冒険者ギルドでお金と、欲しいものリストにあったものを受け取った翌日――

「あぁ。お魚、美味しかったですねぇ」
「ほんとほんと。お肉ほど重くもないから、いくらでも食べられちゃう感じ」
「あぁ。あんな美味いものが食えるなんて、海の傍で暮らす連中が羨ましいぜ」
「だけどそれも、サンゴ礁あってのことなのでしょう?」
「サンゴがなくなれば、あんな美味しいものも食べられなくなるかもしれないってのに」
「密漁者は万死に値する」

 と、砂漠出身の三人は朝から、魚美味い、密漁者は敵だと言っておられる。
 昨夜は冒険者御用達の宿に泊めてもらい、魚料理を堪能した。
 その結果、魚フィーバー中。

『ほんとに美味しかったぁ』
『オ野菜トマゼマゼシタオ魚美味シカッタァ』

 三人だけじゃなく、ワームたちもアスも魚料理を気に入ったようだ。
 ルーシェは厨房の女将に調理方法をいろいろ聞いていたようだけど、砂漠だと魚が手に入らないからなぁ。
 サンドフィッシュは見た目は魚だけど、味の方は魚というようり鶏肉に近い。
 つまり肉だ。

 さすがに砂漠で魚は無理だもんなぁ。
 地底湖にしろ、アクアディーネの聖域にしろ、淡水魚がいるだろうけど、海の魚はいない。
 海まで獲りに行っても、鮮度がなぁ。

『ダカラオジチャン。海ニ行コウヨ』
『童が食べたいと言うのなら、海にも行ってやろう』
「いつのまに!?」

 町を出てしばらく歩いたところで、いつのまにかアスがフレイを呼んでいた。
 俺が呼ぶ必要ないじゃないか!

『今日から海水の蒸発作業を行うのだろう。見に行くついでだ』

 どっちが「ついで」なんだろうな。

 フレイが海岸まで運んでくれたから、一瞬だ。
 海岸から見える場所に、クラーケンが既に準備をして待っていてくれた。
 彼女に、昨日、町での出来事を伝えると、呆れたような溜息を吐いた。

『グリードだなんて……失礼じゃないかい! あんな口と触手だけ軟体魔物と一緒にしないで欲しいねっ』

 口と触手だけ……グリードってどんなモンスターなんだ。
 
「まぁしばらくは密猟者も出ないと思うよ。出たらその時は、遠慮なく船を沈めてしまえばいい」
『そうだねぇ。まぁこの辺りの海にはモンスターも出やしないから、船を沈めたって大丈夫だろうけど。あ、魚類の鮫はいるけどねぇ。あっはっは』

 鮫がいる!?
 おい!
 ジョーズがいるような海に、俺たちを入れたのか!
 あぁ、コワイコワイ。
 もう俺、ここの海に潜らないからなっ。





「あっつ」
「湿度が凄いですね」
「なんだか体がべとべとする気がするわ」
「おぉ。おぉぉ。三人とも空を見ろ。雲が出来てるぞ」

 クラーケンとアクアディーネが協力して、海水を蒸発させはじめた。
 それぞジンが風に乗せて上空へと運ぶ。
 ちなみにベヒモスくんは見ているだけだ。

 海水が蒸発しているもんだから、湿度が凄いことになってるし、そこに含まれていた塩分が体にくっついてべっとべとに。

 で、ハクトが言うので上を見てみると、もくもくと白い雲が浮かんでいた。
 おぉ、できてるできてる。

『雨雲になるまで成長させるにはもう少し時間がかかるから、あんたたちは帰んなよ』
「さすがに雲は成長促進できないしなぁ」
『そりゃ生きてるものじゃないからねぇ。あとはこっちに任せとき』

 そうさせてもらおう。

 ところで……。

「フレイ、何してんだよ」
『見て分からぬか?』
「分からないから聞いてるんだろ。ユユをどうするつもりだっ」

 なんでユユを摘まんで、海に向かって垂れ下げてるんだ!

『釣りに決まっておろう』
「それは釣りじゃない!」
『そうなのか?』
『ぼく分かりません。釣りっていつもこうやってたし』

 自分を犠牲にしすぎいぃぃー!
 ってか釣ってるのはいつもモンスターだったろう。
 海を泳ぐ魚のサイズ考えろよ。
 ユユで釣れるのっていったら、鮫かクジラ、あとシャチぐらいだろ。

『火竜が釣りなんてするのかい? 驚きだねぇ』
「いや、あれは釣りじゃないから」
『あっはっは。まぁそうだねぇ』
「ところでクラーケン。魚はその……獲ってもいいのか?」
『クラちゃんって呼んだら答えてあげるよ』

 普通じゃダメなのか!

「……クラちゃん」
『食べるために獲る分には問題ないさね。生きているものは、食べなきゃいけないんだから』
「そっか、よかった。みんなが魚料理を気に入ったからさ、集落の人にも食べさせてやりたいし、釣って帰ろうと思って」
『そうかい、そうかい。ならわたしが獲ってあげようかね』

 クラーケンは腕を一本動かすと、海面から丸い玉が浮かび上がった。
 中には魚が入っていて、そのまま浜辺に運ばれた。

『ここで内臓を取り出しておくといいわよ。鮮度が少しでも長持ちするようにね』
「ありがとうございます、クラちゃんさま」
「俺も手伝おう」
「ハクトさん、調理できるのですか?」
「もちろんだ」

 魚、捌けるのか!?
 俺は無理。やったことがない。

 いや、砂漠に魚なんていないんだし、みんな初めてなんじゃ?

 と思ったら、サンドフィッシュは見た目は魚だったんだ。
 どうやら捌き方も同じらしい。

 何十匹と魚をさばいた後、海水でよく洗ってからインベントリの中へ。
 調理方法は――

「塩焼きです。シンプルな調理方法ですが、一番美味しかったので」
「賛成。皮面に塩をたっぷり振って、カリッと香ばしく焼いたのが美味しかったわ」
「あぁ。あれは美味かった」

 と、三人の口元に光るものが見えたのは、気のせいじゃないはずだ。