よし、まずは定番の牛丼からだ。

 少なめによそった白米の上にお玉で牛丼をすくってかけてランジェさんとリリアに渡す。やはりレトルトシリーズには白米がなければ何も始まらない。

「うん、こういうのでいいんだよな!」

 甘辛いタレが肉と玉ねぎと絡み合い、それが白米と一緒に口の中に広がっていく。白米とタレの一体感こそがひとつの丼を作り上げているのだ!

 はっきり言って、肉や野菜の味だけで言えば間違いなくこちらの世界の味の方がうまい。だが、ご飯にあうように作られたこのタレの味と何度食べても飽きることのないこの味は何ものにも代えがたい味である。

「おお、このタレの味はうまいな。ご飯に甘辛くて美味しいタレの味が染みこんで、肉と野菜の味を引き立たせているぞ!」

「うん、前にテツヤが作ってくれた料理に似ているね。でもタレはこっちの方が美味しいかもしれないよ」

「俺の故郷の丼ものという料理はご飯とあうことを前提にして作られているからね。この4種類の料理は白米とあう味に作られているんだよ。やっぱりこのタレと白米はよく合うよね」

 牛丼の旨さと言えば、タレの染みこんだこのご飯の味だ。ランジェさんの言う通り、俺も魚醤なんかを使って牛丼もどきを作ったことはあるが、やはり素人の俺が作ったものより、元の世界の大企業が作ったレトルト牛丼の味の方が上なんだよな。

 王都に行っていろいろな調味料を購入してきた今なら前よりもうまい味を作れると思うが、このレトルトの牛丼でも十分過ぎるほどにうまいのである。

「温めるだけでこの味が楽しめるのは本当に便利だな。カレーと同様に間違いなく売れると思うぞ」

「そうだね。鍛冶屋のグレゴさんが作ってくれた例の保存パックがあるから、カレーと同じでかなりの期間持つと思うよ」

 例の保存パックを湯煎して消毒しながら、アウトドアショップの能力で保存パックの中へ直接購入することにより、真空状態で保存することができる。それならかなり賞味期限が伸びると思うので、何かあった時の非常食としても重宝されるに違いない。

 とはいえ、これもカレーと同様に保存パックで保存してどれくらい持つのかは一度確認してからの販売になるだろう。カレーはすでにひと月以上持つことが確認できているので、まずはカレーから販売を始める予定だ。

「それじゃあ他の味も順番に試してみよう」

 牛丼に続けて親子丼、中華丼、麻婆丼のレトルトシリーズをみんなで順番に食べてみた。



 結局レトルトシリーズ8人前はすべて俺達3人の胃袋の中に収まった。レトルトシリーズの1人前分はそれほど多くなく、ご飯を少なめにして食べたとはいえ、よくこれだけの量が食べられたものである。

「いやあ、お腹がいっぱいだよ。本当にどれもおいしかったね!」

「ああ。どれも今まで食べたことがない味だった。王都での料理もおいしかったが、それと同じくらいおいしかったかもしれないな」

「今までに食べたことがない味だったから余計にそう感じるのかもしれないね」

 さすがに王都で食べた料理の方が高級な食材を使っていておいしかったと思うが、どれも初めて食べる味付けだから、余計においしく感じるのかもしれない。

「ちなみに2人はどの味が気に入った? 俺はやっぱり牛丼かな」

 なんだかんだで元の世界にいた時はよくチェーン店の牛丼を食べていたことが多かったし、シンプルだけれどこの牛丼のタレの味は好きなんだよね。

「僕はこの麻婆丼って味だね。他のは多少似た味の料理を食べたことはあるけれど、この料理は初めて食べる味で本当に驚いたよ。少し辛いけれど、それがこの薄い味のご飯と本当によく合っているよ」

「私はこっちの親子丼という料理だな。卵をこんな形で食べたのは生まれて初めてだ。最初はちゃんと火が通っているのか少し気になったが、実際に食べてみると本当においしかったぞ」

「ふむふむ、なるほど。参考になったよ」

 確かにこの世界で麻婆丼や親子丼といった料理は今まで見たことがない。

 麻婆丼については、そもそも赤くて辛い唐辛子は王都でしか見たことがないし、それを使った料理なんかの研究がまだされていなかったのだろう。それに白い豆腐も初めて見ると言っていた。目新しさでいうと麻婆丼が一番珍しいかもしれない。

 親子丼はそもそもこの世界で卵を生や半熟で食べるという習慣がないため、初めは2人とも少しためらっていたが、出汁が入っているからしっかりと火を通しても固まらないと説明したところ、おいしそうに食べてくれた。親子丼は出汁の効いた半熟でトロトロの卵と鶏肉がご飯と絡んで本当においしいんだよね。

 親子丼を販売する時にはちゃんとその辺りの説明を一緒にしないといけないな。その辺りはランジェさんやリリアの意見はとても参考になった。

「実際にはひと月くらい持つかを確認してからの販売になるだろうね。とりあえずどれを販売するかは他のみんなの意見も一緒に聞いてみよう。さて、お腹はいっぱいだけれど、ちょっとしたお菓子くらいは入りそうかな?」