レイア、ウェルドナーさん、リューゼの3人が何も見えない暗闇の中をランタンで照らしつつ進んでいった、ほどなく姿が見えなくなる。
 彼女らの調査とエリア制圧が終わるまで、僕らはしばらく待機だ。これで万一モンスターとかがいたら、速やかに僕らはエレベーターを閉めて非戦闘員を護るよー。

 緊張の空気が流れる中、一人レリエさんはやはり物憂れな様子でいる。古代文明の今、残った痕跡がこれから判明するかもしれないんだ。まだ見ぬロマンを眼前にしている冒険者達よろしく能天気にはしてられないよね。
 僕の視線に気づいて、彼女は微笑みを向けてきた。力なくも、新世界旅団の面々に小さくこぼす。

「……さっきも言ったけどターミナルからは、外界が一望できる。もうすぐ分かるのよ、古代文明の、今の姿が」
「レリエ……」
「風化して跡形もなくなっているのは分かる。そこは仕方ない、というよりそれはそれで、って感じなのよ。世界を滅ぼし、しかも蓋までしてしまった罪深い私達だけど……悠久に近い時の果てで、自然に還ることだけは許されたのかなって。安心できるから」

 自業自得と言って良い末路を迎えた古代文明。とはいえ一個人であるレリエさんが、生き残りとしてそうまで気に病んでいるのは辛い話だよー。
 それに加えてまた別の懸念も、彼女にはあるみたいだった。どこか顔色悪く、深刻な面持ちでつぶやく。
 
「今、一番怖いのは……神が、もしもまだ少しでも残っていたら。生きていたら、ということ」
「え……でも、ナンタラ言う計画で赤ちゃんソウマ殿がその神の力を封じたと聞くでござるよ? さすがにそんな状態で数万年も生きちゃいないでござろう」
「それはそうなんだけどね? どうしても、過去を思えば思うほどに、死んでないんじゃないか、生きているんじゃないかって想いが、あるのよ……」

 ……トラウマ、ってやつだねー。レリエさんは古代文明にいた頃、おそらくは神を直に目撃しているんだろう。そしてその不死性、無限性、何よりもすべてを食らうおぞましささえも。
 それが傷になっていて、未だに彼女を苦しめているんだ。何万年という時間を過ぎてなお、ソレはまだ健在で牙を研いでいるのではないか、って。

 レイアから聞かされたなんか僕に関係してる計画から推測すると、おそらくは僕の目覚めとともに神は滅んでいるはずだ。
 はずなんだけど、こればっかりはねー。実際がどうであれ、怖いものは怖いのは仕方ないし。
 僕らとしてはもう、レリエさんを気遣って労るしかできないのが悔しいよー。
 
「みんなー、このエリアは特に問題ないよ、虫の子一匹いなさそう! エレベーターから出てきていいよー」

 ──と、遠くから聞こえる声。レイアだ。ランタンの灯火とともにうっすら姿が見える。
 どうやら異常、というか敵対的なナニモノかはいなさそうだ。まずは一安心だねー。

「わかったー! ……レリエさん、行こう」
「ソウマくん……」
「きっと今日、この時が訣別の時だ。僕にしろレリエさんにしろ、他のこの場にいるみんなにしろ。今までのことに決着をつけて、新しい風を浴びるための今なんだ。勇気を出して、一緒に行こう?」

 僕は一歩踏み出して、レリエさんに手を差し出した。一緒に勇気を分かち合おうと、そういう意味さえ込めた手だ。
 僕だって正直なところ、不安がなくもない。さっきからやたら後回しにされている僕の秘密の残りとかさ、何が飛び出してきてもおかしくないんだもの。
 この期に及んで実はやっぱり僕はモンスターでしたーとか言われたら泣くよ? 年甲斐もなくガチ泣きするよ?

 そのくらいやっぱり不安なんだけど、それでも。
 それでもこの先、未来を生きていくためには、真実に向き合わなくちゃいけないと思うから。
 だからレリエさんにも手を差し伸べるんだ。それぞれ一人なら辛いかもしれない光景だって、二人なら……ううん。
 みんなと一緒なら、乗り越えていけると思うから。

「ソウマくん、レリエ。大丈夫、私達が一緒よ」
「新世界旅団はファミリィでござる。一人の問題はみんなの問題、でござるよー」
「そういうこと。みんなで乗り越えていくのがパーティってものだよ、二人とも」

 シアンさん、サクラさん、モニカ教授。
 少なくともこの3人はいつだって僕らを支えてくれるんだ。そして僕らも、この人達の支えになる。助け合いこそパーティの本質だからね。
 だからレリエさんも、ここはありがたく助けてもらうといいんだよー。
 
「分かった……私だって新世界旅団の一員だもの。今この現代を生きていくために、過去のすべてに決着をつけなきゃ、ね」
 
 みんなの温かな言葉を受けて、ついに覚悟を決めたのかうっすら微笑む。
 そして僕らはみんなとともに、エレベーターの外へと出たのだった。