私は恥ずかしくて、嬉しくて、涙ぐみながら照れ隠しに笑った。
「みなみの弟妹なんて……気が早いなぁ」
「家族を増やしたいんだ。おまえも俺も兄弟がいないだろう?だから、みなみにはたくさん弟妹を作ってやりたい。うるさいくらい賑やかな家族にしたい。おまえが子どもたちを追い掛け回すのを見たい。みんなでわいわい食卓を囲みたい。
もし、俺かおまえのどちらかが先にいなくなっても、幸せだって胸を張れる家族を作りたい」
父親を亡くした彼の望み。
誰も残される不安と悲しみに沈んでしまわないように。
この人を知った今なら、その気持ちが痛いほどわかる。
「俺とおまえなら、そんな家族が作れるんじゃないかな」
部長は私を真っ直ぐ見つめて話す。
突如やってきた赤ちゃんが、上司と部下だった私たちを結んでくれた。
私たち二人は家族になり、そしてメンバーは三人に増えた。
彼はもっともっと絆を、愛を増やしたいんだ。
そんな風に思ってくれることが嬉しい。
責任をとるための結婚。
命を肯定するための出産。
最初はそれが理由だった。
今、すべてを超えて、私たちは本物の家族になったんだ。
「はい」
私は立ち上がった。
部長も立ち上がる。
私は間近く彼を見上げ、答えた。
「私たちなら作れます。そういう幸せな家族。
ずっと、ずっと、ゼンさんの奥さんでいさせてください」
部長が私を勢いよく抱き締めた。
私も部長の首に飛びつくように腕を回す。
「佐波、愛してる!幸せになろう!」
「ゼンさん、私も愛してます!
私、みなみを産んでよかった!!
ゼンさんと結婚してよかった!!」
未来を懸けて選んだこの道。
私は自信を持って言える。
間違いじゃなかった。
大正解だった。
私は愛する人の妻になり、
愛する娘を産んだ。
そして、私たち家族はスタートを切ったばかりだ。
私と部長は何度もキスを交わし、いつまでも抱き合っていた。
愛と幸福が世界の隅から隅までを埋めていた。
ふと、気付く。
ベビーベッドのみなみが目を開けてこちらを見ている。
私と目が合うと、プイと余所を向いた。
その顔は大人びたすまし顔。
『見ないフリしてあげるわ』
そんなことを言っているように見えて、私は思わずふき出した。
<了>
出産という奇跡は、女性が味わえる人生最大級のドラマです。
仕事上関わる多くの妊婦さん、ママさんのおかげで本作はできました。
ママには出産を思い出すきっかけ、
いつか……と思う女性には興味を持ってもらうためのツール、
妊婦さんには無責任にならない程度の情報提供、
こんなテーマでお送りいたしました。
楽しく愉快に!
も大事なテーマです。
笑って読んでいただければ、幸いです。
佐波と部長、そして産まれたみなみ。
三人がどう暮らしていくか……それはまた別のお話としまして、
【ご懐妊!!】
これにて幕とさせていただきたく思います。
お読みくださった多くの皆様に感謝いたします。
ありがとうございました!!
2014.5.17
砂川雨路
「佐波」
「なんですか?」
「いい加減、敬語はやめろよ」
「あー、これ、もう習慣なんですよねぇ。まあ、いいじゃないですか。あんまり敬ってるつもりもないですし」
「それもどうなんだ。上司命令だからやめろ」
「上司命令にしちゃったら本末転倒ってやつじゃないですか?」
「………確かに」
「まー、徐々にやめますよー」
「……佐波」
「なんですか?」
「そういうことは……1ヶ月経たないとダメなんだよな」
「……それは本気でダメですよ。私、出口縫ってるし、みなみが入ってたところもまだ全然縮んでない(と思われる)んですから!」
「だよな。うん、わかってる」
「頼みますよ」
「善処する。前向きに、うん。努力……しようと思う」
「なんか、言い方に自信なさそうだな!」
「毎晩おまえが隣に寝てて、自信なんかあるか!」
「逆ギレ!?」
二人の恋は始まったばかりです。