「君が追放されてすぐ、レイアリーダーはじめ中枢メンバーはエウリデの王城に呼ばれた。私も一緒だった」

 語られ始めた過去は、当然ながら僕が知らない"その後"の調査戦隊についてのものだった。
 エウリデ連合王国からの命令、あるいは脅迫を受けて誰にも告げずに調査戦隊を抜けた僕自身はその後、孤児院に借金完済分のお金を渡して一ヶ月くらい迷宮内に籠もって暴れてたんだけど……

 一方で調査戦隊のほうはそっちはそっちで、解散に至るまでに相当な揉め方をしていたみたいだった。
 教授は遠く、過去を見つめるように虚空を見つめて続けて語る。
 
「それまでの活動の功績に対しての報奨を与えるとともに、ソウマ・グンダリの追放を彼女に知らしめたのさ……長らく調査戦隊に寄生していたスラムの無能を粛清し追放した、などとふざけたことを事後承諾の形で宣告したんだ」
「寄生……何を、なんて馬鹿なことを。それは王が?」
「それと大臣だね。悪意があればまだ良かったと思えるほどに、自分達は正義を成したとでも言いたげな、苛立たしい顔だったよ」

 王族、そして貴族のあんまりな言い分とやり口に、シアンさんが不快感も露に問いかける。それに対して教授は、薄ら寒い笑みを浮かべて答えていた。

 たぶん、エウリデ連合王国としては善意からのものだったんだろうねー……悪意がゼロとは言わないけど、貴族からしたらスラム民なんて人間じゃないってことでしかないんだろう。
 つまりは調査戦隊という大木に寄生した虫けらを、よかれと思って駆除しただけ、と。そういう理屈で僕を追放したんだから、何が悪いのかってな態度だったんだろう。

 ただ、それはあくまで王族や貴族の論理であって冒険者の理屈や流儀では絶対にない。
 当然ながらレイアは怒ったろうねー。あいつは誰よりも絆を、仲間を同胞を大切にしてきた"絆の英雄"なんだから。

 ただし、だからこそどうにもならなくなることもあるみたいだけれどねー。
 追放されたのが仲間なら、残ったのも仲間。残った側に、追放をある意味受け入れる者が現れたなら──レイアはその時点で、どちらかを捨てなければならないのだから。
 
「言われてその場でレイアリーダーは激高した──しようとしてワカバに止められた」
「ワカバ姫が……まあ、彼女なら止めるでござろうな。いかに不服とも、貴族相手にその場で揉めるのは避けるでござろうし」
「ウェルドナー副リーダーも同じ意見のようで、いきり立つメンバーを押し止めつつ冷静に、その場を収めようとしていたよ……国を相手にするのはいかな調査戦隊でもリスクが高すぎる、という理由だ。まあ、合理的ではあるね」

 調査戦隊中枢メンバーの中でも、割と政治とか外交関係について明るかったワカバ姉にウェルドナーおじさん。この二人が咄嗟に止めたと言うんなら、さしものレイアも他のメンバーも止まるよねー、それは。
 実際、当時の調査戦隊はエウリデ全体を相手にしたって負けることはなかったと断言できるけど、だからってリスクや失うものがないわけじゃなかっただろうし。

 当時の僕はまるでその辺について考えることがなかったから今さらの考察になるけど、エウリデ相手に報復を選んでいたらそれはそれで調査戦隊の色合いというか、性質が変わっちゃってたんじゃないかなとは思うよー。
 さりとて報復を選ばなかったらそれはそれで今のとおりだ。詰んでたのかも知れないねー……やるせなさを感じつつ、ふと思ったことを教授に尋ねる。

「ウェルドナーおじさんにワカバ姉が止めたら、他のメンバーもとりあえずは止まるよねー……ちなみにミストルティンは?」
「ミストルティンさんはそもそもその場にいなかった……が。君が追放され、その報復をするか否かで揉めた時にキレていの一番に故郷に帰ったよ。レイアリーダーとウェルドナー副リーダーへの怒りをぶちまけてね」
 
 レジェンダリーセブンの一人、"龍炎女王"ミストルティン。
 ドラゴンの炎を宿す不可思議な武器を自在に操る炎の女帝は、気高く誇り高い人だったけどその実、仲間というものや絆ってものを誰よりも強く信じ愛していた。
 だからこそレイアの人柄や信念に惹かれて調査戦隊入りしたって経緯を持つ、Sランク最強クラスのトップ冒険者のお姉さんだ。

 3年前の時点でもすでに僕とレイアに続いて3番目、ガルドサキスと同格かちょい上くらいの位置にいたほどの実力者で、身内には優しい人柄だったから僕もずいぶん可愛がってもらえたよー。
 そんな彼女だから、僕が追放された件でどうするか揉めた調査戦隊には怒り心頭だったんだろうねー。彼女が仮に謁見の場にいたら、ワカバ姉やウェルドナーおじさんのストップも効かずにその場で大暴れは確実だったろうし。

 当時を思い出して、怖くなったのかモニカ教授が身震いしながらもミストルティンの激高ぶりを教えてくれたよー。