「もしかして…この女優って……。」


「ッ!…俺は、生まれる前から忌まわしい存在なんだよ。ハッ、おまけに大嘘吐きだからなっ!!嘘吐いて!ここに来て!!」


「千早!それはっ!!」




再び一歩近づくと、千早は叫んだ。



「来んじゃねぇよ!!」





背を向けて、玄関へ走る千早。







俺は追いかけて、その背中を抱きしめた。



「千早っ!!」






でも、それはするりと躱される。



千早の拳が飛んできて――俺は床に沈んだ。







一瞬、俺を気にかけた千早。



けれど、それからすぐに走りだして、外へ飛び出してしまった。








ゆらり、揺れる世界。





追いかけねぇと。

このまま…このまま一人にするわけには……。












外へ飛び出す。






闇が広がる世界に、
千早の姿はもうどこにもない。



ただ、激しい雨が打ちつける。


途方もなく、冷たい雨が。














怖かった。

このまま千早が消えてしまいそうで。
もう二度と戻って来ねぇ気がして。





何をしていたんだろう、俺は。


あんなに、千早のすぐ傍にいたくせに。




俺の想像よりも、ずっと――千早の傷は、痛みは、根深かった。