過去のアレコレを踏まえてじゃあ、なんで今になって新しい調査戦隊を組織したいのか。
 僕の率直な疑問にシアンさんは、強い熱の籠もった視線を僕に投げかけながら続けて言った。
 
「一国家の下らない思惑で崩壊の憂き目を見ることとなった大迷宮深層調査戦隊。今、世界ではどこの国も新たなる調査戦隊を作り上げようと必死なのはソウマくん、ご存知でしたか?」
「えぇ……? いえ、まったくこれっぽっちも知りませんね……」
「ソウマくんに限らず普通は、勤勉な平民や貴族でもない限りよその国がどうのこうのなんて基本、気にしませんからねえ」
 
 次から次へと出てくる新事実に、一応関係者だったはずの僕が何も知らなさすぎてちょっと気まずいよー。
 ケルヴィンくんが言う通り平民やスラムの者にとってはそんな国際情勢、知ったこっちゃないんだから気にしろって言われても知らないよー、としか言えないんだけどね。
 
 無知すぎる自身に内心ショックを受けつつ開き直りつつなんだけど、けれどサクラさんは気にせず頷いた。シアンさんに向け、僕とケルヴィンくんの見解を引き継いで話す。
 
「これについては正直、どこの国でも似たようなもんでござる。貧すれば鈍する、とまでは言わぬでござるが……日常生活に大きく関わりないのであれば、誰も気にしないのが普通の民草というものでござるよ、生徒会長」
「でしょうね。まあそこは想定していました……つまりはソウマくん。各国は伝説を再現し、今度は自国こそが冒険者達にとっての理想郷であると強調したいのですよ」
 
 シアンさんの語るところによると、つまりはこういうことらしい。
 ──調査戦隊崩壊後、元メンバーは散り散りとなりそれぞれの故郷や拠点、あるいは新天地へと向かった。迷宮なんてこの地以外にも腐る程あるわけだし、新たな活躍場所を求めて旅立っていったのだ。
 
 そして、そうなると動き出すのはエウリデ以外の各国なわけで。
 これまでは迷宮を擁する関係上エウリデに独占されていた調査戦隊メンバーだけど、解散したとなると話は別だ。元メンバーを一人でも多く擁して、その者を旗頭とした新たなる大迷宮深層調査戦隊を組織しようと目論んでいる国が数多、台頭してきたそうなのだ。
 
 なんでも、大迷宮深層調査戦隊の志を継ぐとかって謳い文句であちこち、本家だの元祖だのニューだのネオだのセカンドだのが生まれては消えているのだとか。
 終いにはニセ調査戦隊メンバーなんて馬鹿な詐欺師も出てきてるそうで、どうにも収拾のつかない事態になりつつあるというのが現状だそうだった。
 
 正直そんな、ガワにばかり執着してても仕方ないんじゃない? って思うけどー……
 それだけ、大迷宮深層調査戦隊の遺した功績という名の爪痕は大きかったのだとシアンさん、サクラさんは口を揃えて語る。
 
「大迷宮深層調査戦隊の活躍によりエウリデは一気に冒険者国家として大成。経済的にも国力的にも大幅な増強を成し遂げました」
「まあ自分の手でそれを壊したのでござるけどねー。で、そんな調査戦隊の後釜を擁することができれば、次のエウリデになれるかもしれない──と、各国は考えているのでござるよ。ゆえに現状、調査戦隊の後継を名乗るパーティーが乱立して互いに互いを潰し合う、ある種の代理戦争になっちゃってるのでござる」
「俺も聞いたことあるな……エウリデも再び調査戦隊を発足させようとして、しかし過去の行状から冒険者達に総スカンを食らったとか。自業自得だがそうせざるを得ない理由はあったってことか」
「えぇ……?」
 
 エウリデの面の皮の厚さもそうだけど、しれっと調査戦隊の後釜を狙ってくる各国も中々に抜け目ないというか、生き馬の目を抜くような話というか。
 ていうか代理戦争って何? 冒険者なんだからパーティー間の潰し合いとかしてないで迷宮潜ろうよー。いやまあ、結果的にこういう状況を招いちゃった元凶である僕に、言えた義理じゃないけどもさー。
 
「えっとー、それで、シアンさんも調査戦隊の後釜を作りたい、と?」
「似て非なるものですね。後釜でなく新規に、かつての調査戦隊以上のパーティーを作りたいと思っています。そのためにもソウマくん、あなたの協力は半ば絶対条件なんですよ」
「なんでー……?」
「そりゃーもちろん、貴殿の来歴ゆえでござるよ」
 
 後釜でも新規でも、調査戦隊をモロに意識したパーティーづくりをするならそれは大差なく、ポスト調査戦隊ってことになると思うんですけどー……シアンさん的にはこだわりのある違いみたいだ。
 それにしたって僕の協力がパーティー構築の絶対条件っていうのは、いまいちピンとこない話なんだけどね? 僕を必要としてもらえるのは本当に嬉しいけれど、もしかして"杭打ち"っていう冒険者のネームバリューだけ求めてるのかと思っちゃうもん。
 
 せっかくお近づきになれた1度目の初恋の人に、そういう扱いをされるのはちょっと寂しいかもー。
 我ながら贅沢なことを思っていると、サクラさんが何やら苦笑いしながら僕に、話しかけてくる。
 
「たぶん今、相当拗らせた考えをしてそうでござるから言っておくでござるよソウマ殿。生徒会長は、杭打ちとしての貴殿を含めたソウマ・グンダリそのものを欲しがっているんでござるからねー?」
「え……」
「まあまあ、ここは一つ拙者が説明してご覧に入れるでござるー」
 
 ござござーと、何やら楽しげにつぶやきながらもサクラさんは、僕にシアンさんの考えを説明し始めた。