男子校に通う僕、西守(にしがみ)(とおる)は、無口で無愛想だ。

 一緒に住んでるばあちゃんも時々わざとらしくため息をついて、僕の愛想ない態度をたしなめる。

「なんでこんな風になっちまったのやら。なんまいだーなんまいだー」

 仏壇の前に座ったばあちゃんは、チーンと軽やかな音を響かせた。

「行ってきます」

「透、プランターに水をあげといてよ。お前の仕事だよ」

「わかったよ」

 ばあちゃんに作ってもらったお弁当を手にして、僕はやっぱり不愛想に家を出る。高校に通うようになってから毎朝この調子だ。

 面倒くさいと思いつつ、ばあちゃんにいわれたように、ジョウロを手にして外の水道から水をいれ、玄関から少し離れた場所に置いているプランターに水を撒いた。

 植えたのは昨年だったと思う。一度枯れたけど、また春になると勝手に芽が出てきていた。なんで僕が世話をしなければならないんだと思いつつ、ばあちゃんがそうしろと言うからただ言う事を聞いていた。ばあちゃんは少しだけしつけに厳しいところがある。

 でも僕はばあちゃんにとても感謝している。ただそれをどのように伝えていいかわからない。

 ばあちゃんだって、結構僕といい勝負な頑固さがあるからおあいこだ。かなり堅物で見かけもいかつい。最近の老人は元気で若く見える人が多いけど、ばあちゃんは六十歳を過ぎたばかりで、すでにどこぞの種族の婆様のように貫禄たっぷりに皺が多く目つきも鋭い。それが威圧的に怖く見える。本当はそんなんじゃない、思いやりのある人とわかっているけど。

 僕を引き取ったからには義務もあり、それなりに僕の世話をしてくれる。でも僕はばあちゃんに好かれるつもりはなかった。自分から頭を下げて一緒に住まわせてと頼み込んだにも関わらず、僕は笑顔をばあちゃんに見せたことはない。

 ばあちゃんは多少気に食わないかもしれないが、僕が一緒にいることは決して悪くないと思っているはずだ。そうじゃなかったら、血のつながってない僕を住まわせることなんてしなかったと思う。

そう、僕とばあちゃんは見かけは孫と祖母に見えても赤の他人同士だった。


 山が連なり、畑や田んぼが広がるような田舎で、僕は自転車を走らせて駅に向かった。慣れない土地での生活は僕にはちょうどいい。不自由さを感じながら毎日を過ごすと気がまぎれるからだ。単調でスムーズな生活は余計なことを考える隙を与えてしまう。