美女3人による幸せ自己紹介が行われた矢先、僕の親友二人も挙手して名乗りを挙げた。
 なんだかんだ彼らも美女には弱いんだ、僕は知ってるよー。入学式の日にシアンさんに惚れて突撃した結果、見事に即撃沈した男子学生諸君の中に君たちも混ざってたろー。仲間ー。
 
「はじめましてレリエさん、僕はケルヴィン・ラルコン。そこなソウマくんの親友です。以後お見知りおきを」
 
 燻った金髪を眉にかかる程度に伸ばした少年、ケルヴィンくん。平民の立場だけど勉強家で、嘘か真か入試の成績一桁台だって噂もある秀才だ。
 ちょっと皮肉っぽい顔つきとキザでクールな態度が特徴的で、僕はかっこよくて好きだけど鼻につくから嫌いって人もいるみたい。でもそういうのも含めて面白いって笑ってるあたり、大器だなーって思うね。
 
「どうもはじめまして。セルシス・プルーフ・アルトビアです。ソウマくんとケルヴィンくんとは今年春からの親友です。よろしく」
 
 大柄で結構厳つい体つきだけど、温和な表情を湛えるべき少年セルシスくん。貴族の、たしか公爵だったかな? の長男さんでつまりは次期当主というすごい立場の人だよー。
 だから正直、こんなスラムの野良犬と関わってるとまずいんじゃ? とは今でもたまに思うんだけど、"身分や立場を越えてともに立つ者こそが本当の友だ"という彼の男前な発言を聞いて、思わず尊敬の念を抱いちゃったのは内緒だ。
 
 二人の丁寧な名乗りを受けてレリエさんも自己紹介して、一同ひとまず席についた。
 今ここにこのメンツで文芸部室にいる名目も、一応は文芸部活動ってことにはなってるけど……事実上、新世界旅団の集会だよねー、これー。
 
「さて、レリエさん。我々新世界旅団はあなたを歓迎します。ともに未知なる世界を旅し、冒険に挑み続けましょう」
「は、はい。私にとってはすべてが未知ですから、望むところです、団長」
「ふふ、そう固くならないでください……そうは言っても我々の当面の活動は、新世界旅団発足に向けての準備なのですから」
「え?」
 
 首を傾げるレリエさん。そりゃそうだよー、冒険に挑みましょう! って言った矢先にその前に発足準備するけど! って言われたらえ? ってなるよねー。
 でもこればっかりは仕方ないのだ、だってこの新世界旅団ってば、そもそもまだギルドに結成申請すらしてない口だけパーティーだしー。

 なんならシアンさんが構想を僕に明かしたのさえ数日前だしね。サクラさんもほぼ同じタイミングで聞かされてそこから話に乗ったってだけなので、文字通りの白紙の状態に近いんだよねー。
 だからレリエさんを加えるこの際、その辺の話もしっかりしとかないといけないなーって団長は思ってるんだと思うよー。
 
「実のところ、新世界旅団を結成するとソウマくんとサクラに告げて、勧誘したのがつい数日前のこと。つまりまだまだ、構想途中のパーティーなんですよ」
「そうなんですね……それで準備と。メンバーの確保とかですか?」
「それもありますし、私自身の実力をある程度のラインまで引き上げることも前提です。非力なままでは、新世界旅団団長として失格だと思いますから」

 お恥ずかしい話ですが、と苦笑いするシアンさんは心底から自分の弱さを嘆いているようだった。ちょっと自信喪失気味?
 サクラさん相手に打ち込み修行したって話だし、たぶん数時間ひたすらいなされたんだろうねー。落ち込むのは分かるけど、誰だって最初はそんなもんだしそんな気にしないでほしいよー。

「別に僕は構わないんだけどなー。強さだけがリーダーの素質じゃないし。あとシアンさん、落ち込む必要ないよー」
「ソウマくん……ですが、私は」
「サクラさんと自分を比べてるんだと思うけど、ペーペーがSランク相手に落ち込むなんて10年は早いよー。まだまだこれからこれから、今はまだスタート地点にすぎないんだからさー」
「そのとおりでござるよ、シアン」

 ちょっと手厳しいというか、シアンさんにとって悔しいだろう言葉を投げちゃったけど事実は事実だ。受け止めてもらわないと、勝手に思い詰めて潰れられても困るしねー。
 そう思っての僕の言葉に、サクラさんも乗っかってきた。うんうんと頷き、シアンさんの現状について語る。
 
「今日、シアンの太刀筋を見る限りでは素質は十分にあるでござる。エーデルライト家仕込みの戦闘術も体格によく合ってるでござるし、あとは心身が伴えば技量を引き出していけるでござろう。日々精進あるのみでござるよー」
「それは……いつか私も、あなたやソウマくんにも追いつけるってこと?」
「んー、努力次第で拙者にはいけるでござるがソウマ殿はさすがに無理でござる。ありゃ拙者やシミラ卿でも一生かけて辿り着けるかどうかって次元でござるし」
「そんなわけないよー!?」

 サクラさんどんだけこないだの茶番を引きずってるのー!? いくらなんでも彼女やシミラ卿が一生掛けなきゃならないような領域には僕、いないはずだけどー!?
 唖然としてツッコミを入れるも、サクラさんは真顔でこちらを指差すままだ。そして間髪入れず、僕に言ってきた。
 
「実際に見てみるのが早いでござるね。ちょっとソウマ殿、立ってほしいでござるよ」
「えぇ……?」
 
 何を証明するつもりなんだか。嫌な予感しかしないよー。
 それでも言われるがまま、僕は席を立ちちょっと離れた、空きスペースに立つのだった。