「…………失礼しまーす」
 
 中に誰がいるとも分からないし、一応冒険者"杭打ち"として入室したものの。見れば僕の正体を知っている人達が勢揃いだったことからすぐに、ソウマ・グンダリとしての素で話すことにした。
 
 部屋の奥のデスクに座るギルド長、横に控える秘書さん。
 手前のソファに座るサクラさんとなんでここにいるの? シアンさん。
 そして今回の一連の騒動においてたぶん、一番気の毒な立ち位置にいるのだろうシミラ卿。こちらの5人だけが部屋の中にいたのだ。
 みんな気軽な様子で、軽快に僕に声をかけてくる。
 
「やっほーでごーざるー。さっきぶりでござるねソウマ殿、ござござー」
「先程ぶりです、ソウマくん。ジンダイ先生に連れてこられる形で来てしまいました。さすがにまだ、今の私にはこのメンバーの話し合いに混ざるには役者不足と思うのですけどね」
「ヒノモトから来たSランクに、エーデルライト家の三女……ソウマと関係があったか。これは話が早いな、ギルド長?」
「そう思ったからこそのこのメンバーなのですなあ、フフフフ」
 
 古くからの知り合いと、最近知り合った人が並んで話してるのってなんか違和感というか、変な感じするねー。
 というかシアンさんはサクラさんに連れてこられたのか。本人が言うようにちょっとまだ早くないかなー? 場合によってはその場で戦闘まで起きかねないのがSランクやそれに相当する連中の物騒なところだし、何かあってからでは遅いと思うんだけど。
 
 まあ、本当にこの場で殴り合い斬り合いが発生しそうならその時には謹んで僕がシアンさんのナイトを務めさせてもらおうかなー!
 憧れの人を護って戦えるとか青春極まる話だよー、この場のSランクがまとめて向かってきても余裕で全員殴り飛ばせそう。
 
「まあまあ、よく来たなグンダリ。ワルンフォルース卿の隣が空いているからそこに座りなさい」
「なんなら膝の上でもいいぞ、ソウマ。一年ぶりに姉に甘えるがいい」
「弟になった覚えがないので遠慮しますー。よいしょっと」
 
 白髪を長く伸ばしてオールバック気味に後ろに流した、スーツ姿の老爺。すなわち迷宮都市の冒険者ギルドを束ねるギルド長ベルアニーさんの指示に従いソファに座る。
 シミラ卿がまたなんか言ってるけど、僕的には弟より彼氏になりたいところだよね。調査戦隊時代はそもそも恋とか青春とかどうでも良かった僕だから弟役でも良かったかもだけど、今の僕は最高に青春したいからね!
 
 まあ、今は厄介ごとの匂いがプンプンしている現場ですから自重するけども。
 杭打ちくんを床に置いて、フカフカのソファに腰を沈めて一息つく。するとギルド長が頃合いかと呟いて口火を切った。
 
「揃ったな。それでは諸君、問題発生だ。平たく言うと政治屋どもがまたぞろ、古代文明の生き残りを求めて騎士団を動かそうとしている。それも今度は穏便な形でなく、武力行使も厭わないとまで指示が下りているそうだ」
「古代文明の生き残り……ヤミくんとヒカリちゃん? またあの双子を狙ってるの、シミラ卿?」
 
 問題発生とか言う割に妙に機嫌の良いギルド長。楽しそうに愉快そうに笑って経緯を説明するけれど、その目だけはまるで笑ってないから腸が煮えくり返ってるんだろうなって僕には察せる。
 
 古代文明の生き残り。僕の知る限りでは地下86階層の奇妙な部屋で眠っていたらしい双子、ヤミくんとヒカリちゃんが該当する。
 まだまだ幼い二人を狙い、物扱いした挙げ句に実験材料だの研究素材だのふざけたことを言ってのけたのが騎士団の新米達だ。そこにたまたま居合わせた僕が助太刀に入ったのがこないだの話だねー。
 
 最終的には団長のシミラ卿自ら、新米のボンボン達を片っ端から殴り飛ばして連れ帰ったわけだけど……性懲りもなくまだやろうって言うんだね、あいつら。
 当事者の片割れである騎士団を率いる、シミラ卿御本人に尋ねてみる。すると意外な答えが返ってきて、僕は驚くこととなった。
 
「いや。今回のターゲットは別の人物、別の生き残りとされる女だ」
「……他にもいたんだ、超古代文明人って」
 
 案外いるもんなんだねー、何千年もの時を超えてやってきた、古代文明からの使者ってのは。
 どうにもオカルト満載な話で僕としては嬉しい限りだけど、ギルド長やサクラさんなんかはいかにも半信半疑って感じだよー。シアンさんはなんとなく納得してる風だけど、彼女ももしかしたら超古代文明とか好きなタイプの人なのかもしれない。
 
 趣味が合う美少女! 運命だよこれは、きっと運命に違いない!
 内心はしゃぐ僕をよそに、シミラ卿は話を続けた。どこか頭が痛そうに──実際悩みの種は尽きないのだろうねー──言ってくる。
 
「その女は先日の騒動と前後して存在が確認された。運が良いのか悪いのか、どうやら迷宮浅層を彷徨いていたところを冒険者パーティーに保護されていたらしい。双子の確保が失敗した今、次はその女というわけだ」
「いかにも訳アリとは思っていましたが……まさか超古代文明の生き残り、といういわくつきの方でしたか。本当に運が良いのか悪いのか、判断に困りますね」
「…………え?」
「一応、あなたもご存知ですよソウマくん」
 
 何やら事情通みたいなことを言い出したよ、僕も知ってる人だって? でもそんな人と会う機会なんてどこで────あっ!? 
 不意に直感で悟る。そういえば直近で一人、シアンさんの近くで素性の知れない女の人を見かけたじゃないか。
 
 まさか、あの人が?
 視線で問うと、シアンさんは真剣な顔で頷き、僕の推測を肯定した。
 
「グレイタスくんのパーティーの新規メンバーでこの間、彼を諭し励ましていたマーテルさん。どうやら彼女こそ、数万年前の超古代文明の生き残りらしいのです」
 
 やっぱり!