「ソウマ……気持ちは分かるぜ。ぶっちゃけ俺も今、すげーガックリ来てる。メルトルーデシア神聖キングダムって名前からして怪しかったのはたしかだけど、こうもあっさり架空とか言われちまうと……くぅっ」
「う、うう、うううー!」

 打ちひしがれる僕の傍に来て、レオンくんが肩を抱きしめてともに落ち込んでくれるよー。
 メルトルーデシア神聖キングダム……ともにオカルト雑誌愛好家として夢に見ていた古代文明統一王朝の正体が、まさかの夢幻だったことに二人してショックを受けてるんだよー。

 落ち込む僕らを見て、慌てたと言うかびっくりしてるっぽいのがレイアだ。
 さめざめ泣く姿は3年前の僕からは想像もつかなかったことだろう。ましてや理由がオカルト雑誌がデタラメだったってことだもの。
 困惑しきりに、汗を一筋垂らして呻いてるよー。

「えぇ……? な、なんかソウくん、さっきから思ってたけどずいぶんその、ファンキーになってない?
「ええと、その……あなたにあなたなりの3年があったように、ソウマくんにもソウマくんなりの3年があったということですよ、レイアさん。私のような新人の夢に乗ってくれるようになるほどの、3年が」
「…………そ、っか。そうだよね、調査戦隊だった頃から、当然変わりもするか……いやでもここまで号泣するのはおかしくない?」
「あ、あはは……」

 今の僕をそれなりによく知ってくれているシアンさんが、レイア相手にフォローを入れてくれている。
 そう、レイアにはレイアの3年があったように、僕含めて誰しもにもそれぞれの3年があったんだ。

 ……まあ、僕の3年間なんて罪悪感に駆られてソロ活動する裏腹で、モテたいからって学校に入学するために勉強してきたって程度のものでしかないから。
 3年前にいきなりドンピシャで古代文明への足がかりを手にした彼女とは、まるで天地ほどの差があるんだけどねー。

 そろそろショックからも立ち直り席に戻る。周囲の目が呆れ返ってたりドン引きしてたり微笑ましげだったりとするけれど、僕は元気に気分を切り替えた。
 メルトルーデシアについては残念だけど、考え方を変えればより謎深く神秘に包まれた古代文明があるってことだよー。
 そしてその答えを今からレイアが明かしてくれるんだ。こりゃ耳をかっぽじって聞かなきゃ一生後悔するよー!
 
「なんか急に元気になったね……ええと、コホン。話を戻すけど古代文明、その実態は多くの大陸に多くの国、地域、地方がありその分だけ自治体が存在していた、今あるこの世界と変わらない様相だったみたい」
「単一国家ではなかったのだな。それだけでもずいぶんな発見だが、それだけではないのだろう?」
「もちろん。そうした古代文明世界に何が起きて今に至っているのかまで、見事にすべて突き止めていますとも」

 ベルアニーさんの問いに若干のドヤ顔で答える。よっぽど自信がある時にしか見せなかった顔だ……つまりは本当に、古代文明の核心にたどり着いたっていう確信があるんだろうね。
 レイアはそして、表情を引き締めた。同時に引き締まる空気。ここからは茶目っ気なしな話だと言わんばかりの雰囲気が、否が応でも僕らの期待を高めてくれる。

 一体、何万年もの昔に何があったの?
 それを、レイアは語り始めた。
 
「ことの始まりは古代文明時代におけるとある国、とある研究所。生物に関する実験を行っていたその視察で、おそらくは偶然だろうね、とんでもないモノが生まれた」
「とんでもない、モノ?」
「うん。半永久的なエネルギーを持つ、まったく新種の生命体……当時の古代文明において課題の一つだったエネルギー不足を解決し得る奇跡の力、無限エネルギーへの取っ掛かりが得られたんだ」

 無限エネルギー……! それってつまり、どれだけ使ってもなくならない、そればかりか減ることさえない無尽蔵のエネルギーを持つ生物がいたってこと!?
 とんでもない発言に、僕らは絶句した。エネルギー、今この世にあるソレは石油や石炭、木炭なんだけど、いうなればそれらが何もないところからポンッ! と出てくる魔法のような生命体を生み出したってことなのかな、その研究所ってのは。

 夢のような話だよー。
 けれどそう思う僕に反して、レイアの顔は険しいままだった。おぞましいものを語るかのように、怯えさえ含んだ声色で続ける。
 
「その生命体は不思議なことに、何もないところからエネルギーを生み出していた。当然ながら普通の生物は生きているから他の何かを食べたり飲んだりして、取り込んだ栄養をエネルギーに変換したりする。でも、件の生物は」
「なんのエネルギーをも必要とせず、完全に何もないところからエネルギーを生み出していた、とでも? 無から有を、生み出していたと」
 
 恐るべき問いかけに、レイアもまた強張った表情で頷く。
 何も食べることもなく、しかし無尽蔵のエネルギーを生み出す──謎の生物。
 いよいよ奇妙で不気味な存在だ。僕もなんか、背筋が凍るものを覚えてきたよー……