「よぉし、やっと完成だ」

 雨が止んで七日目。
 居住エリアと畑を繋ぐ橋が完成した。
 橋といっても、縦割りにした丸太を数本並べて架けただけの簡素なものだ。

 ベヒモスが川の中州に土を固めた橋脚を用意してくれたから、案外簡単に作れた。
 それから崖には落下防止柵も用意。
 これで子供たちも安心して走り回れるだろう。

 一仕事終わったぁぁ。
 あぁ、肉食いてぇ……あ。

「雨だ」

 ポツ、ポツと雨が降り始める。
 ここに来て二度目の雨だ。

 この七日間、まったく降る気配がなかったから、もしかして一回きりかと不安になることもあったが。
 ちょっとほっとした。

「ユタカさん。雨です。うちに入りましょう」
「あぁ。ついでにお腹空いたな」
「ふふ。夕食までまだ時間がありますよ」
「とか言いながら姉さん、ユタカのためにおやつ作ってたじゃない」
「シェ、シェリルちゃんっ。そういうのは内緒にっ」

 おやつ! なんだろうなぁ、楽しみだ。

『この雨はこの前みたいに、土砂降りにはならないわよ』

 雨粒がしゅるしゅると収束して、アクアディーネへと姿を変えた。
 一昨日は風呂場に現れたからビックリしたよ……。水さえあれば、どこにでも姿を現せられるらしいけど、風呂場とトイレだけは止めてくれ。

「たくさん降らないのですか、アクアさま」
『そ。しょっちゅう土砂降りだと困るでしょ』

 確かに困る。
 じゃあ、今日は小雨なのか。
 アクアディーネは『明け方まで降るはずよ』と。

 この前の土砂降りは、雨音も凄くて夜も寝付けなかったり、寝ても音で目が覚めたりしたけど、今夜は大丈夫そうだ。

 ツリーハウスへ戻ると、ルーシェが用意してくれたおやつを堪能した。
 パンの上にポテトサラダ、それにヤギの乳から作ったチーズを乗せて軽く焼いたもの――ピザだ。
 
「ん、うまい。チーズ作りも上手くいってるみたいだな」
「はい。ドリュー族の奥様方がチーズ作りを経験していらっしゃったので、教わりながらなんとか作れるようになりました」

 チーズを作るのに酢を使うようだから、調味料の木で採れたお酢の種で酢を量産したっけか。
 お酢の木なんて、最初はなんだこりゃって思っていたけど、今ではすっかり馴染んでしまったなぁ。

「ごちそうさまでした。美味しかったよ」
「お口にあってよかったです」
「チーズかぁ……ミルクも手に入るようになったことだし、ケーキ作りも出来ればなぁ」

 作ったことないし、作り方も知らないけど。
 ただ、卵が必要ってのは分かる。

「けーき、ですか?」
「けーきって、どんなものなの?」
「あ、そうか。二人は知らないよな。うぅん、どんなものって言われると……甘くて、ふわふわした食べ物? ご飯の時に食べるmのじゃなくって、おやつかな」
「甘くてふわふわ……」
「なにそれぇ、想像できなぁい」

 まぁ実際に食べさせてみるのが一番なんだけど、まず作ることができないからなぁ。
 今度町に行ったときにでも探してみるか。

 そして卵だ。

 次町に行ったときには、かならず鶏をゲットしなきゃな。

 翌朝、アクアディーネが言った通り、朝には雨は止んでいた。
 そして畑の肥料作りでバフォおじさん一家のうんを貰いに行ったときそんな話をすると――。

「鶏かぁ。ここの山ん中にゃ、野生の鶏はいねぇからなぁ」
「野生かぁ。そりゃ野生の鶏を捕まえられればタダで済むけど」

 いないんじゃ仕方ない。

『鶏であれば、東の山にいくらでもおるぞ』
「え? あ、フレイ。おはよう」

 見上げると、崖の上にフレイがいた。
 いつからいたんだ。さっきは見えなかったけど。

『童は元気にしておるか』
「ここまで来てるなら、自分で確かめればいいだろ」
『む……そ、そうか。だ。だが……』

 あぁ、もう。

「おーい、アスゥ」

 俺たちが暮らす居住エリアが上昇したことで、ヤギの居住エリアと近くなった。
 それでもヤギ側のほうが少し高い位置ではあるけれど。

 大声で呼ぶと、橋の向こうまでとことこ歩いて来たアスが返事をする。

『ナァニー。ア、オジチャンダァ』

 我儘を聞いてくれるおじちゃんに、すっかり懐いているなぁ。
 フレイも本望だろう。
 だけど我儘ばかり聞いてやるなよ。
 その点、同じ父親でもバフォおじさんの方は優秀かもしれない。

 甘えさせる時には甘えさせて、叱る時にはちゃんと叱ってるし。
 見習ってほしいものだ。

 っと、その前に。

「野生の鶏のこと、詳しく聞かせてほしいんだけど」





『ンガオオォォォー』

 迫力に欠ける雄叫び(?)が、森の中に響く。
 その声は次第にこちらへと近づいてきており、俺は固唾をのんでロープを握った。

『コケェーッ!』
『ガオガオガオォォ』
『がおぉぉ』

 に、鶏だ! 鶏が来た!
 茂みに隠れ、合図を待つ。

 鶏を捕獲するための檻を用意し、アスとワームたちが追い立てて中に誘導するという作戦だ。
 俺は檻の扉を下ろすためのロープを持ち、シェリルが離れた木の上で合図を送る。ルーシェは俺のそばで一緒に待機だ。

 今か今かと合図を待つ。
 すると、ずしんっという音と共に檻が揺れた。

「今よ!」
「え、あ、おう!」

 なんだ、今のは。やけに檻が揺れたけど、いったい何羽入ったんだ。

「ふぅ。まずは一羽ね」
「え、いち……え?」

 シェリルの声に驚いて、檻の方へと向かった。
 そこには――

『コケェェーッ!!!!』

 俺の身長とそう変わらない大きさの鶏が……いた。