「ともあれそんなわけで。そのへんのソウくんの特異性こそ、私が研究の果てに辿り着いたある仮説を立証している感じはするんだけど──」
「…………?」

 シアンさんに語りかけつつ、チラとこちらを見るレイア。なんだろ? ちょっと意味深な視線。
 僕が重力制御を多少、人よりは深く理解して使いこなしているっていうのを指して彼女は僕の特異性、ある仮説を立証する要素であると確信しているみたいだ。

 とはいえ、それは古代文明にそこまで深く関わる話でもない、のかな?
 誤魔化すように彼女は、首を振って僕に指示を下した。

「──ま、それはそれとして! はいソウくん、ちゃっちゃとやっちゃおう! もたついてるとモンスターとか生まれてきちゃうかもだよ!」
「分かった。えーい」

 あからさまに怪しいけど、仰るようにそれはそれ、だからねー。今はさっさと先に進むのがきっと、正解だろう。
 僕は集中した。僕を、いやみんなを、いやいや世界を取り巻くありとあらゆる重力を知覚して、その手綱を握る。

 重力制御──この場にいるすべての人間に、干渉している力の方向性を一時的に変える!
 同時に僕は宙に浮いた。他のみんなも同様だ! 誰一人、残さず空を飛んでいる!

「!?」
「うわわ!?」
「ござござ!?」
「ぬぁぁあんじゃぁぁあこりゃあああああっ!?」

 驚きに次々、声があがる。叫び過ぎな人さえいるほどだよ、うるさいー。
 これが僕にしかできない重力制御の真髄、特に技名とかはないけどまあ、奥義ってことで一つ。重力が関わる物事ならば、僕は大概のものさえ浮かせてみせるよー。

「う、浮いてる、私達!?」
「うわー、3年ぶりだこれ、懐かしいなー」
「うむ……以前にもまして軽やかに浮かされている。こうまで多くの人の重力に干渉するとは」
「グンダリ……ここまでのことができるのか」

 初めての人も何度か経験のある人も、それぞれに感想を述べて驚いたり懐かしんだりしている。
 僕としても、他人の重力に干渉するのなんか久しぶりだから新鮮な気分だよー。うーん、我ながら前より制御がうまくなってる気がするー。

 特に問題なく、危なげなく全員を地面から10メートルは浮かび上がらせた。あんまり高すぎると天井にぶつかると危ないしね。
 そのままの浮いた状態で、今度は湖の中心、件の扉のほうへとベクトルを向けて……と。よーしよしよし、いけるね。
 僕はみんなに呼びかけた。
 
「問題なし、そしたら行きますよーみなさーん。特に何もすることないんで、気長に空の旅をお楽しみくださーい。レイアとリューゼは引き続き露払い、必要ならよろしくねー」
「もちろん! ブラックホールを撒くだけの簡単なお仕事だね!」
「オレぁンなことできねえが、まあ……やりようはあんだろ。任せなァ」

 干渉しているうちは下手に暴れたりされても困るから、やんわりとみんなの身体を制御している。指先一つ動くだけでもいろいろ面倒なんだよねー、対応するけどー。
 とはいえレイアとリューゼは別だ。彼女達には湖の中にいるっぽいモンスター達の相手をしてもらわないと、だからねー。

 ブラックホールを生成して湖面にぶっ放すだけの簡単なお仕事とは言うものの、それができるのは紛れもなくこの二人だけだからね。
 よろしく頼むよーってお願いした矢先、さっそく水中から迫りくる気配が2つ! モンスターだよ!
 
「んぎょあらああああああああっ!!」
「ごがげぎががががががい!!」
「おっ、さーっそく来やがったな!! ぶっ飛べやァ!!」
「お仕事お仕事! いくよーブラックホール!!」

 海竜っていうのかな? 10メートルを超えてるようなバカでかいウナギが2匹、勢いよく水面から飛び出してきた。
 普通に考えれば紛れもなくSランク冒険者が総出で戦わなきゃならない相手だろう、殺気と威圧が半端ない。

 ──でもまあ、相対するのがこの二人じゃね。
 即座にブラックホールをまとわせた剣とザンバーを空中に浮いたまま、振るうはレイアとリューゼリア。
 すべてを飲み込む暗黒空洞が2つ、それぞれモンスターへと射出され……その体を、存在を、命ごと飲み込み消し去っていく!
 
「げげげええええええっ!?」
「がぎがごぐごがぎがぐっ!!」
「す、すごい……」
「……Sランクとは一括りに言っても、やっぱり頂点はやべーでござるなー……」

 一瞬で、一撃で敵を消し去る攻撃を放つレジェンダリーセブンの二人に、僕によって空をゆっくりと飛行している冒険者達は呆然とつぶやくばかりだ。
 特にサクラさんは自身もSランクだってこともあり、いろいろ思うところがあるみたいだよー。言っても彼女は対人戦闘の腕前がすさまじいから、一概に上下を決められるものじゃないと思うんだけどねー。