかったのだ。
ゼノヴィアスは覚悟を決めた。
（もう、隠しても仕方ない）
ずいっと、シャーロットに近づく。
「シャーロット」
ポン！と音がして手品のように、もう一本の虹色の花が現れた。先ほどプレゼントしたものと同じ、この世のものとは思えない美しさを放っている。
ゼノヴィアスはそれを両手で恭しくシャーロットに差し出した。
「……え？」
真剣な眼差しでブラウンの瞳を見つめるゼノヴィアス。
「我が妃となれ」
「き、妃……って？」
シャーロットの頭は完全に混乱していた。
角がある。
妃になれと言っている。
つまり――――。
「魔王妃となって、一緒に魔界を統べるのだ」
ゼノヴィアスは誇らしげに宣言した。
「え？ お断りします」
即答だった。シャーロットはきっぱりと、そして少し迷惑そうに断った。
「え？」
今度はゼノヴィアスが固まる番だった。
「な、なぜ？」
声が裏返る。
「世界の半分が二人のものだぞ？」
必死に説得を試みる。
「こないだも言ったじゃないですか！」
シャーロットはプクッと頬を膨らませた。
