「ただいまー」
学校の前のT字路で伊勢と別れた私は、「赤い人」の恐怖から逃れるように、急いで家に帰った。
リビングで、テレビを見ながら談笑しているお母さんと妹の真冬。
私が何を言っても、ふたりとも返事をしてくれない。
いつもの事だけど、私は家でも、誰とも会話ができない。
お弁当箱を鞄から取り出して、自分で洗うのもいつもの事で。
それでも今日は、少しうれしい事があったから、洗い物を済ませると自分の部屋に戻って、携帯電話を開いた。
伊勢高広
お母さん
お父さん
真冬
私の携帯電話の電話帳に登録された4件の名前。
家に帰るまでに一度電話をして、メールアドレスも教えてもらって。
電話帳の一番上にある、家族以外の名前がうれしくて、思わずフフッと笑い声がこぼれる。
「これって、私の初めての友達だよね?」
誰に言ったわけでもないけれど、狭い部屋に置かれた小さなベッドに横になり、ずっとその文字を眺めていた。
皆、友達とはどんなメールをしてるんだろ?
いつメールすればいいのかな?
そんな事を考えながらメール作成画面を開いて、文字を打っては消しを繰り返して、結局は送信する事ができなかった。
悩んでいる間に時間が経ち、夕食をとる為に一階に下りた。
伊勢があれからどうなったのか、「赤い人」を見ずに、明日香って人を探せたのか。
それだけが頭から離れずに、家族の会話も上の空で食事をとっていた。
別に、私が会話の中心になる事はないから良いんだけど。