「お、なんだなんだ"杭打ち"の秘密が明かされんのか!」
「塔やらなんやらについては今後ゆっくり調べられっけど、杭打ちの秘密はなかなか聞けねえぜ! おいみんな、杭打ちの隠しごとが明らかになるってよー!!」
「おおー?」
「なんだなんだー?」

 話を聞きつけて冒険者達もゾロゾロやって来るよー。本当にもう、無闇矢鱈に好奇心が強いー!
 これには新世界旅団の面々も苦笑いだし、レリエさんもあらあらって笑ってる。僕だってつられて曖昧な笑みを浮かべちゃうねー。
 
「あはは……まあ、どのみちみんなにも立ち会ってもらうつもりだったし良いんだけどね」
「そうなの? ……え?」

 聞き捨てならない言葉。立ち会うって、僕の秘密についてかな?
 にしてはなんかこう第三者的というか、見学してもらう的なニュアンスじゃなかった? なんだか嫌な予感がしてきたんだけど、レイアを見る。

 薄く、優しく──そして闘志を秘めて。
 微笑む彼女に全身が粟立って、僕はちょっと待ってと震える声で確認した。

「立ち会い?」
「うん。私とソウくんの、もしかしたら最初で最後になるかもな──決闘のね」

 唖然。まさかの喧嘩だよー!?
 決闘? 僕とレイアが? なんで? 何を今さらそんなこと、調査戦隊にいた頃だってしたことなかったじゃないか、決闘だなんて!!

 意味の分からない提案だ。僕とレイアが戦う意味なんてどこにも少しばかりもない。いや僕が一方的に殴られるならまだしも、僕のほうからレイアに攻撃するなんて恥の上塗りだ、できるわけがないよー!
 
「決闘!? 戦うの、なんで!? 僕の秘密は!?」
「なんでってそりゃあ、3年前から今までの総決算のため、かなー? あと、ソウくんの謎については戦いながら説明するよ。そっちのが分かりやすいし」
「そっ……それなら、僕は何もしないよ。何もできない。レイアにただ殴られ斬られするよ。戦いにもならない」

 意義を問えば総決算、だとか戦いながら説明したほうが分かりやすい、なんて意味ありげな言葉が返る。3年前から今までってことはやっぱり調査戦隊解散にまつわる話なんだろうけど……
 それならやっぱり僕にはできないと、首を大きく左右に振る。筋が通らない。

 僕は一方的な加害者で、恨まれる側で、何をされても文句一つだって言ってはならない側だ。
 本当は再会してすぐに素っ首跳ね飛ばされても文句言えないくらい、レイア達調査戦隊メンバーに対して大きな罪を背負ってしまっている。
 
 そんな僕が、決闘にかこつけて被害者にしてしまった彼女を攻撃する? できないよそんなこと!
 だから僕にできるのは、戦いじゃない。ただ斬られ、突かれ殴られ痛みを受けてせめてもの贖いをするだけなんだ。
 新世界旅団のためにも命だけはあげられないけど……それ以外ならなんだって差し出しても良いとさえ、今の僕には思えるよー。
 
「ソウくん……」
「今さら償うなんてできないよ、分かってるそんなこと。でもそれでも、僕にできることがあるならなんでもやるよ。命は、さすがにあげられないけど……」
「ソウくん。そういうところも含めての総決算だよ」

 けれどレイアは、そんな僕をこそ否定するように告げた。僕のこういう、償いへの意欲さえ含めて彼女は、この決闘をもってすべてを精算するっていうんだ。
 そのまま静かな眼差しで僕を見つめて、続ける。
 
「3年前。私"達"は過ちを犯した。取り返しのつけられない、大きな過ちを」
「達……って、レイア!」
「それぞれの罪だけじゃなく! 自分一人が悪いと思ってる、そんな君の歪みを正すためにも!」

 なんで……自分達も悪かったって言うの? あの解散の流れの中に、レイア達が悪かったところなんて一つもないじゃないか。
 ミストルティンがキレて離脱したのだって、僕がそもそもやらかさなければあり得なかったことだ。僕が調査戦隊に入らなければ。レイア達と出会わなければ。今でもみんな、仲良くともに冒険を続けられていたはずなんだ。

 僕さえいなければ。
 今ここにいること、生まれてきたことを喜ばしく思うけど、それでもたしかにこれも僕の本音だ。
 そんな想いさえ見透かすようにして、あなたは……それでも言うの? リーダー。
 
「……私達が前に進むためにも。この戦いは必要だよ。お互い死力を尽くしてぶつけ合うんだ、何もかもを」
「…………」
「戦おう、ソウくん……ソウマ・グンダリ。私達の止まった時計を今、動かす時が来た」
 
 必死ささえ湛えた目で、僕を見据える。レイアは本気だ、嫌でも分かるよ。
 僕たちが、前に進むために。3年前に止まった時間を、動かすために。
 
 ──そう言われてしまうともう、僕には頷くしかできなかった。
 レイアとの、一世一代の決闘、だよ。