調査戦隊の顛末をある程度語り終えて、モニカ教授は本題に戻った。
 すなわち元調査戦隊のメンバー、とりわけレイアが近いうちに、嫌でも僕らの前に現れるという発言への根拠についてだ。
 
 席に戻り、紅茶を軽く嗜む教授。
 喉を潤しクッキーを食べて小腹を満たしてから、彼女はシアンさんに語った。
 
「調査戦隊の、少なくとも中枢メンバーはソウマくんに対して基本、悪印象など持っていない。むしろ罪悪感を抱いている者さえいるほどだ……という話を踏まえてだね、団長」
「……ソウマくんに会いに、この町に戻ってくる可能性があると? レイア・アールバドはじめレジェンダリーセブンの面々が」
「その通り。いやはや、さすがにああも長々説明すれば嫌でも分かるかな、ははは」

 朗らかに笑う彼女とは裏腹に、シアンさんは緊張というか強張った面持ちで周囲を見回す。明らかに見て取れるのは不安だねー。
 古巣の仲間が、僕を目当てにやって来る。なーんて今までの僕ならまず、お礼参りを警戒するところだけど。教授の話を聞くにどうやらそういうわけでもなさそうだよー。

 実際すでに、リューゼリアなんて斥候まで寄越してきているからねー。僕と同じ孤児院出身のミシェルさんを思い返す。
 なんでも新世界旅団を見定めて、お眼鏡に叶わないなら僕を"戦慄の群狼"だかいう冒険者パーティーに迎え入れるって息巻いてるんだとか言ってたね。

 まさかとは思うけど彼女以外にもそんなノリでやってくる人、いるのかなー。新世界旅団をテストしてやる! 的なー。
 今でも僕を仲間だと思ってくれているのだとすれば、それはとても嬉しいことだけどさすがに大きなお世話だよー。僕は僕の意志でシアンさんのパーティーに入団することを選択したんだから、そこについてはとやかく言わないでもらえるとありがたいねー。

 嬉しさと裏腹の煩わしさも抱えてしまう。
 そんな僕を尻目に教授は、さらに続けて言ってきた。

「元よりレイアリーダー、ミストルティンさんの2人は折に触れて私と文通を交わしていた。内容は諸々多岐に渡れど、基本的に一点、ソウマくんの現状については必ずやり取りしていたよ」
「追放されたソウマ殿がその後、無事に暮らせているかどうかの確認……で、ござるな?」
「そう。だから私もね、分かる範囲でこの3年、彼の生活ぶりについてを具にあの2人に教えていたよ」
「…………うん?」

 なんか、今、すごいこと言わなかったー?
 レイアとミストルティンが? モニカ教授から? 僕について? いろいろ教えられていた? この3年間の暮らしぶりを?
 えっ…………

 一気に血の気が引く感覚。僕この3年間でずいぶんその、アレな方向に行っちゃってる自覚あるんですけどー。
 さすがにガルシアさんほど迷惑な方向じゃないとは思ってるけど、それでも調査戦隊在籍当時からすればほぼ別人ってくらい変わってるくらいは認識してるよー。

 そんな僕の変遷を、逐一報告してたの? 教授。
 盛大にひきつる僕の顔、を見てにんまり笑みを浮かべて彼女は、それはそれは楽しそうに話してくれたよー。

「孤児院が借金地獄から脱出できた後、しばらく抜け殻のようになってただ迷宮に籠もり続けていたこと。そこから何があったか、来いだの青春だのいきなり言い出して、ろくに言葉も発さなかったのが年の割に幼稚なトーンでペラペラ喋り始めたとか」
「あのっ、ちょっ……!?」
「挙げ句、初恋とか青春したいから学校に行きたい、勉強を教えてほしいとこの天才メルルークに頼み込んできたこと。そして実際教えてみたら、最低限の教育しか受けていないにも関わらずやけに呑み込みの早い地頭の良さがあったこと」
「うーわーでござる。筒抜けでござるなー」

 あれこれ羅列されていく、追放後の僕のこれまでの軌跡。
 借金完済後はいろいろやるせなさで迷宮に籠もってたわけだけど、そのうちにこのまま腐ってても仕方ないかーって思って、新しい何かを目標にしようと思ったんだよね。

 それで思い至ったのが、学生になって恋とか青春を楽しんでみたい。特に恋人、彼女、女の子とイチャイチャしたーい! と欲望が爆発したんだよー。
 思えばそれまで殻に閉じこもりがちな僕だったけど、そこを境に今みたいな愉快で素敵なダンディソウマくんになったんだと思う。

 しみじみ思い返すけどいやいやそれどころでなくて。
 あわあわしながら教授を止めようとするけどすでにもう遅い。ここで止めてももうレイアとミストルティンは知ってるんだものなあ、僕の変化を。
 諦めと絶望が綯い交ぜになった心地で教授を見る。トドメとばかりに彼女の言葉が続けて響いた。
 
「念願叶って学園に入学できたはいいものの、入学初日に初恋と失恋を秒で決め込んだこと。そしてそこから、やれ二度目の初恋だ三度目の初恋だと、明らかに初恋の定義を履き違えたわけの分からない戯言とともに女好きの本性を発露し始めたことまで……ぜーんぶ教えちゃってるんだなあ、これが!」