彼はいた。
今日は深緑のカーディガンをはおり、新書の棚を見上げてる。
何を借りるの?
それ?
あぁ
それは私も読みたかったの。
同じだね
趣味は同じだね。
どの作家が好き?
制覇した作家はいる?
残念だった作家はいる?
沢山聞きたいのだけれど
私は今日も彼の後ろを追うだけ。
彼は何度も時計を見上げ
今日は足早に新書をひとつと
私がハズれたと思う作品を借り、カウンターへ向かう。
私も慌てて近くから『高校男子のお弁当』という本を引ったくり、カウンターへ向かった。
彼の背中に立つ。
背が低い。その低さが愛おしい。
私も低いからいいか。
何の香り?
貴ちゃんは
いつもいい香りがするけど
のび太君は
古臭い消毒液の香りがする。
ファブリーズの香り?
タイムふろしきの香り?
クンクンしていると
カウンターの司書の人がのび太君に向かって
「……先生」って言った。
内容はわからないけれど
そこだけ聞こえた。
先生なのか
のび太君。