『あ…沢崎さん?』
『こんばんは。』
『あ、こんばんは…。』
画面に映る沢崎さんは帽子を目深に被っていた。
『夜遅くにスミマセン。この間挨拶したきりで、きちんと引っ越しの挨拶もしていなかったので。』
『あ〜、わざわざ、すみません。今、開けますね。』
私は、そう言ってインターホンを置いた。
「お客さぁん?」
ジンは床に座り込んだまま、聞いた。
一瞬にして、自分がついさっきまで描いていたピンクな妄想が復活してしまう。
後ろめたくて、私はしどろもどろになりながら言った。
「あっ、えっと、……お隣さん!」
ジンから返ってきたのは、
「ふ〜ん」というどこか素っ気ない返事。
けれど、それを気にする余裕もない私は逃げるように、玄関へ向かった。