倒れたゴールドドラゴンに、僕はすぐさま駆け寄った。幾度となく繰り返して作業に近くなったジャイアントキリングなんだから、一々勝利の余韻とかに浸ってもいられない。
 ましてや今回はレオンくんもいるわけで、ぼさっとしてたらまたモンスターが寄ってきかねない。それも面倒だしね。
 
「……あった、あった」
 
 完全に息絶えて、横たわるドラゴンの顔面。グッチャグチャのズッタズタになってはいるものの、今回の目的である歯の部分については一切手を付けてないから綺麗なままだ。
 不揃いなギザギザした歯が並ぶ下顎の左奥、黄金に輝く歯をすぐに見つける。同時に踏み込んで僕は、その黄金の付け根、歯茎に杭打機を叩きつけた。
 
「…………ド~ン。はい、もう一発ー」
 
 歯肉をぶち抜いて、黄金の奥歯を抜きやすくする。これが案外繊細な作業で、狙い所を間違えると傷が入って大きく価値を損ねてしまうのだ。
 とはいえこの階層に来てから概ね3年、ずーっとやり続けてきて勝手はとっくに把握している。もう一点、右奥の対照となる位置にも問題なく杭を叩き込む。
 
 これだけですっかり奥歯が二本とも、付け根まで露出して取り出しやすくなった。慌てず焦らずけれど迅速に、どちらも引き抜いて持ってきた鞄に収納する。
 結構なサイズで、空っぽだったのがギッシリ詰め込む形になっちゃったー。
 
 よし、これでオーケー依頼達成。
 あとはちゃっちゃとレオンくんを連れて外界へと戻るだけだ。本当ならドラゴンの皮膚とか内蔵とかで黄金になってる部分も回収したいけど、さすがにそれは今は欲目が張りすぎている。命が最優先だね。
 一息にジャンプして、元いたレオンくんのところ、出入口付近まで戻る。
 
 しれっとやってるけどこの跳躍力も、冒険者としてやっていくのであればいずれは身に付けないといけない技術の一つだったりする。
 具体的に言うと地下10階あたりから空を飛ぶモンスターが出てくるせいで、近距離戦専門家はそれまで同様のノリで進むと普通に詰むのだ。
 
 遠距離攻撃技術を持つ冒険者ならともかく、近距離戦一辺倒でやってきた者はそこで一旦足止めを食らわざるを得ない。
 結局そうなると大体のパーティーは町に戻り、"迷宮攻略法"と呼ばれる冒険者専門の戦闘技術を学ぶ必要に迫られるわけだねー。
 平たく言うと地下10階まで到達して初めて、一端の冒険者になるチャンスが得られるって話でもあるんだけど、まあその辺の話は追々するとして。
 
 僕は問題なくレオンくんの傍に帰り、小さいながらも彼に告げた。
 
「……………………ただいま」
「……お、おかえり。いや、すっげえ……すげえよ、うん。すげえ、マジすげえ杭打ちー!!」
「!?」
 
 え、何ー? 急にテンションがすごいことになってるよー。
 すごいすごいとはしゃぐレオンくんにビックリ。たしかに新人さんからすれば結構いろいろ、珍しいものを見せたとは思うけど……この反応は予想外だ。
 瞳を煌めかせて、イケメンくんが僕にずずい! と顔を寄せてきた。あっ、素顔見られるヤバ!
 
「…………っ」
「やべーよ杭打ち、なんかもう見てて俺とは全然違かったし! なんであんなに跳べたんだ? どんな技であのドラゴンを倒したんだ?! あの炎熱くなかったのかよ、火傷とかしてないのか!?」
「…………」
「くーっ! たまんねえ! 俺が夢見た冒険者の姿そのまんまだった!! 巨大なドラゴンと渡り合い、殴り倒し、そして宝を手に入れる! マジやべえ、ヒーローだ!!」
 
 咄嗟に俯いて目元から顔から隠すけど、一切気づいた様子もなくレオンくんがやたらめったら褒めてきた。て、照れるぅー。
 
 実際のところ、今の戦闘で見せた技術はほんの一部だけだしちょっと迷宮を潜ればすぐ、身につける必要に迫られるものばかりだ。
 だからレオンくんも割と近いうち、技術自体は大したことないって気づくんじゃないかなぁー。まあ、練度は段違いだと思うからそこで僕のすごさを感じ取ってもらえればって感じですけどー。どやー。
 
「なあなあ! 教えてくれよ、どうしたらあんたみたいになれる!? 俺、あんたみたいになりてえよ杭打ち!」
「…………挑み続ける。それだけ、かな」
「挑み続ける……! 熱い! 熱いぜ杭打ち! 無口でクールなのに、腹の中はそんな熱を持ってるんだな!!」
「…………?」
 
 どうしたら僕みたいになれるか、なんて僕にとってはこの世のどんなことより難しい質問が飛んできて、当たり障りのない答えしか提示できなかったんだけどお気に召したみたいだ。
 無口でクールなのはまあ、正体バレをあまりしたくないからそう思われるのは想定済みだけど。実は心は熱いんだーなんて評価は意外だね。
 
 昔の仲間達からも"人の心を持たない哀しい生物"とまで言われてたのにー。いや言い過ぎだよねあの人達、今度会ったら殴っとこう。
 やいのやいの囃し立てるレオンくんを、もういいから出入口を登りなよと背中を押して促しながらも、僕はそんなことを考えるのでした。