菫にはピアノの才能があった。
小学校の音楽の先生がそれに気づいて、勧められてピアノ教室へ通い、
実家には大きなピアノもやって来た。
菫はめきめきと、その才能を開花させていったが、
同時に家計は火の車。
菫と違い、平凡で何の才能もなかった私は、家計を助けるために高校生の頃からバイト漬け。
父も母も働きづめ、
菫が音大に進学する時なんてそれこそ大変だった。
家族が一つになって、無事に菫は東京の音大へ進学。
仕送りやら何やらで大変なのは変わらなかったけど、父も母も私も菫の夢を応援していた。
マイペースでぼんやりした子だけれど、
ピアノを弾いている時は別人のようにキラキラと輝く菫が羨ましくもあり、誇りだった。
なのに、だ。
菫は突然、それも勝手に、1年と経たずに音大を辞めてしまった。
訳が分からず父も母も大激怒。
私は、ただ呆然。
菫は何の説明もすることなく、実家にも帰らず。
ショップ店員になってみたり、キャバ嬢になってみたり、どれも長続きしなくて――。
そして、半年前。
バイトでお金を貯めたらしく、そのお金でハワイへ行ったまま帰ってこない。
「こっちのほうが合ってる」とメチャクチャな手紙一通寄越したきりだった。
変わり者の菫は、
才能があるから変わり者なんだと思っていた。
が、しかし。
菫は純正100%の変わり者だったようだ。